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サントリーがJ2EE採用に成功した7つの要因とは?

J2EEカンファレンス ユーザーセッション

 7月14日に、東京コンファレンスセンター品川にて開催されたイベント「J2EEカンファレンス」において、サントリー株式会社 情報システム事業部 システム開発部 標準化グループ課長 片山隆氏が「J2EE成功への7つの秘訣──テストができれば開発プロセスが回る」をテーマにユーザーセッションを行った。


サントリー株式会社 情報システム事業部 システム開発部 標準化グループ課長 片山隆氏
 サントリーでは、1980年代のメインフレームによるバッチ中心のシステムからCOBOL開発などを経て、2002年から「新規システム開発はすべてJ2EEで」行われるようになった。この決定はトップダウンによるもので、「いきなりぶっつけ本番で、いやおうなしにJ2EEでシステム開発を始め、当時は作りながら集中トレーニングをする状態だった」という。

 この背景には、「ビジネス環境の変化にあわせて事業も多様化し、例えば扱う製品の変化で組織も変わるようになった」ことがある。またシステムの側にも「技術の広がりと生産性向上に陰りの見えてきていた」。そして経営ニーズに基づいて、それまでのバッチ中心のシステムから、疎結合の分散システムにより、非同期トランザクションを用いたリアルタイム処理が指向された。同氏によれば「買収やカンパニーの独立といったことが起きても、少なくとも競合他社よりすばやく対応できる」ことが目指されていたという。


 2002年の段階で全システム開発をJ2EE化することは、ある意味で進んだ選択とも言える。同氏は「開発のプロセスと、その標準化を大切にする文化と、新しいものを進んで取り入れる社風があった」と述べた。そしてコンポーネント型開発により再利用可能な点が重要だったとした。

 同氏はEJBによる情報システムの構成要素として、ベースコンポーネント、ビジネスユーズケースごとの業務サービスコンポーネント、そして原料調達などの業務の目的別にこれらが集積させたシステム、生産系などビジネス上の目的を果たすためのドメインの4つにコンポーネントの粒度を分類した。「現在では、ベースコンポーネントとサービスのレベルまで再利用できる範囲が進んできたが、今後はその上のシステム、ドメインについても、いずれは再利用を可能にしていきたい」とした。

 これを階層別に見ると、Webによるプレゼンテーション/EAI層は現在のところほぼ手作りとのことで、「これとデータベースをつなぐサービス/コンポーネント部分は再利用が進んでいる」とした。同社内で現在までにコンポーネントを再利用しているシステムは80あり、10個以上のコンポーネントを再利用しているのはこのうち10を占めている。また呼び出されているコンポーネント回数は80万回/日にもなるという。

 同氏によれば、導入を開始した2002年当時には、「むしろ生産性はそれまでより下がった」という。しかし取り組みが本格化した2003年以降、開発生産性は向上しているとのことだ。2004年中にはユースケースで見た際に4000の機能を提供し、「2005年までに200のコンポーネントを開発し、8000の機能を提供することで開発生産性を40%向上したい」と述べた。


 実際にこうした開発プロセスを定着させる上で、「そもそも、それまでオブジェクト指向開発の何たるかを知らなかった」同社では、さまざまな問題があったという。これが成功した裏には、7つの要因があった。

 片山氏の所属する標準化グループは、実際のシステム開発そのものではなく、コンポーネント再利用の方向性や、開発プロセスの必要性について検討を行うセクション。このほか同社には共通システムグループがあり、「アプリケーション、インフラの開発グループとは、活動テーマと予算、権限が独立している」という。この第3のチームとも言える存在が、成功のひとつめの要因になった。

 また「開発プロセスそのものをシステム開発者向けの会員制ポータルで公開している」点を、第2の要因に挙げた。利用者はグループ企業を含めた240人と、開発委託先の600人だが、「目論見どおりに必要に迫られて利用されているのか」月間5万PVの実績があるという。

 同氏が3つ目の要因に挙げたのはトレーニング。「新入社員や若手は、システム開発がJ2EEに変わることをチャンスと喜ぶ。オブジェクト指向の経験のなかった中堅以上の社員がむしろ問題だった」という。同氏によれば、合宿研修を行うことで、講習だけにとどまらず、設計思想やポリシーについても共有化を図ってこれをクリアにしたという。

 そしてトレーニングのフォローとして、開発・分析・実装に関するオリエンテーションを行い、その後社員が設計分析した結果のレビューから理解度を把握することを4つ目の要因とした。またコンポーネントの開発において、コンポーネント担当チームとプロジェクト開発チームが共同で分析や設計を行う役割分担を明確にし、会員制ポータルを通じて抽出したコンポーネントを提供したことを5つ目に挙げた。


 また開発したソフトウェアが本番環境で性能が出るかどうか、その品質を検証するテストサービスを提供した点を6つ目とした。ここではロボット機能を用い、150の仮想ユーザーからリクエストを発行することで、レスポンスタイムやスループットを測定する「パフォーマンステスト」、一定時間にわたって想定外の高負荷をかける「ストレステスト」、低い負荷を48~72時間かけつづける「ロングランテスト」などのメニューを行われる。これを開発チームにサービスとして提供することで、「カットオーバー直前でなく、プログラミングフェーズの途中で品質がわかるメリットがあった」という。

 このテストサービスにより、今後はインフラ設計の精度向上、さらにソフトウェア品質保証の底上げ、そして結果をの定量的な評価指針として用いることで、調達先の選定にも役立てたいとした。

 最後の要因として同氏が挙げたのは夢の共有だ。同社では毎年、システム担当者240人で年頭にキックオフミーティングを行うほか、パートナーに対しても方針説明会を行っている。ここで担当者の意思を共通化し、その年に目指すことを明確にすることが重要とした。そして同氏は「2年3年の腰を据えた取り組みが必要になるのは事実で、あわてず忍耐強く行うことが秘けつ」として講演を終えた。



URL
  J2EEカンファレンス
  http://coin.nikkeibp.co.jp/coin/J2EE0714/
  サントリー株式会社
  http://www.suntory.co.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/07/15 11:13

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