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ITR内山氏、「コンテンツ管理でもコンプライアンスを重視すべき」

~Content Management Forum 2004 開幕記念講演

 8月31日、9月1日の両日、「Content Management Forum 2004」(株式会社アイ・ディ・ジー・ジャパン主催)が東京コンファレンスセンターで行われている。8月31日には、株式会社アイ・ティ・アールの代表取締役で、米META Groupアナリストの内山悟志氏が、「情報資産の有効活用に向けたコンテンツ管理」と題した開幕記念講演を行った。


なぜコンテンツ管理が必要か

株式会社アイ・ティ・アールの代表取締役 内山悟志氏
 内山氏によれば、企業の中のさまざまな情報を管理しなくては、社会責任を果たせない、という観点から、コンテンツ管理分野に注目が集まりつつあるという。米国では、文書社会、訴訟社会ということもあり、銀行、保険、医療、政府地方自治体、軍などに加えて、製造業でも航空や医薬など、大量のドキュメントを扱うところではCMS(コンテンツマネジメントシステム)を用いているところが多いのに対し、日本ではまだ取り組みが遅れているという。「もちろん日本でもそういったソリューションはあったが、導入は特定の部署の特定の文書に限られるケースが多いなど、部分導入にとどまってしまっている。企業全体でCMSを導入する、ECM(エンタープライズコンテンツマネジメント)に対しての取り組みは遅れている」と、内山氏は現状を説明した。

 続いて内山氏は「現在の企業経営では、バス会社が時刻表や路線をきっちり決めて、その計画表の通りに運行していく、というような、定型的な経営だけでは苦しくなってきている。タクシーの運転手のように、基本的なルールは決まっていても、瞬時に状況を判断して個々が柔軟に動けるような経営が求められている」と述べた。そしてこうした「適応型経営」では、「競合他社の動きや顧客のニーズなど、外部のシグナルを察知するとともに、企業の中にある基幹系システムのデータ、グループウェア/メールなどのテキストデータ、ナレッジなどに蓄えられた定性的な情報、こうしたものをうまく駆使する必要がある。そして、環境の変化に適応することが求められているこの分野では、ITに対して経営側から期待されているものがある」(同氏)。


コンテンツ管理に求められること

コンテンツ管理の“ライフサイクル”
 ここ10年、オープン化が進んで以降、さまざまなITシステムが備えられてきた。こうした状況では、情報の管理が日々重要になってきており、情報は増えることはあっても減ることはない。また、コンテンツはさまざまな形で企業内を流通している。Word、Excelといったものだけではなく、PDF、HTML、XMLをはじめ、音声や写真、画像などのリッチコンテンツなど、現在では多様なデータが企業内に存在しているのだ。こうしたデータは本来、「目的に添ってアプリケーションで制作され、そのアプリケーションのもとで管理されてきた。しかし今では、複数の形式、アプリケーションで作成されたものを、一元管理できるようにしたい、というニーズが高まっている」と内山氏は語る。

 当然、異なったコンテンツをまとめて管理するためには、柔軟な運用が求められる。「たとえばセキュリティ面では、すべてのコンテンツをすべての従業員に公開できるとは限らないので、機密性に応じた管理が必要。また最適なワークフローに沿った作業工程も重要だ。企業内のコンテンツの場合、作成者がいて、別の人が修正し、承認し、その後正式にプレスリリースで流されるといった手順を踏む。つまり、コンテンツを“流す”ニーズがある。さらにコンテンツの“精度”と“鮮度”の問題がある。コンテンツは生ものなので、時間がたつと価値がなくなることもある。本当に正しいものを同時に参照できるかが確認可能な仕組みが必要」と内山氏はこれを解説した。

 また、「コンテンツは形があるものではないので、いらなくなっても放っておかれることが多い。こうしたものがいつまでも残っていることで、誰も気が付かないうちに盗まれたり、古い情報がまかり通っている、などという事態が起きる。このためコンテンツは、作成から変更、承認、公開、保存(廃棄)といったライフサイクルで管理することが大事」とライフサイクルで管理することの重要性を訴える。

 さらに、「コンテンツは自社の中ですべて生み出されているのではなく、パートナーや顧客との間で流通することによって形になる。ばらばらにリポジトリを持っていると、活用できるはずの情報が分断されたり、行き渡るはずの人に渡らなかったり、という事態になる」と、統合されたECMリポジトリによる、“コンテンツのサプライチェーン”の必要性も述べていた。


