5月14日に東京の帝国ホテルで開催された「GET THE FACTS SEMINAR」において、株式会社アイ・ティ・アールの代表取締役で米METAグループ アナリストの内山 悟志氏が「戦略的IT投資のための総所有コスト削減とプラットフォーム選択」と題した基調講演を行った。
■ 変化するビジネス環境への対応
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アイ・ティ・アール 代表取締役で米METAグループ アナリストの内山 悟志氏
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内山氏によれば、かつてビジネス環境の変化が緩やかだった時代は、あらかじめ立てた年度計画に従って企業活動を行い、1年・半年など一定の期間で評価をし、問題点があれば修正をするといった形でPDCAサイクルを回してきたという。内山氏はこれをバス会社型の経営と表現する。「バスの路線を決めたり、運行時間を決めたりすることは会社が決めることで、運転手はその路線を安全運転することが仕事。一定の頻度で路線や時刻は見直されるが、運転手の独自判断で隣町を回ったり時刻を変更したりはできない」。
しかしビジネスサイクルの変化が急になってきた今では、こうした活動だけでは対応できなくなっている。内山氏はこの状況を「半年後に自社の主力商品が売れ続けているか、価格はそのままでいいのかといったことは予測できないし、突然異業種や海外から競合が参入してくる、などということも起こりうる」と述べ、Sence・React型の経営が必要と説明する。これは上述のバス会社型と比較した場合にはタクシーに例えられる。タクシーはバスと異なり、「営業テリトリーや初乗り料金といった基本ルールはあるものの、いったん出車した後は天候や人の流れを判断して、各運転手の裁量で動く」(内山氏)。「日々刻々と状況が変わる中では、計画通りには実行できない。時・日単位でフィードバックして計画に反映していく必要がある」とした同氏は、「バス型」と「タクシー型」の2つをうまく組み合わせていかねばならないと主張する。
では、Sence・React型の経営に企業を持っていくためには、どういう部分を改めなくてはならないのだろうか。内山氏は、1)ERP導入などによる業務の処理能力向上・業務費用の軽減、2)ナレッジ化などによる知識の集約化・個人の対応能力向上、の2つのベクトルを示し、これを両方とも実装することで、変化に適応できる企業が実現できると説明した。ここで2)が先行してしまうと、ガバナンスが欠如し、組織としてうまく動かなくなってしまうため、まず1)の業務標準化という部分をを整備してから2)に取りかかるべきだというが、1)が進みすぎても、創造性が欠落した、方針通りにしか動けない人材ばかりになってしまう。バランスが肝心だ。
■ IT投資を評価する仕組みが必要
一方、「国内における企業のIT投資に目を向けた場合、ここ3年間は売り上げに占めるIT支出の比率が上昇している」(内山氏)。しかし、多くの企業ではITに投資できる金額が限られており、増えてきている投資を抑えつつ、必要な部分への投資をどう伸ばすかが課題だという。内山氏は、これを裏付けるために「投資の内訳を見た場合に、既存システムの維持にかかる定常費用は毎年上昇しているが、新規システム構築や大規模リプレースなどの戦略投資はほぼ横ばい」というデータを示すとともに、「企業は、自らの競争力にプラスになる戦略投資を本当は行いたいと考えている」と述べる。
続けて同氏は、「現在のIT投資では妥当性を評価する仕組みが整っていないこと」を課題としてあげた。経営者は必ずしもITの専門家ではないため、なぜ毎年費用がかかるのかがわからない。また現状では、ITが経営に貢献しているのかどうかをうまく示すのが難しいということもあり、ITは金喰い虫だと言われがちだという。「無駄遣いしているわけではなくても、わからないがために経営者はITに対して不信、不満を持つようになる。そうすると、必要なはずのIT投資に承認が下りず、企業の競争力が落ちてしまう。こうした状況を改善するためには、ITが有効に活用されていることを経営層にも理解・信頼してもらうことが第一歩」(内山氏)。
内山氏は「まず、企業の中でIT投資管理体系を作る必要がある」ということを強調する。個別の案件ごとに目標をコミットし、事前審査を行い、事後評価を定期的にするというPDCAサイクルはもちろん必要なのだが、内山氏はさらに「全体の大きなPDCA」も必要だとした上で、その理由を「全体のIT資産の有効性を確認することで、IT不良資産、つまり形がい化している部分、個々では妥当でも全体で見ると重複している部分など、無駄なところを確認できるため」と解説。IT投資は見返りを期待して行うものなのだから、10だったものを11や12にして返す必要があるとし、そのために情報部門は「IT資産を最適化して運用し、同時に経営者への説明責任を果たすこと、利用部門を啓発して活用してもらうこと」を行うべきだと述べた。
■ TCOの最適化を進めるべき
こうした中、何を基準に情報システムを見ればいいのかという点については、TCOが重要だという。「いくらPCが安くなったからといっても、企業で使う限りはPC代だけではすまない。サポート、開発、通信などの費用や、エンドユーザー自身の人件費も考慮しなくてはいけない」と語った内山氏は、企業で1人が1年間PC1台を使用した場合、イニシャルコストを中心とするハード・ソフトの費用は16%に過ぎず、サポートや開発などをあわせても40%弱しかないというデータを紹介。「同僚のサポートや、自分の調べ物、業務に直接関係ない使用などでとられる時間を考えると、年間130万円もかかっている」と述べて、見えないコストが大きい点に注意を払う必要があるとした。
ただし、TCOが少なければいいかというと、必ずしもそうではない。「偉い人のPCなどは、ほとんど使用されていない場合がある。こうした時のTCOは高くないものの、それでは意味がない」とした同氏は、続けて、日本と米国のIT活用度の差を述べ、「米国では、ある程度IT活用度が高くなってからTCOの話が出たので、その削減に注力すればよかった。しかし、日本ではまだIT活用度は欧米ほど進んではいないため、活用度を高めつつコストを削減することを考えなくてはならない」という点を強調。IT化を促進しつつ、TCOの最適化を図るべきだとした。
そしてこのようなデータを踏まえ、ビジネスのプラットフォームは維持管理、運営までの費用を見据えて、また長期的にそのシステムが主流であり続けることができるかどうか、といった技術トレンドも見極めて選ぶべきと主張。「2012年までに、ワールドワイドのデータセンター全体におけるサーバーOSの割合は、Windowsが45%、Linuxが35%、商用UNIXが15%、独自OSが5%程度」になるとしているMETAグループの予測を示した。
またIT戦略の立案にも触れた同氏は、「経営課題だけをIT戦略の入り口にしていると、それぞれの課題に個別に対応するだけでガバナンスがなくなる」として、ITのビジョンを起点としたIT戦略があってもいいのではないかと述べたほか、ITの整合性をとるためには「エンタープライズアーキテクチャ」など、きちんとしたアーキテクチャを持たないと「ビジネスニーズへの対応が遅れる、運用費用がふくらむなど、リスクが増える」という点をを強調していた。
最後に同氏は「戦略的なところに費用を向けること、個々のIT投資案件の評価に加えて戦略と結びついた投資効果測定を行うこと、TCOでコストを考えること」などをもう一度強調して講演を締めくくった。
■ URL
株式会社アイ・ティ・アール
http://www.itr.co.jp/
( 石井 一志 )
2004/05/17 00:01
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