4月27・28日の2日間、株式会社IDGジャパンとグリッド協議会の主催で「Grid World 2004」が開催された。28日には、日本オラクル株式会社のマーケティング本部 システム製品マーケティンググループ シニアマネジャー 杉崎 正之氏が「管理コスト削減の切り札!エンタープライズ・グリッドの魅力 ~Oracle 10gでGridが実現~」と題したランチセッションを行った。
■ Oracleが経験した、2度の「転換点」
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マーケティング本部 システム製品マーケティンググループ シニアマネジャー 杉崎 正之氏
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杉崎氏によれば、オラクルにとっての大きな転換点は過去2回あった。まずはじめは1995年のこと。米Oracleのラリー・エリソンCEOが全社員にメールを送り、「これからはインターネットコンピューティングの時代がやってくるので、Oracle製品すべてをインターネット対応にするのだ」とその中で言っていたという。当時、インターネットはまだ使われはじめたばかりで、まだまだ学術的な意味合いが強く、また日本ではクライアント/サーバー型のシステムが全盛の時代だった。社員のほとんどはインターネットでビジネスができるのだろうかと半信半疑の状態だったが、Oracleではそれに対応するため、Oracle 8を出荷している。
そのOracle 8では、顧客から自社システムまでの一気通貫的なネットワークを構築するために、VLDB(Very Large Data Base)と、大量のユーザーがアクセスしても落ちないデータベースのありよう、VLUP(Very Large User Population)をサポートした。そして1999年にはOracle 8iをリリースし、Javaの実行環境をデータベースのカーネルに埋め込んでいる。また「XML対応も大きなこと」と杉崎氏は述べる。
そして、2度目の転換点は1999年。またエリソンCEOよりメールがあり、今度は「ユーティリティコンピューティングに対応させること」になったという。「実際にインターネットコンピューティングからグリッドコンピューティングになると、いろいろと問題が発生する。世の中のサーバー群などの電子デバイスが有機的にすべてつながることになるため、データのトランザクション制御をどうするかという問題を考慮しなくてはいけない。また、それを制御するアプリケーションサーバーやアプリケーションはどうなるんだということで、さまざまな議論がなされた」(同氏)。
これらを受けて2001年にOracle 9iが登場しているが、ここで徹底して重視したのは「落ちない、止まらないこと」だという。システムが止まる要件には、定期メンテナンスや設定変更などによる「計画停止」と、トラブルや緊急メンテナンスなどによる「計画外停止」が存在する。Oracle 9iでは、可用性とスケーラビリティを向上させる「Real Application Clusters(RAC)」やディザスタリカバリのための「Oracle DataGuard」が実装されており、計画外停止に対して備えている。このうち特にRACは有名になったが、杉崎氏は「実はその陰に重要なことが隠されている」と語る。
それは、「計画停止」をなくすためのシステムだ。「メモリ変更、300あまりあるパラメータ変更も、オンラインで行えるようにし、止まらないための機能を提供した」と杉崎氏は今までの取り組みを説明した。
■ 既存システムの問題は分断化
では、Oracle 10gでは何が変わるのだろうか。そのためには、まずITシステムの現状と問題点を見る必要がある、と杉崎氏は述べた。「システムの導入パターンは、ここ数十年変わっていない。構築の要望がユーザーからあった場合、SIerなどは、ハード、ソフト、開発ツールなどを選定して、それらの生産性はどうか、などを考え、そのテスト、運用、保守などをどうするかを考慮する。この繰り返しだ」。
こうしたことが行われてきたため、社内のシステムは分断化されてしまった。「最近では、サーバー統合ということが言われているが、一部上場企業でも17%しか行われていない。BI活用は1%未満だし、ファイルサーバーやメールサーバーにいたっては、まったく統合できる環境にない」と杉崎氏は語り、分断された環境が多すぎる、と問題点を強調する。
つまり、特定の繁忙期にしかキャパシティを使い切らないシステムを個々に導入してしまっているため、例えば経理のサーバーが3月にきゅうきゅうとしていても、その隣にあるSCMサーバーは余裕しゃくしゃくで動いている、ということがよく見られる。「今、ITの平均使用率は40%ほど。つまり企業のリソースを有効に活用すれば、60%のコストを削減できる余地がある」と杉崎氏は指摘する。
■ 10gとグリッドによる“仮想化”が課題解決のポイント
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Oracle 10gで自動化される主な機能
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続いて同氏は、「この状況を解決できることがグリッドのテクノロジだ」とし、エンタープライズグリッドを利用して、企業内に分散しているリソースを仮想化し統合することが必要、と述べた。また「よく、サーバー統合したいのだが、それでROIがどうなるのかがわからないとするお客様がいらっしゃる。当然、サーバー統合は実行する際に費用がかかる。金額によっては導入に踏み切る決断ができないところもあるだろう」とも話す。
杉崎氏は「Oracle 10gでは、これさえ使えばサーバー、データ、アプリケーションなどの統合ができる、という方向を目指している。こうした統合の際には、企業内のサーバーをすべて統合管理しなくてはならなくなるため、管理コストの低減がキーポイントになるだろう」と述べた上で、「すべてを仮想化することがオラクルの狙い」と説明する。同社では、基盤となるOracle Database 10g、Oracle Application Server 10gでこれを行い、また管理ツールである「Oracle Enterprise Manager 10g」で統一した管理を提供する試みだ。このツールでは、「同社の製品ばかりか、オラクル以外のOS、ネットワーク、サーバー、ストレージなどすべてのITリソースを管理する」としており、徹底的に管理コストを削減しようとする試みが見て取れる。
さらに杉崎氏は、「必要なときに必要なだけソフトウェアが伸縮自在に動く、自動化の仕組みも提供している」とする。加えて、「今まで煩雑であったストレージのチューニングも自動化されているため管理者側で考える必要がなくなっているし、“管理者をアプリケーションサーバー内部に入れ込んだ”ADDM(Automatic Database Diagnostic Monitor)機能も10g製品群の特長といえる。これらによって、Enterprise Manager 10gは数百台、数千台のサーバーを一元管理できるようになった」とそのメリットを強調。「Oracleでグリッドを構築する、のではなく、Oracleを使えば自然とグリッドが実現するという世界を作り上げていきたい」と述べ、講演を締めくくった。
■ URL
Grid World 2004
http://www.idg.co.jp/expo/grid/
日本オラクル株式会社
http://www.oracle.co.jp/
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( 石井 一志 )
2004/04/28 17:12
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