企業ネットワークを支える接続機器のうちルータやスイッチは、まぎれもなく主役といえる存在である。しかし現在、それら機器のシェアは圧倒的に外国勢ベンダで占められているのが実情だ。こうした中、日本にしっかりと足をつけ、導入から運用後のメンテナンスまで安心してユーザーが企業ネットワークに取り組めるような製品を提供すべく、6月25日に日立製作所とNECが手を結び合弁会社の設立が発表された。20年以上におよぶ日本のネットワークの歴史上、本格的な日の丸ネットワーク企業の誕生だ。そこで今秋10月1日の設立をめざして、最前線で推進活動にもえる日立製作所 IPネットワーク事業部 事業部長 和田宏行氏に、合弁会社のビジネスストラテジーを聞いた。
■ 競争力のある強い国産ベンダをめざす
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日立製作所 IPネットワーク事業部 事業部長 和田宏行氏
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―このたびの日立およびNECによる合弁会社設立のニュースは、強い外国勢が活躍し少し消沈気味の日本のネットワーク業界に、久々にインパクトを与えたのではないでしょうか。国産メーカーのイニシアティブによる取組みとして、このことが業界の元気さの向上に結びつくことが期待されますが、このバックグラウンドについてお聞かせください。
和田氏
1年前、日立とNECとの間で今後の戦略について一致した認識がありました。その認識とは、ルータ・スイッチ市場の動きがきわめて早いという点です。市場のスピードに我々の開発ペースを追いつかせるのは大変です。このときパワフルな製品を投入可能にするためには、両社が共同して取り組む体制が必要だという認識をもちました。もちろんそれ以前にも、標準化等なにか一緒にできないか、といった話はいくつかありましたが、いずれもこのたびのような具体性にはいまひとつ欠けていました。今後、国産勢が競争力をもって頑張るには、各社のリソースそのものを集結させて大きくしないと、とても太刀打ちできないところまできているのです。
―それは、はっきりいってシスコシステムズやジュニパーネットワークスなど外国勢2社がルータ・スイッチ市場のうち大半を占める中、ここにターゲットをあわせたチャレンジということですね。
和田氏
それら2社がほぼ80~90%のシェアを占めていることは事実です。我々はまだ微力であり力は及ばないかもしれませんが、ここを競争相手と見定めることはきわめて有意義なことです。いま日本のネットワーク市場には、二つの大きな特殊性がみられます。第一が、日本がブロードバンドの世界ではリーダーシップをとりうるまでになっているという点です。第二が、日本のお客様はミッションクリティカル性が向上している、つまり社会インフラまたは企業インフラである基幹系を意識されるようになってきており、従来のようなインターネットではだめだ、という認識をお持ちになっておられます。こうした市場に最適の製品をお届けできる会社に求められるのは、お客様のマインドセットが理解でき、かつ安心してお使いいただけるなど国内市場のしっかりとした認識ではないでしょうか。まさに我々のような国産ベンダが、お役にたてるとき、と考えています。そして、これを実現させる唯一の方法が、市場のスピードが速い中、コストも加味しながらの高品質な製品開発のために、リソースを共有しなければならないということなのです。
―改めて新会社のプロフィールをお聞かせください。
和田氏
新会社は、通信事業や公共、企業などの基幹ネットワークを主な適用領域とした基幹系ルータ・スイッチの開発から設計、販売、保守までを行います。従業員数は350人規模、ほとんどが開発を担当するもので日立およびNECからの社員によります。しかし、実際の開発にあたっては、とてもこれだけの人数では回転しきれません。そのために両社にはグループ会社がありますので、ここでの力もお借りしながら開発が可能な外枠的な人数も別途同数程度、確保します。
また資本金は55億円でその出資比率は日立60対NEC40、役員5名の配分もこの比率になる予定です。所在地は東京・品川ですが、これは、開発拠点を神奈川県・秦野にもつ日立と、同じく千葉県・我孫子にもつNECそれぞれから通える時間的にも距離的にも中間の地点だからです。社長は、日立から就任の予定です。
─会社名はお決まりですか。
和田氏
