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経営層の認知の低さが企業での携帯電話導入の壁に

~WIRELESS JAPAN 2004 公開座談会

右からNTTドコモ、KDDI、ボーダフォン3社の法人営業責任者の各氏が座談会に参加した

司会を務めた株式会社リックテレコム 編集統括部長 土谷宣弘氏
 7月21日から23日まで開催されているイベント「WIRELESS JAPAN 2004」において、「ライバル企業に差を付けるモバイルIT最前線」と題し、NTTドコモ、KDDI、ボーダフォン3社の法人営業責任者が出席する公開座談会が行われた。

 参加したのは、ボーダフォン株式会社 業務執行役員 営業本部 法人営業統括部長 マイク・ベナー氏、KDDI株式会社 モバイルソリューション事業本部 モバイルソリューション国内営業本部営業企画部長 桑原康明氏、NTTドコモ株式会社 法人営業本部 プロダクトビジネス部 担当部長 矢澤寛氏。リックテレコム 編集統括部長の土谷宣弘氏が司会を務めた。

 NTTドコモでは先ごろの社長交代に伴い、それまでのシステムサービス部をプロダクトビジネス部へと組織改編した。これによりシステムの設計開発から、衛星通信やDoPAパケットを統括し、BtoC分野への取り組みも強化するなど、事業内容が拡大したという。

 KDDIでも、4月からモバイルソリューション事業本部を立ち上げるなど、2004年度からはこれまで以上に法人市場へ注力している。

 またボーダフォンはもともとヨーロッパでは法人分野でのシェアが高く、国内ではコンシューマ中心のブランドだったJフォンからの方向転換を図っている。こうした流れを背景として、各キャリアの法人市場への取り組みと、その今後が語られた。


法人向け携帯電話市場の現状

KDDIによる法人向け携帯電話市場の予測
 携帯電話の法人マーケットについては、各社より個人・法人を分けて発表されておらず、その詳細はこれまであまり知られていなかった。KDDIの桑原氏は「個人契約が8000万台で市場規模では9兆円程度の一方、法人は総加入シェアの10%前後、800万程度になる」との推測値を示し、ボーダフォン・ベナー氏、NTTドコモ矢澤氏もほぼ同意した。

 KDDIでは現在のところ、営業などの外勤者向けの法人営業を強く打ち出しているが、桑原氏は「固定電話市場での法人契約比率が約35%であることから、国内の総就業者人口約6300万人の約30%程度となる2000~2400万の潜在市場がある」との見方を示した。

 現在800万に達している法人契約数を企業規模別に見ると、従業員数が多いほど普及率が高い。利用を検討している場合や、内容次第で導入を検討するとの声も同様に規模によって違いも見られるが、押しなべれば「5割程度のポテンシャルがある」との見方ができるとした。同氏は建設、営業各業界の例も挙げながら、業種別でも変わりがないことを示した。

 企業における用途で見た場合には、「会社メールアドレスの転送が最も多い」とのことで、「グループウェアを閲覧してのスケジュール確認、そして内線電話が続いている」という。受発注管理や顧客情報といった特定業務向けはその後になっており、キャリア各社では、この上位を占めるニーズにフォーカスしたサービスの提供を図っている。


企業規模別に分類したアンケート調査結果 同じく業種別のアンケート調査 用途別では、メール転送、スケジュール確認、内線電話の順となる

 NTTドコモの矢澤氏は、「まず法人市場の定義が難しい」と語った。「企業へサーバーを導入して、同時に通信料が上がっても、端末契約が個人名義なら現状ではカウントできない」とした。さらに個人名義のほうが使い勝手がよいことから、NTTドコモ社内でも議論が続いているという。将来的な市場規模については、自動販売機などに利用されている通信モジュールによる機械間通信を含めれば、さらに広がる可能性もあるとした。

 ボーダフォンのベナー氏は、モバイルソリューションの発展へのアプローチという別の側面から、アプリケーション系170社のパートナーとの連携強化を挙げた。そして「そのためには充実したプラットフォームの提供が大事」と述べた。グローバル展開を図るボーダフォンでは、優れたアプリケーションを海外展開することも視野に入れているという。

 各社が共通して語ったのは、それまでの通信コスト単体を削減する観点での導入から、業務効率のアップ、そしてたとえ通信費が若干増えたとしても、その他の経費をそれ以上に削減することでTCOを削減するといった方向性だ。ボーダフォンのベナー氏は、「ユーザーメリットとROIをどう理解してもらうかが法人市場拡大の鍵になる」とし、各社の事例紹介に移った。


ボーダフォン株式会社 業務執行役員 営業本部 法人営業統括部長 マイク・ベナー氏 KDDI株式会社 モバイルソリューション事業本部 モバイルソリューション国内営業本部営業企画部長 桑原康明氏 NTTドコモ株式会社 法人営業本部 プロダクトビジネス部 担当部長 矢澤寛氏

企業への導入メリットを示す各社の携帯電話活用事例

 企業へ導入のメリットを示すには、具体的な事例が欠かせない。KDDI桑原氏は「ユーザーからは導入効果の試算を数字で示して欲しいとの要望が強く、事例による効果を提案に盛り込んでいる」とした。NTTドコモ矢澤氏は「イントラネット化され、リモートアクセスまでのインフラがある企業が導入の対象になる」との前提を示し、これまでの事例を紹介した、


