松下電器産業株式会社は4月6日、ITによる経営改革のこれまでの業績と、今後の取り組みについての記者説明会を行った。
2000年6月に中村 邦夫氏が同社代表取締役社長に就任して以来、「IT革新なくして経営革新なし」との中村氏の言葉の下、“破壊と創造”をキーワードにした2001年から2003年までの「創生21計画」、そして2004年度から2006年までの中期計画「躍進21計画」に取り組み、2010年にはグローバルNo.1レベルの企業を目指した経営改革を行っている。
この間の業績推移では、営業利益率ベースで2001年度には2.8%のマイナスにまで落ち込んだが、2003年度見通しで2.6%まで持ち直した。当初目標としていた5%には届かなかったことから、“窮地は脱したが、危機はまだ続く”と表現されている。
■ 2003年までの3カ年中期計画「創生21」の成果
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松下電器産業株式会社 IT革新本部 副本部長 牧田 孝衛氏
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創生21計画では企業構造・プロセスの改革のため、調達、生産、物流といったSCMの軸に326億円、商品の企画から開発、製品化までの軸に188億円、宣伝やマーケティングから営業までの顧客対応の軸に67億円、このほか人事や経理といった間接部門に41億円、グループ全体では3年間に1,153億円の投資を行い、これまで、生産性向上などの内部集計によると836億円の成果が上がっている。これについて同社IT革新本部 副本部長の牧田 孝衛氏は、「投資後1年で成果の挙がる見通しが見えるレベルになった」とした。
このうちSCM改革では、グローバルレベルでの需給コントロールが可能となり、これまで流通部門からの発注を受けた回答までの事務処理に要する期間が、従来の15日から48時間へ短縮した。また材料調達から生産完了までの製造リードタイムも、これまでの月次から週単位とし、リアルタイムの進捗管理を行うことで、国内工場ではPanasonic系で2週間、National系工場で3週間を実現するなど、SCMでの市場変化対応力の向上を果たし、513億円の成果をあげている。
一方海外の、特にNational系工場では、製造リードタイムが4週間以上、長いところでは8週間を要しており、同氏は「これをいかに短くするかが今後の課題」とした。
また戦略製品である“V商品”を柱とした製品開発では、開発マネジメントに価格的手法を導入、手戻りをなくすなどの工程ノウハウも確立した。これにより薄型TV「VIERA」シリーズの全21機種中13機種を2003年9月より一斉発売することが可能になった。またワイド液晶TV「LX10」では、開発の開始から市場投入までの期間を26%、投資回収までの期間を45%短縮したという。今後はこうした開発プロセスの革新を、ノンフロン冷蔵庫や携帯電話などでも取り組んでいくとのことだ。
V商品のマーケティングでも、CMやポスターといった広告とWebサイトを連動させたブリッジプロモーションや、国内量販店向けに販促情報をWeb提供する「量販Web」といった試みが成功しており、今後は欧米をはじめとしたグローバル地域で、同様の手法による展開を図る。
また2003年1月、4月と段階的に「30の基幹システムをはじめ、1000以上のデータベースが影響を受け、一万人以上が異動する、グループ始まって以来の規模」での事業ドメインの再編も行われた。
■ 海外への横展開を重視した今年度からの3カ年計画「躍進21」
2004年度より開始される“躍進21計画”では、3年間にグループ全体で1,200億円の投資が行われる見通しだ。創世21計画において投資回収を果たしている48%のドメイン・地域を先行事例に、特に海外への横展開を図るとともに、テーマの選択と集中を行うことで、IT革新成果を最大化するマネジメントを行う。
そして「ドメインごとにばらばらで、スピード、柔軟性がない」情報基盤全体について、経営のためのITアーキテクチャ、いわゆるエンタープライズアーキテクチャ(EA)としての体系的な再構築を本格化させる。
ここでは、グループ統一のIT基盤のほか、データ、アプリケーション、ビジネスプロセスの各項目について、ドメインごと、または個別での共通化・最適化を行い、「スピード経営と変化対応力の強化、また15%のコスト削減を図る」という。
同氏は、「IT革新が経営戦略と一体にならないと、きれいごとの構想で終わり、導入での深堀りができない」としたほか、「単なるシステム導入構築プロジェクトに変わってしまうこともある」とこれまでの失敗例を述べ、「上流工程からのきちっとした意思決定が必要だ」とした。
さらに生産拠点としてだけでなく、市場としても1兆円規模にまで拡大している中国でのIT改革にも重点が置かれる。特に「日中韓での連携を強化し、物流プロセスなどのSCM最適化を行いたい」とした。このほか、ITを活用してCO2排出量をリアルタイムモニタするなどの地球環境に配慮した取り組みも行われるという。
最後に同氏は、「2010年にはITによる経営改革が終わりなき活動として常態化し、徹底したIT生産性を追及するレベルを目指す」と述べた。
■ URL
松下電器産業株式会社
http://www.matsushita.co.jp/
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( 岩崎 宰守 )
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