まだ決まっていませんが、会社名には日立およびNECの名は反映させません。それがありますと、日立やNECのルータ・スイッチとなってしまい、これまでの延長線上にすぎなくなってしまいます。私たちの願いは、あくまで国際競争力のついた“○○社のルータ・スイッチ”を業界に位置づけたいのです。したがって、新会社名が決まりましたらその名を製品名にもつけることになるでしょうね。
■ ハイエンドの基幹系ルータ・スイッチ第一弾を年度末までに投入
―新会社が提供する具体的な製品イメージは。
和田氏
製品は機能、性能、価格で決まります。当然これらは競合よりも機能と性能が上でかつ安いことが理想的です。また、上記ミッションクリティカルという観点からはQoS(Quality of Service:サービス品質)が重要ですね。保守サービスもそうです。これからは、万一バグあるいは故障などが出ましたら即対応できなくてはなりません。もはやインターネットは水道やガスなどのようにライフラインなんです。またブロードバンドという観点ではマルチキャストをいかに高速にさばけるか、ですね。IPv6もそうです。IPv6は早くから日立の得意技となっています。また帯域制御技術もハイパフォーマンスのネットワークづくりには欠かせません。
これらに加えて重要なのがセキュリティです。これによりお客様は新会社の製品を安心かつ安全にお使いいただけます。また性能面では、日立もNECも海外に負けないすぐれたハードウェア技術をもっています。とくにモノを小さく作れる技術は大変重要であり、スペースファクタや消費電力などでメリットをうみだせるなど自負するものがあります。
こういった観点から製品開発をめざします。具体的には基幹系ルータ・スイッチなど企業やキャリアの方たちのインフラになるミッドレンジやハイエンド部分です。ハイエンドは数百Gbpsクラスかつギガポート数が256、価格ベースで数百万円から数千万円ですね。ミッドレンジでは数十Gbps~100Gbpsかつ100ポート以下、数十万円から数百万円クラスのものです。
―売上げ目標はいかがですか。
和田氏
日立およびNECでは、この分野で自社製品(他社製品の取り扱いもあり)のみの売上げがそれぞれおおよそ年間150億円ですので、新会社では初年度400億円を目標とします。シェアは30%をめざしますが、私は25%をクリアしてしまえば、まずは開発まで含めて会社が事業として成り立てる目標値に達するはず、と思っています。
─販売方法は。
和田氏
このたびの合弁会社は、ソリューションを提供する会社ではなく、製品事業会社です。むしろソリューション提供会社に必要な製品を提供させていただくという会社です。したがって日立にもNECにもソリューション提供会社がありますが、そちらにも製品を提供しますし、両社外部のSIerやNIerに対しても同様です。このNIerやSIerの方たちがとりもなおさず販売チャネルの役割りを果たしていただくことになります。日本のこうした会社はほとんど東京に集中しており40~50社程度ありますが、これらのうちの10分の1くらいは、ストラテジックパートナーとしてご協力いただければと考えています。
─国からの補助もありますね。
和田氏
この業界は、国やWIDEなどアカデミックな組織との連携が極めて重要であると思っています。とくに今後どのような製品がインターネットのニーズにマッチするのか、などをリサーチする際、キーポイントになります。今年は、経済産業省による次世代高速通信機器技術開発プロジェクトに対する補助金として23.3億円が決まっています。
─今後のスケジュールは。
和田氏
まずは年度末までに新会社からの第一弾製品として、ハイエンド機を発表します。この開発は、すでに日立とNECとの間で進行中です。その後は、ミッドレンジまで含めてどんどん投入していきます。海外については、日立、NECのチャネルを通じてまずは中国市場からとりかかります。新会社の目標とするコンセプトは、ミッションクリティカル性が高くギャランティ性も高い基幹系ルータ・スイッチを提供させていただくことですので、安心してお使いいただけます的な内容を表すものになりますが、具体的にはすべて9月に発表予定です。おかげさまで、お客様あるいはプレス関係の方たちなども、このたびの合弁会社につきましては、おおむねポジティブな評価をいただいています。こうしたことを追い風に、これからさらに精力的に取り組んでまいります。
■ URL
株式会社日立製作所
http://www.hitachi.co.jp/
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( 真実井 宣崇 )
2004/07/09 00:00
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