建設業の事例。現場作業者の昼食発注の確認のため、それまでは個別に連絡をとり、オフィスの事務員が集計に2時間を要していた。これをWeb掲載した当日のメニューを携帯電話から選択するようにしたところ、集計作業は15分に短縮されたという 製薬会社の事例。それまでは外回りの営業が直行直帰し、自宅で2時間かけて報告書を作成していた。一部の定型報告を携帯電話で行えるようにしたところ、労働時間が1日1時間削減されたという。また薬剤の販売停止などの情報を一斉同報配信することで、コンプライアンスの問題も解決したという NTTドコモ法人営業部の例。受発注や日報をiモードで送信可能にしたことで、それまでは社に戻っていた外回り営業員の直行直帰が可能になったという。また交通費と残業代といったコストを、一人あたり年間100万円削減した

 NTTドコモ矢澤氏は、「通信料は増えても他の支出が減ってTCOが削減される。通信の定額制を利用すればアッパーリミットが決まるので、利用しやすいのではないか」とした。


メルコホールディングスでの地図情報ASPサービス「GPSMAP」の活用事例
 KDDIではASDLサービスを提供しているが、その出張設定サービスをメルコホールディングスに委託しており、ここで地図を携帯電話上に表示するASPサービス「GPSMAP」が利用されている。特に緊急呼び出しの際には、それまで手配から出動までに3~4時間を要していたが、作業員の所在地ステータスも確認できることから、到着までの時間が数分から1時間程度にまで短縮したという。

 ボーダフォン・ベナー氏は、「急成長の時期は箱を動かしていればよいとの見方があった」と述べ、「営業部隊はコンサルタントであるとの認識を高め、個々の会社ごとに単独の問題点を解決していくことをテーマにしている」と述べた。


3社が提供する法人市場向けの製品・サービス

ボーダフォンが提供予定のモバイルセントレックスサービス「ボーダフォンモバイルオフィス」
 ボーダフォンでは、国内初の3Gモバイルセントレックスサービスである「ボーダフォンモバイルオフィス」を12月1日から提供予定だ。これはオンネットと呼ばれるグループ内の携帯電話同士と、携帯発固定着の通話料が定額となるもの。「特徴はビル内だけでなく、全国どこでも対象になる点」としたベナー氏は、「欧米ではすでにサービス提供しており、スウェーデンでは営業の生産性が向上したほか、アメリカは加えてもオフィス賃貸料金の低下などのメリットが出ている例がある」とした。

 契約は20回線から可能となっているため、比較的小規模な企業でも導入が可能だ。また「当初は営業部のみなど、段階的導入もできる。最終的には全面転換を視野に、PBX機能のインターナショナル展開も考えている」とした。

 また業務用コンテンツなどへ無制限にアクセス可能になる「ボーダフォン・ビズアクセス」のサービスも提供している。これは固定URLへのアクセスが1ユーザーIDあたり月額10,500円となる法人向けのサービスだ。


既存のau携帯を登録するエリア内内線通話定額サービス「OFFICE WISE」
 KDDIの提供する「OFFICE WISE」は、一般のau携帯電話を登録することで、エリア内の対携帯内線通話を定額制にするサービス。料金は通常の携帯電話契約に追加の形となり、月額945円。保留・転送の機能も備え、エリア外や未登録端末への通話では、通常の携帯通話網に自動転送するため、内外線を意識せずに利用できる。配線工事は不要のため、導入が容易な点もメリットといえる。またVoIPとは違い、管理も不要となるという。

 NTTドコモでは、先日法人向けのFOMA/無線LANのデュアルモード端末「N900iL」を発表している。これはオフィス内ではVoIPの内線端末として、外ではFOMAとして利用できるもの。SIPプロトコルに対応しており、一般的なSIPサーバーを導入することで、保留や転送などの内線機能も通常のVoIP端末同様に利用できる。

 また無線LAN回線を用いたCHTMLのブラウジングも可能なため、イントラネット内でグループウェアやWebアプリケーションも利用できる。またメッセンジャーや、在籍状況を把握できるプレゼンス情報表示の機能も備えており、NTTドコモ矢澤氏によれば「社内の位置情報も表示できるアプリケーションを開発中」とのこと。

 開発中のアプリケーションには、PCをリモートで制御できるものもあり、アプリケーションサーバーを介して接続することで、「900iからPCへアクセスして、メール送受信履歴やファイルの閲覧、さらにログオフやシャットダウンも可能になる」という。


内線には無線LAN回線によるVoIP通話を、外出時にはFOMA端末として利用できる 無線LAN回線を用いたCHTMLのブラウジングも可能となっている 在籍状況を把握できるプレゼンス情報表示の機能

法人向け携帯市場拡大の課題と今後

 法人での携帯電話普及にあたっては、各社ともに経営層の認知の低さを挙げた。KDDIの桑原氏は、「CPUが100MHz、内部メモリも数十MB、ディスプレイもQVGAになり、携帯でもPDAとかわらないことができる。これを認識してもらうことが重要」と述べた。

 ボーダフォンのベナー氏は「同じサービスレベルなら、固定からモバイルへシフトするのは見えている。モバイルでも事例に基づいた提案型営業を展開していきたい」とし、NTTドコモの矢澤氏は「事業では利用されていても、案外社内では旧態依然としている企業が多い。導入した企業の成功事例を作ってアピールしていきたい」と述べた。

 最後に司会を務めた土谷氏は「技術面の問題は時間とともに解決する。固定へのこだわりを捨て、携帯電話導入による新しいワークスタイルに期待してほしい」と語った。



URL
  WIRELESS JAPAN 2004
  http://www.ric.co.jp/expo/wj2004/
  NTTドコモ株式会社
  http://www.nttdocomo.co.jp/
  KDDI株式会社
  http://www.kddi.com/
  ボーダフォン株式会社
  http://www.vodafone.jp/


( 岩崎 宰守 )
2004/07/22 10:55

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