Enterprise Watch
最新ニュース

日本IBM、40年後もメインフレームを動かすため学生に啓もう活動

IBM S/360メインフレーム誕生40周年記念セミナー

 日本アイ・ビー・エム株式会社は6月21日、早稲田大学理工学部がある大久保キャンパスにて、同社のメインフレーム第1号機「S/360」の誕生40周年を記念したセミナーを開催した。このセミナーは「日本の学生にテクノロジーに対する関心を持ち続けてもらうこと」(同社)と同時に、就職活動をひかえる学生らに同社への関心を引き、そしてメインフレーム技術者の高年齢化が進む中での新たな人材の確保といった目的もあるようだ。今後も関東・関西の主な理工系大学で開催していく予定だという。


開発に日本の国家予算の半分を費やしたメインフレーム一号機

開発製造ソフトウェアセンター副部長 下山達也氏

S/360誕生の“トリビア”
 S/360が誕生したのは1964年4月7日(くしくも早稲田大学のある高田馬場で生まれた鉄腕アトムの誕生日と同じ月日。ちなみにアトムは2003年に生まれたことになっている)。その15年前に開発された真空管式に代わるコンピュータとして米IBMが約50億ドルを投資して完成させたものだ。同社開発製造ソフトウェアセンター副部長の下山達也氏によると、当時のIBMの年間売上金額が約30億ドル、また円換算すると当時の日本の国家予算の約半分にもなる金額であり「IBMとしても大きな賭けだった」ようだ。

 しかし、現在まで続くメインフレームやPCの基礎ともなるノイマン型計算機のアーキテクチャを持ち、S/360の名前の由来ともなった「どういった業務・目的にも全方向(360度)から使える」コンピュータとして、当時の世界記録となる33,000台を出荷した。下山氏はS/360がユーザーに広く受け入れられた要因として「ハードとOS(OS/360)の仕様を公開したこと」「業務アプリケーションとの互換性を保証したこと」が大きいと語る。その証拠に当時S/360向けに開発されたアプリケーションは、現在の最新のメインフレームでも動作可能とのこと。

 ちなみに日本では、1965年10月に東海銀行(現UFJ銀行)が第1号ユーザーとしてS/360 model-40を導入した。下山氏は「横浜に到着後(東海銀行の本社があった)名古屋まで2日間かけて慎重に運んだ」と当時のエピソードを語る。そして「現在のトップ企業50の9割がIBMのメインフレームの顧客であり、デジタル情報の7割はメインフレーム上にある」と述べ、メインフレームが現在でも現役であることを強調した。


生産性を強化し「40年後も動かし続ける」

先進テクニカルサポート シニア・コンサルティング ITスペシャリスト 榊幹雄氏

POWERアーキテクチャの発展

3種のサーバーの開発基盤を共通化
 続いて登壇した同社先進テクニカルサポート シニア・コンサルティング ITスペシャリストの榊幹雄氏は、主に技術的観点からIBMの優位性を訴えた。榊氏がまずとりあげたのはムーアの法則にCPUの進化が追いつかなくなった点だ。榊氏によると、IBMではクロック数に頼らない並列処理や、CPUだけでなくシステム全体を最適化することに早くから着目し研究を進めているため、今後もムーアの法則にのっとった速度向上を実現していくという。

 また、足踏みの大きな原因とされる熱処理については、次期プレイステーションに採用されるという減熱技術「SOI(Sillicon-on-Insulator)」を挙げ「IBMが最も進んでいる」と主張。これに対し一部CPUの開発中止を発表したサン・マイクロシステムズを比較対象とし「技術を持っている会社と、そうでない会社の違い」と胸を張る。IBMでは今後UNIXサーバー向けの「POWER5」の発表をひかえているほか、2006年には「あくまでも予定」としながら次期サーバー向けCPU「POWER6」を発表すると榊氏は宣言した。サンも富士通と次期CPUを2006年に発表する見通しだが「技術は一歩一歩進めていくもの。いきなり世代を飛び越えて開発できるものではない」と一蹴(いっしゅう)。さらに、ソフトウェアにおいて同社が力を注ぐWebSphereをはじめとしたミドルウェアの役割を交え、同社が技術の最先端を行くことを強調するとともに、同社のプラットフォームの優位性を学生らにアピールした。

 サンやデルをはじめ、メインフレームを開発・販売しているベンダーまでも分散型オープンシステムへの移行を進める中、IBMはメインフレームのzSeries、オフコンのiSeries、UNIXサーバーのpSeriesの3種開発基盤を共通化し、「三本の矢は折れない」(榊氏)と大型サーバーの生産性を強化した。さらにメインフレーム上で最大300のLinuxを動作させたり、管理のオートノミック化を進めるなど、研究開発への手を緩めない。次の40年もメインフレームを企業の心臓部で動かし続けるためにあと必要なものは、やはり人材のようだ。




URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/
  Computer History Museum
  http://www.computerhistory.org/

関連記事
  ・ 米IBM、メインフレーム40周年で小型・低価格モデル発表(2004/04/08)
  ・ サーバー2極化戦略の成功に自信 ~日本IBM・橋本常務執行役員(2003/11/21)


( 朝夷 剛士 )
2004/06/22 11:39

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.