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Exanet CEO ギオラ・ヤローン氏
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ストレージソリューションの世界に変革がおこりつつある。これまでの主流であるSAN(Storage Area Network)というストレージ技術にNAS(Network Attached Storage)が迫りつつある、というのだ。確かにSANはそのハイパフォーマンス性や大容量などという点で圧倒的な地位にある。しかし、ここへきてNASも、いわば技術の積み重ねでSANとの間にたちはだかるそうしたハンディを克服しつつある。さらに、なんといってもソフトウェアベースのソリューションであるが故の低価格性や導入後のメンテナンスの容易さなどが手伝って、いまSANにじわじわと迫りつつある、という。このほどExanet Inc.が発表した「ExaStore」(エグザストア)と呼ぶNASソフトウェアプラットフォームも、期待されるストレージソリューションの一つだ。
ExaStoreを開発したExanet CEOであるギオラ・ヤローン氏は、イスラエルを代表するアントレプレナーとして知られる。通常アントレプレナーというと、出資をし経営までの対応がほとんどである。しかしヤローン氏は、それに加えてマーケティングや技術までこなしてしまうやり手だ。同氏はこれまでに、世界第3位の半導体企業であるナショナルセミコンダクタ社副社長をつとめたほか、数多くのIT系ベンチャー企業を設立するなど、幾多の実績をもつアントレプレナーである。それだけに、ヤローン氏のExaStoreにかける意気込みには、なみなみならぬものがあるようだ。
■ ストレージの世界も分散処理型に
革新的なストレージシステムソリューションの提供をめざして、同社が設立されたのは2000年である。当初、すでに日立やIBM、EMC、ネットワークアプライアンスなど大手先行組がひしめいていた中、この分野に向けたベンチャー企業の立ち上げに対しては、疑問視する見方がかなりあったという。しかしヤローン氏は「もちろん大手先行組が柱としているような集中型ストレージソリューション分野でたたかうつもりはない。コンピュータの世界をみるといい。この世界は、まずメインフレームに代表される垂直処理系から始まったが、途中からLANやサーバー、ワークステーションなどによる水平分散処理系にかわっていった。この結果、有望視されていたいくつかの有力メーカーたちが消えていったではないか。同様に、ストレージの世界でも分散処理ニーズが高まりつつある。だから競合が多いとはいっても、こうした変化のポイントをとらえて立ち上げたExanetの方針は決して誤ってはいない」と断言する。それに向けたストレージシステムソリューションがNASソフトウェアプラットフォームであるExaStoreだ。
いまストレージ業界には、SANとNASという2つの技術の流れがある。「現状では、ワールドワイドで前者が90%、後者が10%と数字上では圧倒的にSANの独壇場。しかし、成長率をみればNASが断然上」とヤローン氏はいう。確かにSANは容量からみれば10、20、50TB(テラバイト)などをサポートできる。これに対してNASは数TBどまりである。またパフォーマンスでも、SANがNASより上となっている。これがSANが市場シェア90%の主な理由にもなっている。しかし「NASの導入は迅速に行うことができ、その後のデータマネージメントも容易。そしてリライアビリティや信頼性も向上してきた」とそのメリットをあげる。しかも、SANと比較してコストを低減できる点は、ユーザーにとって大きな魅力だ。「Exanetの技術はSANとの比較でみられるマイナス要因をクリアした。将来この市場はNASがSANに迫る、あるいは超えてしまうかもしれない」とヤローン氏は予測する。
■ エンロン事件をキッカケににわかに重視されるファイルデータ管理
SANではその扱うデータもブロック形式である。しかし、これからは、ビデオやデジカメなどファイルで管理するデータの増大が予想される。これはNASのもっとも得意とするところとなっている。
また一方で注目されるのは、法規制がもたらしたストレージソリューションへのニーズだ。ヤローン氏は「いま米国ではコンプライアンス市場が注目されている」という。これは、数年前のエンロン事件に端を発している。このとき担当の会計士は、書類やメールをすべて破棄してしまった。その後、「SARBANES OXLEYと呼ぶ法律ができて、eメールやチャットなど企業で扱うデータはこれまでの7年間から大幅に延長されて、20年間は残しておかなければならなくなった。これを契機に企業がストレージを買いあさり始めたが、そこで残すべきデータがファイル形式なので、NASのシェアも伸びてきた」というのである。この種の市場がコンプライアンス市場と呼ばれ、今後かなりの成長が期待されている。日本でも例外ではなく、たとえば経理処理の伝票などの保管も5年から10年に延びたし、2005年4月施行の個人情報保護法でも、5000人を超える個人情報を取り扱う事業者は法律で規定される保護対策を実施しなければならないなど、こうしたことに関連したニーズも十分考えられるという。
