Enterprise Watch
最新ニュース

「アンチLinuxでも信者でもない」総務省のOSS戦略は“ユーザー視点”

~LinuxWorld Expo/Tokyo 2004 開幕記念特別講演

 「選択肢が増えることは切望しており、その選択肢としてはLinuxに対して非常に期待している。しかし、特定のOSSを応援することはしない」。「LinuxWorld Expo/Tokyo 2004」(主催:株式会社アイ・ディ・ジー・ジャパン、会期:6月2~4日)の開幕記念特別講演「電子政府・電子自治体におけるOS選定の在り方について」(6月2日)内で、総務省 情報通信政策局 情報通信政策課 情報セキュリティ対策室 課長補佐の高村 信氏は、総務省の立場についてこう述べた。


総務省は「影響力のある1ユーザー」

総務省 情報通信政策局 情報通信政策課 情報セキュリティ対策室 課長補佐の高村 信氏
 冒頭で、「なぜ総務省がここに来たのかと言われそうなので」と、総務省のLinuxに対する位置付けを語った高村氏は、その立場を「非常に世間に対して影響のあるユーザーの1つと認識してもらっているのではないか」と述べた。今の総務省は、電子政府全体を推進していた旧総務庁、自治体の電子化を推進していた旧自治省、社会全体のIT化にかかわっていた旧郵政省、これらが母体となったもの。「その総務省がLinuxを選ぶことがあれば、それなりに社会的インパクトのあるお話なので、声の大きいユーザーとしてここにお招きいただいたと理解している」(同氏)。

 続いて高村氏は総務省のOSS(オープンソースソフトウェア)に対する取り組みを示したが、国内事業振興のためにOSSを推進する、という経済産業省のような明確な姿勢は打ち出していないという。しかし、「ユーザーの立場としては選択肢が多いことを熱望するため、特定のOS以外に選択肢がないという現状は打破したい。その時にはLinuxが有力な選択肢に成り得ると考えている」と述べた高村氏は、Linuxは今どういう状況にあるのか、使えるようになるためにはどうしたらいいのか、ということを省内でも検討しているとした。

 つまり、「総務省はLinuxにとって敵であるつもりはないが、無条件の味方にもならない。小うるさいことも言うだろうし、検討した結果としてOSSは使えない、という結論になることもあり得る。アンチLinuxでも信者でもない」と述べた高村氏は、そういう立場であるが故に、ものを買う、勧める立場になることはあっても、OSSに対して寄与すること「だけ」を目的として活動することはない、と同省の姿勢を明確にした。


OSSでは運用・サポートの担保こそが重要

 具体的な取り組みとして総務省では、2003年6月から2004年4月まで、「セキュアOSに関する調査研究会」を開催していた。これは、ウイルス感染や情報漏えいが起こるなど、ますます大事になる情報セキュリティ確保のために、どうやって業務に適したOSの選定を行うか、ということを考えるもの。ここでは「残念ながら、コードそのものを見るには人手、予算がないために、カタログスペックの比較と、メンバーの知見を披露する場にとどまり、作りの善しあしにまでは踏み込めなかった」ものの、「さまざまなOSについて、セキュリティを中心にコスト・運用などの面を、客観的・中立的に」分析していたという。

 そしてこの場で、オープンシステムを前提に、Windows、商用UNIX、OSSのUNIX(Linux含む)の比較を行ったのだが、ある意味当然のことながら、業務ごとに求められる機能、セキュリティ要件などはばらばらなので、「特定のOSがすべてにおいて1番だ、という結果にはならなかった」(高村氏)。それでも、OSSのUNIXの利用を頭から否定する材料もなく、その使用に際してはほかの2つに見劣りしないという結果が出たという。

 しかし、OSSを利用する場合に注意しなくてはいけないこともある。それは、「パッチ提供を含めた、サポート体制をきちんと受けられる担保」を必ず用意するべきだということ。なぜなら、OSSではこうしたサポートが開発者側から必ず提供されるとは限らないからである。「何らかの形で、納入業者、運用委託先にサポート提供義務を盛り込むこと」を忘れてはいけないとした高村氏は、「どんなに良いシステムでも、買いっぱなしではだめ。お金を払ってサポートを受けることは必須だということを、役所がはじめて、ほかの役所に声を大にして言ったということ」と語った。


