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富士通棚倉氏「ひとにやさしい技術がグリッドコンピューティングのゴール」

~Grid World 2004 ランチセッション

 4月27・28日の2日間、株式会社IDGジャパンとグリッド協議会の主催で開催されている「Grid World 2004」において、「変化するビジネス環境と次世代IT基盤」をテーマに、富士通株式会社 経営執行役の棚倉 由行氏がランチセッションを行った。


製品へ付加価値を生む顧客視点の改革が必要

日米経営層へのIT投資への目的意識調査
 同氏は情報化投資に関する2003年の総務省調査を示し、「米国の経営層はコスト削減と売上拡大の両面で目的意識を持っているが、日本ではコスト削減に集中している」とした。

 しかし同氏の実感としては「コスト削減は基本的な要件として、経営のスピード化、コアコンピタンスへの集中、環境変化への対応といった攻めの、勝つためのIT活用の視点が強くなってきている」という。

 そして「市場環境の変化を吸収し、製品へ反映することで付加価値を生む顧客視点での革新を行うには、RFIDによるトレーサビリティの活用なども含めて、接点である現場からのリアルタイム対応を可能にすることが重要」とした。同氏は「顧客ニーズの多様化で市場が複雑化した今は、経営での予測・計画が難しい時代。だからこそ価格変動やトレンド情報、世界情勢といった市場の変化をすばやく吸収し、変化に対応する必要がある」と述べた。


必要に応じたIT活用へのニーズの高まり

富士通株式会社 経営執行役 棚倉 由行氏
 きたるべきユビキタス環境では、「1兆以上の個々の製品それぞれがネットワークに接続され、デバイスは爆発的に増加する」とし、「従来の発想と違う、数の質的変換が起こるだろう」と述べた。そうしたなかでは、「サプライチェーンもエンドトゥエンドで社会インフラ化し、これを支えるITインフラの信頼性、安定性への保証が求められる」と語った。

 同氏は、年間15億個といわれる航空手荷物のRFIDを用いたトレースサービス、またPDAなどのデバイスにより場所の制限をなくして顧客対応をスピード化するワークスタイル、保険支払いと地図を関連させた新商品開発のための事故発生解析、短時間のリスク評価を実現する金融シミュレーション、世界各拠点に存在する調達、生産、在庫管理データの横断活用、パブリックのWebサービス活用によるコアコンピタンスへの集中といった各種の例を挙げ、「コンピューティングパワーや情報、サービスの組み合わせを必要なときに安定利用したいニーズがある」とした。

 また現実的問題として、システム管理運用での障害原因の究明、トラブルの影響範囲、パッチ適用などの課題や、Webサービス提供における突発的なアクセス増加への不安もグリッドにより解消できるとした。そして「グリッドへの関心は、当初のコンピューティンググリッドからデータグリッドへ、大学などの研究期間から、より広い業種へ、この半年から1年で関心が広がっている」とした。


富士通の取り組むグリッドコンピューティング技術

パラメトリックスタディなどのコンピューティンググリッドへの取り組み

障害をサービスレベルで把握するなどのデータセンターグリッドへの取り組み
 富士通のグリッドへの取り組みとして同氏は、「コンピューティンググリッドの適用を要するような高負荷なアプリケーションでは、数万、数十万のジョブのパラメータを比較検証することで効率的にまとめるパラメトリックスタディの技術が非常に重要と見ている」とした。仮想化されたリソースを負荷変動に応じて供給するプロビジョニングをこれに組み合わせることで、同社ではLSI開発におけるエラー率シミュレーションで期間を1/4、ジョブ管理工数を1/3削減したとのことだ。

 またデータグリッドの領域では、「膨大な天体観測データをインターネット環境を用いて活用できるほか、天体を理論的に把握できるシミュレーションが可能なシステムを国立天文台と共同で開発している」という。

 またサービスグリッドは、「顧客への業務機能をサービス化し、付加価値サービスを取り込み、エンドユーザーに提供する」もので、複数の保険会社のシステムを組み込むことで相互比較を可能とした見積比較システム、入荷情報をPush配信するなどの営業活動支援を行うSFA発注システムなど「業界固有のプロトコルを返還し、顧客状況に合わせて提供する」という。

 これら3つのグリッドを支えるのが、データセンターグリッドとなる。同氏は「これまで性能向上に力を注いできたが、これからは信頼性も重要」とした。同社では提供サービスの稼動状況を可視化し、ミスや機器障害による問題発生時に数分でトラブルを検出できる機能を提供している。またサービスレベルの影響も通知できるという。

 また負荷の高まりや応答時間を監視し、劣化傾向を検出してサーバープールからリソースを増設するプロビジョニングの機能や、負荷変動や障害発生への対応をポリシーに基づいて自動化する機能など、グリッドに不可欠な機能の開発と実用化も進められているという。

 そしてこうした機能を、異機種混在環境や分散配置されたデータセンター間に提供し、災害にも対応可能なグローバルグリッドの研究開発も行っているという。同氏は「この際にはジョブスケジューリングやリソース管理、高信頼メッセージングなどの仕様を標準化する必要がある」とし、富士通でも経済産業省のビジネスグリッドコンソーシアムに参画するなどの取り組みを行っている。

 同氏は「オンデマンドのアウトソースによる提供が重要な切り口になる」としながら、「Interstage、SystemWalkerといったミドルウェアによる横断的なソリューションプラットフォーム体系“TRIOLE”で、こうしたグリッドコンピューティングを提供していく」と述べた。そして「最終的にはコンセントにつなぐだけで手軽に利用できるような、ひとにやさしい技術がグリッドコンピューティングのゴール」と語った。



URL
  Grid World 2004
  http://www.idg.co.jp/expo/grid/
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/


( 岩崎 宰守 )
2004/04/27 19:57

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