■ 既存サーバーで利用できるExaStore
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ExaStoreを導入したシステム構成例
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そこで同社は、新たにNASソフトウェアプラットフォーム「ExaStore」(エグザストア)を投入した。
ExaStoreは、これ一つでファイルサーバーをはじめHA(High Available)クラスタ、ロードバランス、分散ファイルシステム、分散キャッシュなどの機能をもっている。ユーザーは、このソフトウェアをのせるハードウェアは既存のもので、できるだけ高性能なものを選べばよいのである。たとえば、ファイルサーバーとしてUNIXやLinux(NFS)、Windows(CIFS)、Macintosh(AFP)のファイルプロトコルなどいずれもサポートしているので、これらのクライアントから利用可能となる。とくにMacintoshは珍しいかもしれない。この理由は、ターゲットとする大きなユーザー層として出版や印刷関係があり、そうした環境に合わせたためだ。またHAクラスタはExaStoreの大きな特徴にも位置づけられており、基本の2サーバー構成から、さらに2サーバーごとにスケーラブルに拡張可能だ。これがユーザーの初期投資を長期にわたって保護でき、コストメリットをもたらしうるゆえんでもある。また、万一、1台のサーバーがトラブルを起こしたとしても、クラスタによる二重化構造によりクライアント側にはなんら支障が発生しないようになっている。さらに、ロードバランス機能や分散ファイル機能は、クライアントからファイルを書き込むときにトラフィックを分散させ、複数サーバーやストレージ間でも分散配置させて平準化が行えるというものである。また分散キャッシュ機能によれば、頻繁にアクセスするようなデータは、各サーバーがもつ8GBのキャッシュ領域に分散配置でき、帯域幅の効率配分が可能となる(右図)。なお、ExaStoreを支える技術がExaMeshと呼ぶアーキテクチャで、追加されたサーバー情報や各サーバー上で動くプロセスなどの管理、そして分散ファイル、メモリなどを含め、統合管理する。
ExaStoreは、上記のように最初2サーバーから使用、そして状況に応じて4、6、8と2サーバー単位で拡張できるなど、既存資産は無駄にしなくてすむ。つまりスループットが限界になればサーバーを換えればいいし、容量が限界のときはディスクを増やせばよいのである。これが同じNASであっても、ハードウェアベースの場合、一つの筐体に容量的な限界がくると、さらに筐体すなわちCPUを購入しなければならず、そうなると新しい筐体にデータを入れ替え、同時に検証もしなくてはならなくなってくる。これはユーザーに対し、手間と時間などのリスクをもたらし、大きな無駄を強いることになりかねないのである。
■ 異種ストレージシステムどうしの再構築で期待
これまでExaStoreの導入状況は、米国ではニューズウィークやニューヨークタイムズ、そしてヨーロッパでは大手印刷会社のブルダ、デージーと呼ぶ粒子加速器の研究所など25~30社に及ぶ。これらのうち30%が導入後すぐサーバーやストレージの容量を増やすなど、すでに拡張フェーズに入っているという。また直近の話題では、アテネオリンピックの映像を配信するための独占権をもつイギリスのインタールート社でもビデオクリップ用ストレージとして活用することが決まっている。日本でも数カ月内には企業に導入される予定だ。一方、最近企業の統合が注目されるが、こうした場合でもExaStoreが効果的という。すなわち、あい異なるベンダーのストレージシステムを統合させるとき、片方を廃棄してもう片方にあわせると、数百億円必要になってくるかもしれない。しかし「Exanetの場合、業界標準のハードウェアを利用できるので、どのような環境でも対応可能」とヤローン氏はそのユーザーメリットを強調する。
「いま競合他社のソリューションでは、仮にNASであってもハードウェアで提供しているので、ユーザーからみると初期投資などコストが大変。このため、一部にはソフトでの対応を始めるところも出てきた。しかし、Exanetは多くのパテントをもち、優秀なパートナーも抱えているので、このような状況が起こっても十分たたかえる」と胸を張る。
さらにヤローン氏は「これまでこの市場に入っていなかったサーバーメーカーも、ストレージ市場に入りうるチャンスがうまれよう。つまり、サーバーメーカーが自社機にExaStoreを搭載し、さらに市販のハードディスクを付加したソリューションを投入することで、より大きなストレージ市場がうまれるはず」と今後に期待をよせる。
なお日本でのExanet総販売代理店は、ITXイー・グローバレッジ株式会社である。
■ URL
Exanet Inc.
http://www.exanet.com/
ITXイー・グローバレッジ株式会社
http://www.e-globaledge.com/
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