OSフリーの提案募集型調達でベストソリューションを

 サポートさえしっかり受けられれば、OSSも使えることがわかった。ではOSSを含め、どうやって業務ごとに適したものを選べばいいのだろうか。高村氏は「実施する業務に応じてどんなセキュリティ対策が必要かを買う前に分析し、どれが適しているかを考えること。そして、OSSに限らず、買いっぱなしではなく保守運用を考えてそこにお金をかけること。それを踏まえて、どんなOSがいいかを考えるべき」とする。またその上で「当たり前の話だが、OSを実質的に限定した調達はいけない」(同氏)ということも強調。機能要件を書くのが面倒だからか、それしか知らないからか、「たとえば、調達ではWindows XPもしくはそれに相当する機能を有するもの」といった指定をすることが多いとのことだが、これでは最初から選択肢を狭めてしまう。

 そこで高村氏は、総合評価方式で入札を受けることを推奨する。これは、調達するものに必要な機能・性能を抽出して各項目に配点し、その適合度合いを点数化して評価する「提案募集型」の調達方式だ。高村氏は、Linuxを利用する提案をしたベンダによって、人事院のシステムが落札されたことを引き合いに出し、「OSを縛らなければ、評価に合致したベストソリューションが届く。それをきちんとやるべきだ」と述べた。また各公的機関で、小規模サーバー系、特にWebサーバーなどではLinuxがたくさん導入されていることも示している。


必ずしもOSSにはこだわらない

 一方、OSSでは対応できない場合の例としてデスクトップLinuxをあげ、「デスクトップ系Linuxはまだ政府全体として使えるレベルではない」とした。その理由としては、本当の意味で「使える」オフィススイートがない点を指摘。公的機関では一太郎とWordを併用しているが、「一般の方からファイルが送られてくる場合、印刷して紙で見ることを前提として、レイアウト自体にセマンティクスを持たせてくることが非常に多い」ことを説明し、少なくとも一太郎やWordとまったく同じように、ドキュメントの印刷、閲覧、保存、ができないと、採用はされないだろうと語った。加えて、大規模システムではまだ導入になかなか踏み切れないことにも言及。公的機関は人柱、第一導入者にはなれないので、客観的な評価が実績として積み重なってくることがOSS導入の鍵の1つになるとした。

 このように、ユーザーの立場で今良さそうなものを選ぶことが大事で、必ずしも総務省の立場としては、OSSにこだわるものではないと繰り返す。「ソフトウェアはフリーであるべきだ、プロプライエタリなものは許せん」という意見が寄せられることもあると語った高村氏は、極端な話だがと前置きした上で「腐ったOSSと良くできたプロプライエタリソフトがあった場合、将来性に期待してOSSを選ぶというのは、実利用方法の選択方法としては適切でない」と述べた。


総務省がOSSに対してできること

 またそうした立場を踏まえて、OSSに対して同省ができる今後の取り組みとしては、「良いものは良い、悪いものは悪い」と明確に言及することとし、「OSSは現状悪くない、とまでは言った。これ以上はOSのコード自体の評価が必要になる。今のところ予算がなくてできていないが、先々やっていきたい」と述べた。さらに、システムとしてOSSを採用した場合、カスタマイズした部分のソースを公開できないか、とも考えているという。「バイナリを配布しなくてもソースを配布することはライセンス的に不可能ではない。ただ、開発した側が公開を嫌がるケースもあるだろうから、どうやったらうまく実行できるのかを模索している」(高村氏)。

 最後に高村氏は、「我々がやっていることを多面的に活用してもらえると、我々もうれしい。役所はどんなにこき使ってもタダ。コミュニティから見ると、余計なことばかり言う敵みたいに見えるかもしれないが、うまく使っていかないと損なので、皆さんもぜひ利用して欲しい」と述べ、講演を締めくくった。



URL
  LinuxWorld Expo/Tokyo 2004
  http://www.idg.co.jp/expo/lw/


( 石井 一志 )
2004/06/02 19:13

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.