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企業インフラへのオープンソース導入ではサポートが問題

~J2EEカンファレンス パネルディスカッション

 7月14日に、東京コンファレンスセンター品川にて開催されたイベント「J2EEカンファレンス」において、「Java開発で不可欠となったオープンソースとの付き合い方」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。

 パネリストとして参加したのは、株式会社アークシステム システムインテグレーションサービス部 シニアコンサルタント 黒住幸光氏、株式会社テンアートニ 執行役員 第一事業部長 山崎靖之氏、NTTデータ株式会社 技術開発本部 開発担当 岡本隆史氏、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社 技師 川村嘉之氏の各氏。日本電気株式会社 IT基盤システム開発事業部 Java/XML技術センター長の岸上信彦氏がコーディネーターを務めた。


アークシステム システムインテグレーションサービス部 シニアコンサルタント 黒住幸光氏
 アークシステムの黒住氏は、「オープンソースソフトウェア(以下、OSS)の性能や品質は千差万別で、最初はコンセプトモデルの域を出ないが、ボランティアが無償で開発して誰かに利用されることで洗練していく」とし、その例としてTomcatを挙げた。そして「Linux、Ecripseといった個別の製品としてではなく、究極の分散開発ともいえる仕組みや文化としての側面を取り上げて欲しい」とした。

 そしてオープンソースコミュニティについて「Javaの仕様をはじめとした現状のテクノロジに満足せず、新たなアイディアを公開する発表の場としても機能して始めている」との見方も示した。しかし同氏自身は、「信頼を置ける確固たるインフラという意味で、J2SEそのもののオープンソース化に積極的な考えはもっていない。ただしJ2EEについては、インプリメントを含んだ仕組みがあると、ユーザーサイドにメリットもある」と語った。

 OSSを実際に利用する場合には、「自身がオープンソースツールで開発がされており、そのツールやノウハウ、機能を利用できる開発ツール」からの利用を推奨した。その際は「Strutsなど、広く利用されてバグが出切った枯れた技術を使うのがよい」と語った。

 そして「データベースやミドルウェアといった運用環境の領域でOSSを使うのは勇気がいること」とし、「初期導入が安くても、導入が本当にコストダウンにつながるか、メンテナンスコストをきちんと考える必要がある」と述べ、「コストダウンや、生産性の向上、そして機能部品など、その目的を整理することが重要」とした。


テンアートニ 執行役員 第一事業部長 山崎靖之氏

テンアートニでは、Tomcat、JOnAS、Apacheといったオープンソースのサポートを8月より提供する
 テンアートニの山崎氏はまず、「一口にOSSといっても、OS、ミドルウェア、開発ツール群、フレームワーク、アプリケーションのそれぞれに切り口がある」とし、「どのベンダーも苦労しているが、特にJ2EEミドルウェアなどはサポートが大事」と述べた。

 「TCOやベンダーへの依存を考慮すると、オープンソースが有利になるケースもあり得るが、個人的にはビジネスの目的を果たせば商用でも構わないと考えている」と語った。また「開発・テストツールにおいても、オープンソースと商用の選択よりも、それを開発工程でどう使うかの方が重要」とした。ただ実際の開発現場では、オープンソースのツールが広く利用されていることにも触れた。

 オープンソースの業務アプリケーションはそれほど多くない。テンアートニでは、外食産業向けの受発注用システムをオープンソースとして公開している。オープンソース化の理由については、「同業他社が同じようなシステムに重複して投資している」ことを挙げた。また「商用パッケージでも不足機能はあり、結局カスタマイズ開発が必要になる。そうした面ではソフトウェア開発ベンダーへの依存を排除できる点がメリット」とした。

 開発の際には、「通常のオープンソースではありえないが、ボランティアが現れないため、開発コストをだれが負担するのか、またバージョン管理をどうするのかが問題になった」という。幸い業界内のイニシアチブをとる企業が存在し、全社の利用状況に精通していたため、必要な機能を盛り込むことができたという。

 また機能追加については必要な企業がコストを負担する方向になり、「棚卸の機能を追加開発したところ、全社で利用されている」とのことだ。一方、バージョン管理については現在も問題が解消されておらず、今後のテーマとした。そして「オープンソースの業務アプリケーションは、必ずしも保守料金が見込めない。外食産業向けの受発注用システムもすでにいくつかのSIがサポートを提供している。開発側からするとつらい面もある」と語った。

 また「ISVの開発したパッケージ自体がTomcatやPostgreSQLの利用を前提としており、すべてのサポートを自社でやるのはコスト面で不可能なため、販売できないことがあった」との例を上げ、企業でのオープンソース利用については、「OSはディストリビュータがいるが、Webサーバーやアプリケーションサーバーといったインフラのサポートがない点が溝になっている」とした。

