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米IBMサバー氏「システム統合ではミドルウェア層の標準化が重要」

~NetWorld+Interop 2004 Tokyo 基調講演

 6月28日から7月2日まで幕張メッセで開催されているイベント「NetWorld+Interop 2004 Tokyo」(N+I)において6月30日、「今日のダイナミックな環境に対応するオンデマンド・ビジネスとは?」と題して、米IBM ソフトウェアグループ ストラテジー&アーキテクチャー ソフトウェア開発担当副社長のダニエル・サバー氏が基調講演を行った。

 まずサバー氏は、「IBMはこの30~40年、ソフトウェア分野で大きな役割を担ってきた。これまでの自動化をベースにした変化は、ミドルウェアを中心にこれからも続いていく」とした。


ミドルウェアを中心としたIBMのオンデマンド基盤

米IBM ソフトウェアグループ ストラテジー&アーキテクチャー ソフトウェア開発担当副社長 ダニエル・サバー氏
 同氏は「使い方に関係なく、常に新技術が生まれるのがIT社会の特徴」とし、「例えばブロードバンドの普及により相互接続性が高まる一方で、複雑性もまた増している」とした。

 IBMの提唱する“オンデマンド”では、既存の技術と新技術の統合を図る上で、ビジネスプロセスを自由に融合したり、逆にアウトソースするなど、その障害を意識させずにさまざまな形をとれる柔軟性の確保がまず目指されている。

 企業のIT資産は、異機種が混在している場合がほとんどといえる。そうした環境のなかで、業種別に作られたプリパッケージのアプリケーションが利用されているのが現状だ。同氏は「こうしたモノリシックなアプリケーションを統合した場合、変更のあった際にすべてを変える必要があり、柔軟性に欠け、場当たり的といえる」とした。

 そして「これはオープン標準に対してIT業界がこれまで抵抗を示してきたことに起因している。しかしインターネットが取り巻く社会のなかで、スタンダードの必要性を業界が認識し始めている」との見方を示した。

 また「従来型のITは、大量データを処理するトランザクションが中心にあった」とした。これを「よりフレキシブル、シンプルに」するため、オープン標準を用いて相互接続性が強化された。同氏は「相互運用性を持ちながら、複雑なものをよりシンプルに簡素化できること。これをもとに統合を加速できるレスポンス、またビジネス状況にあわせて変化に対応できる柔軟性といった要件が、ITシステムには必要になる」と語った。

 IBMのオンデマンドのコンピューティング戦略では、「ソフトウェアはコンポーネントにモジュール化し、単なる相互接続でなく幅広いソリューションをシンプルに接続できるようになる」。IBMでもこれまでは、水平統合に適さないクライアント/サーバー型システムやメインフレームといったチャネルを志向していた。しかし「ビジネスプロセス全体を見渡し、サービス間で機能を提供するためにはオープン標準が、そして既存のリソースを統合・活用するために自動化、仮想化のインフラとツールが必要になる」とした。

 そして「情報ベースの社会で進化し、成功するためには、スタンダードこそが必要であると考えている」とし、「ビジネスの視点に立てば、システムには再定義やアウトソース、効果的な統合といったニーズが求められる。これを柔軟に反映でき、既存資産を意識したアーキテクチャが必要だ」と語った。


異機種混在システムやアプリケーションのギャップを埋めるミドルウェア
 そして「こうしたビジョンは素晴らしいものだが、実行を伴わなければ幻想」とした同氏。IBMではオンデマンドのオペレーティング環境をSOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づいて提供するという。「粒度の細かいレベルでのサービスを提供することで、企業では開発、インフラ、管理のいずれにも、既存の資産を利用して導入できる」とした。

 こうした環境で、ミドルウェアの重要性は増しているという。同氏は「システム、ネットワーク環境では異機種が混在し、さまざまなOSが利用されている。このギャップを埋め、新旧多くのアプリケーションを橋渡しして水平統合を果たすためには、特にミドルウェア層におけるオープン標準の進化が重要」とした。そして将来的には、インターネットの分散型環境における統合がミドルウェア層で実現するとのビジョンを示した。