コンテンツ管理の目的と課題

コンテンツ管理の目的
 では、企業がコンテンツ管理を行う目的は何なのであろうか。これに関して内山氏は、1)情報管理、2)組織の整合性とコスト削減、3)顧客サービスと記録管理、4)迅速な市場投入、5)法規制への準拠、の5つをあげて説明する。そしてこうしたことを実現するためには、ドキュメント作成、テンプレート、改変履歴を含めたリポジトリ管理、バージョン管理、ワークフローと承認機能、ユーザーごとの権限を管理するパーソナライゼーション、などの機能が必要とした。

 一方、内山氏は課題に対しても触れた。代表的なものとしてはコスト面をあげ、「堅固なインフラを持てればそれに越したことはないが、それにはコストがかかる。運用時のコストも必要なことも忘れてはならない」としたほか、運用プロセスの変更、ユーザーの教育などが必要だったり、コンテンツの互換性、現状のシステムとの連携などに問題が出る可能性があることをあげ、注意を呼びかけた。


コンテンツ管理の過去、現在、未来

広義と狭義のコンテンツ管理

コンテンツ管理分野の将来予測
 こうしたコンテンツ管理システムは、まず専用機で管理するシステムとして登場した後、オープンシステムの上で「ファイル管理」「文書管理」などと呼ばれて運用される時代が長く続いていたという。またWebが登場してくると、外部にコンテンツを公開するようになるが、「最初のころは公開するデータも少なく、手作業で管理できた時代もあった。しかし今では、ネストが深く情報が膨大になったため、きちんと管理しなくては、リンクが切れたページや古い商品情報が残るなどの不具合が出てしまった。これによって情報をしっかり管理する必要性が出てきた」(内山)。

 この流れから、現在では「コンテンツ管理」と呼んだ場合、狭義と広義では意味が異なってくると内山氏は説明する。同氏によれば、狭義でのコンテンツ管理は、WCM(Webコンテンツマネジメント)を指すという。これはWebサイト、ECサイトなどの中にある膨大なコンテンツをしっかり管理するためのもので、電子コンテンツの作成、管理や公開などの各作業や、それらのワークフロープロセス管理を含めた製品がこれにあたる。

 広義の場合では、「企業の内部データを管理するECM」がこれにあたる。もともとは企業の中でのコンテンツ管理だけを行っていたものだが、最近ではWCMも包含し、Web情報と企業内の情報、双方を管理できる環境として認識されてきたという。「Webコンテンツの元ネタは企業の中にあるのだから、その中から一部を切り出してWebに流すという、広範なワークフローをカバーできるようになった。また、ユーザーのアクセス権限に応じて、社内には見せるが社外には見せないとか、ログインしたユーザーにだけは見せる、といった運用ができれば、コンテンツ管理インフラが1つですむ。WCMと社内用のECMを別に持つ必要がなくなった」と同氏は述べた。

 現在のコンテンツ管理はこうした性格上、それを提供するベンダも大きく4つにわかれており、ドキュメント管理、Webコンテンツ管理、プラットフォーム、Eコマースの各分野から参入してきていると内山氏はいう。このようにECM市場にはいろいろな氏素性を持つベンダがいるが、最近では全体をカバーできるスイート製品に移行する動きがあると指摘した同氏は、「将来的にはエンタープライズレベルのスイートを提供する数社と、特定の分野を得意とするニッチなベンダの集まり、に分かれていくだろう」と予測した。


コンテンツ管理とコンプライアンス

IT管理に関するマトリックス。H/M/Lの3段階で評価されている。「企業・業種ごとに必要要件は異なるので、あくまでもこの表は例」(内山氏)
 またコンテンツ管理製品を含めたIT製品を運営していく上では、「コンプライアンス面が最近厳しくなってきているので、この対策をするべきだ」と内山氏は主張した。不正アクセスからのデータ保護や、同一性の管理、定期的な報告、情報の開示など、やらなくてはいけないことを、セキュリティ、インフラ、アプリケーションなどの各レイヤ別に分析し、マッピングしておくべきだというのである。「こうした対応をしておかないと、対症療法的に、何かが起こってから対処することになる。コンテンツ管理の第一歩はこういうことからはじまる」と、この重要さを強調した。

 最後に内山氏は「今後もデジタルコンテンツの量は増えるし、種類も増える。これらを管理するためには、(それぞれに応じた)適切な管理が必要。今後は全体のコンテンツを一元管理することへ集約していくだろう。さまざまな個人情報、デジタル文書の著作権保護などの観点から、(コンプライアンス面も)厳しくなっていく。企業はしっかりとしたIT管理基盤を持っておかないと、リスクにさらされる危険性がある」と述べ、講演を締めくくった。



URL
  Content Management Forum 2004
  http://www.idg.co.jp/expo/cmf/


( 石井 一志 )
2004/08/31 19:33

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