6月2・3の両日、マイクロソフト株式会社主催によるイベント「the Microsoft Conference +expo 2004」が東京国際フォーラムで開催された。3日には「企業システムの新しいソリューション“スマートクライアント”~Visual Studio .NETによるアプリケーション開発 Part 1」と題して、マイクロソフト株式会社 デベロッパーマーケティング本部 デベロッパー製品部 プロダクトマーケティンググループ シニアプロダクトマネージャである大野元久氏、および株式会社日立システムアンドサービス Microsoftソリューションセンター テクニカル エバンジェリストである酒井達明氏による講演とデモが行われた。
クライアント/サーバーシステムなどで広く利用されるクライアントアプリケーションモデルは「ファットクライアント」と呼ばれ、OSに最適化されたリッチなクライアントアプリケーションである。非常に操作性がよく、RADツールによる開発も容易な利点があるが、それ自体にビジネスロジックが含まれる大きな(=ファット)アプリケーションであるため、スケーラビリティに乏しく再配布や管理にも多大なコストがかかる問題がある。
ファットクライアントに対して「シンクライアント」と呼ばれるクライアントアプリケーションモデルでは、ビジネスロジックをユーザーインターフェイス(以下、UI)から分離し、中間層となるWebサーバーやアプリケーションサーバーに置く。これによって、配布や管理のコストを大幅に低減することが可能になり、UIにはWebブラウザを使用することでプラットフォームへの依存が低くなる。しかし、シンクライアントのUIは、Webブラウザベースであるため操作性に課題が多い。大野氏は「入力系などUIによって作業効率が大きく影響するような分野では、シンクライアントへの移行は困難です。しかし、シンクライアントでよりリッチなクライアントを実現しようとすると、画像データの読み込みなどネットワークトラフィックが増大してしまう問題もあります」と語る。
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スマートクライアントの概念
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これらファットクライアントとシンクライアント双方の問題を解決するのが「スマートクライアント」となる。ビジネスロジックは中間層に置き、UIはWindowsアプリケーションとして実装する。Windowsネイティブなコードで記述されるため、操作性はファットクライアントと遜色ないクライアントアプリケーションが実現できる。
サーバー-クライアント間のやりとりはWebサービスで実現しているため、他のWebアプリケーションやWebサービスに対応していれば、サーバーサイドのビジネスロジックを携帯電話などのデバイスからも利用可能だ。またクライアントアプリケーションにはUIだけが含まれ、フットプリント(アプリケーションに必要なメモリやディスク容量)が小さいため、Webサービスによる配布や管理も容易に実現することになる。
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Visual Studio .NETの開発環境
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.NET Frameworkには、Webサーバー上にアプリケーションを配置するだけでセキュリティ管理下でアプリケーション配布および実行する仕組みとして「ノータッチデプロイメント」という機能が用意されている。Microsoft System Management Serverといったアプリケーション配布のインフラを利用することも可能だ。もちろんスマートクライアントの開発でも、従来のWindowsアプリケーションと同じように充実した開発環境「Visual Studio .NET」が利用できる。
スマートクライアントによる事例として、株式会社日立製作所と株式会社日立システムアンドサービスによる、株式会社JR東日本企画の「新交通広告媒体管理」のシステムが紹介された。ここでは、JR東日本の抱える広告スペース(駅、社内広告など)に対する掲載申込をインターネット経由で行う機能と、社内で掲出スケジュールを調整する機能の2つを実現している。
広告申込は多くの顧客が利用するため、クライアント側は通常のWebアプリケーションとなっている。しかし掲出スケジュール調整については、カレンダー上でのドラッグアンドドロップ機能の要望があり、Webブラウザによる操作は困難であった。また広告申込と広告掲出スケジュール調整は、お互いにロジックを共有させる必要がある。
そこでビジネスロジックをサーバーサイドに置き、両方の機能から利用することとし、広告掲出スケジュール調整はスマートクライアントで実現することとなった。このシステムの開発期間は1年半(業務分析、設計時期を含む)で、開発人数は最大時で15人であった。開発当初は、.NET Frameworkがベータ段階であり、開発者の多くは.NET Frameworkによる開発経験がなかったという。酒井氏は「Visual Studio .NETが非常に生産性の高い開発環境で、経験がない開発者でも効率よく開発を進めることができました。またこのシステム開発の成功例は、フレームワーク化して皆様に提供できるようになっています」と語った。
最後に大野氏は「すべてのクライアントアプリケーションをスマートクライアントに移行させようとしているわけではありません。ですがリッチなUIを実現するアプリケーションモデルのひとつとして検討してください」と語った。
■ URL
the Microsoft Conference +expo 2004
http://www.microsoft.com/japan/msc/
スマート クライアント デベロッパー センター
http://www.microsoft.com/japan/msdn/smartclient/
( 北原 静香 )
2004/06/04 11:35
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