 同社では、米Red Hatがリリース予定のEJBコンテナ「JOnAS」、Webコンテナ「Tomcat」、Webサーバー「Apache」といったインフラのサポートを提供する予定とのこと、また8月には、自社で開発したWebアプリケーションのフレームワーク「Ninja-VA」も提供する予定。


NTTデータ 技術開発本部 開発担当 岡本隆史氏
 Ja-Jakarta Prpject PMCやDebian Project Offcial Developerも務めるNTTデータの岡本隆史氏は、「国内企業の場合、OSSのパッチを開発してもコミュニティへのフィードバックを行わず、社内や部署単位で閉じている形が多い」とした。

 Red HatやSUSEといったOSをはじめとするディストリビュータのモデルでは、自社プロダクトを公開し、開発サポートなどコミュニティに対する貢献をすることで、フィードバックや開発成果を自社プロダクトに取り込み、サポートを提供するビジネスモデルが成立している。

 同氏はこうしたフィードバックを行わないことについて、「バージョンアップ時のパッチ継続利用に対してメンテナンスコストを要する」、「同じ社内だと似たシステムが多く使われており、同様の問題を抱えている可能性がある」、また「ソフトウェア自体で問題箇所が修正されれば、パッチの価値の損失する」といったデメリットを挙げた。

 フィードバックを行えば、「パッチ維持コストは不要になり、情報が行き渡るため、社内の他部署で問題を抱えることがなくなる。またコミュニティにパッチを提供した実績は残り、技術力があることの証明になる」とした。


ディストリビュータによるコミュニティとの連携モデル 国内SIやISVでも、オープンソースコミュニティとの連携が望まれる

 オープンソースの利用については「Tomcat、Strutsなど、広く利用されて情報が多いものを使えば、開発者が自身で対応できる。ゆくゆくは動作の仕組みを知り、ソースを見て解決できるところまでステップアップして、不具合報告などのコミュニティへの貢献をしてほしい」とした。そして「メーリングリストなどでアプローチすれば、不具合が優先的に修正されることもままある。積極的なコミットが、結局自分のメリットにつながる」と述べた。


日立ソフトウェアエンジニアリング 技師 河村嘉之氏

オープンソースを、開発環境、ユーティリティ、アプリケーション基盤、システム基盤に分類
 日立ソフトの河村嘉之氏は、OSSを開発環境、ユーティリティ、アプリケーション基盤、システム基盤の4つに分類して話を進めた。

 このうち開発環境については、「Ant、XDocletなどが浸透しており、特にEclipse上でのWebアプリケーション開発は一般的になりつつある」とした。またJakarta Commons、Log4jなどのユーティリティを挙げ、「わざわざ作るまでもない機能を利用でき、商用パッケージなどでも多く使われている」と述べ、「これらを用いて開発したソフトウェアを納入しても大きな影響は出ない」とした。

 開発フレームワークのStruts、WebサーバーエンジンのAxis、ORマッピングツールのHibernateなどのアプリケーション基盤は、「すべてのエンジニアが把握しているわけではない」としたが、「利用は広まっている」との見方を示した。一方、JBOSS、Tomcat、Jetspeedといったシステム基盤を企業で利用するには「まだまだ大きな壁がある」とした。これを超えるには「導入側にサポートする意思がないと難しい」という。

 「オープンソースを使えば初期投資は抑えられるが、誰がサポート担当をするかはっきりせず、運用フェーズでは商用環境よりコストが高い可能性すらある」とした同氏は、「SIには、適応できるユーザーや分野を見極める責任もあるのではないか」と述べた。

 またエンジニアにとっては「企業側がコミュニティ活動を認めるかどうかで、オープンソースに踏み込めない場合もある」とした。しかし「早いタイミングでプロジェクトが立ち上がり、容易に環境が整うため新技術が試しやすい。自分の意志さえあれば活躍できる場が増大しているとも考えられる」とした。

 そして「ベンダーもオープンソースの利点を認識しており、IBMではEcripse、BEAではBeehiveなど、広めたい技術の裾野を拡大して後につなげるビジネス展開を図っている」と語った。



URL
  J2EEカンファレンス
  http://coin.nikkeibp.co.jp/coin/J2EE0714/
  株式会社アークシステム
  http://www.arksystems.co.jp/
  株式会社テンアートニ
  http://www.10art-ni.co.jp/
  株式会社NTTデータ
  http://www.nttdata.co.jp/
  日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社
  http://www.hitachi-sk.co.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/07/15 11:13

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