WebサービスにSOAを実装するIBMのミドルウェア製品群

OSからJ2EE基盤、開発環境まで、IBMではオープン標準を重視している

SOA実装を実現する「Enterprise Service Bus」

「Enterprise Service Bus」を中心としたIBMのミドルウェア製品群
 IBM製品であるWebSphere MQシリーズは35、またWebサービス基盤であるWebSphereは30以上のOS・バージョンに対応し、「柔軟性と選択の自由を提供している」という。そして同氏は「ビジネスプロセスの統合はオープン標準に基づいたWebサービス、XMLで実現する」とし、その開発環境としての「Eclipse」を通じて「IBMではオープンソースコミュニティへも貢献することで、これにより多くのパートナーからさまざまなソリューションが提供されている」とした。

 Webサービスを「人、プロセス、情報を統合するもの」と規定し、「ユーザーがビジネスプロセスやインフラと関係を持つ際には、XMLをはじめとしたメタデータを介してこれを表現する必要がある」とした。

 そしてこれを実装するため、ビジネスプロセス間、またユーザーとのやり取りにおいての調整を図る要素となる「Enterprise Service Bus」の考え方を示した。これは「具体的な導入にあたって、下層に位置する複雑なレイヤーを抽象化し、表に出さないようにする」もので、最新の技術と古い技術を融合する必要から多くの機能を持つ必要がある。

 同氏は「目的が達成されれば方法は問わない、これがSOAでも重要な考え方だ。メタデータを用いるため、性能は最高ではないが、柔軟性や拡張性はこれがなければ得られない」と語った。そして「.comバブルの頃には、誰もが新たなスタートを切れると勘違いした。ものだが、インテグレーションでは革命的変化があるわけではなく、段階を追って少しずつ進化するものだ」との見方を述べた。

 IBMにはWebSphere、Lotus、DB2、Tivoli、Rationalと5つの製品群がある。同氏は「これらのうち多くの機能はエンタープライズに実装できるところに達している」とし、これらミドルウェアを中心としたオンデマンド基盤により、「ジャストインタイムでプロセス、情報を提供する」と述べた。そして「ITの専門家は、ITより意図的に複雑にするのではなく、存在を消して、ビジネスに合わせるべきだ」とした。

 IBMでは「RDB、配信スキーマ、データの統合と、ビジネスプロセスのモニタリング管理にこの10年力を入れている」という。ここからIBMが提唱したビジネスプロセス管理のオープン標準である「BPEL」をフェーズ1とし、「BPELをよりシンプルに使いやすくするよう、1年以内にフェーズ2を提唱する」と述べた。

 ユーザー側のインターフェイスについて、IBMではポータルとなる「Workplace」を提供している。同氏はこれを「プロセス、情報、ユーザーを統合する橋渡しとなるネットワークベースのミドルウェアで、最終的なステップにつながる第1段階」と位置づけた。Workplaceはモバイルなど多くのデバイスで利用でき、ユーザーの役割で利用するインターフェイスの変更にも対応する。その実装例として、ビジネスパフォーマンスの管理を挙げた同氏は、「特に魔法はない、基盤にあるのは同じフレームワーク」とした。


Webサービスを統合したインターフェイスをユーザーに提供する「Workplace」 IBMのミドルウェア製品から構成されたWorkplaceの実装例

 そして、SOAに基づいたWebサービス基盤を提供するミドルウェアを中心としたアーキテクチャについて、ITを電気や水道のように社会インフラ化することが最終的な到達地点とされるユーティリティコンピューティングを念頭に、「オンデマンドはビジネス領域を拡張するだけでなく、ゆくゆくは社会構造までを変えるものになるだろう」と語った。



URL
  NetWorld+Interop 2004 Tokyo
  http://www.interop.jp/
  米IBM
  http://www.ibm.com/


( 岩崎 宰守 )
2004/07/02 00:00

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