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「企業では商用UNIXからLinuxへのマイグレーションが広がっている」日本IBM中原氏

~IBM Linuxコンファレンス 講演

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)が9月7日・8日の2日間にわたって開催している「IBM Linuxコンファレンス~秋のLinux祭り」において、「Linuxを取り巻く業界動向と今後の方向性」をテーマに日本IBM Linux事業部 中原道紀氏が講演を行った。


日本IBM Linux事業部 中原道紀氏

企業におけるLinux適用分野。現在ではほぼすべての領域をカバーしている
 まず「LinuxはUNIX」の1分野とした同氏。1991年に最初の公式バージョンがアナウンスされた「とても若いOS」ながら、数多くの開発者に支えられ、この10年余の間に加速度的な広がりを見せている。そのLinuxの特徴として同氏は、組み込み機器からPDA、そして企業サーバーからHPC分野まで、基本的にはワンソースでマルチプラットフォーム動作が可能な点を挙げた。これにより「ISVでは最小限のソースコード修正でポーティングでき、検証も容易になる」ことがメリットになる。

 一般的なLinuxの採用理由として挙げられるのは“安さ”。確かにコモディティ化の進んだIA環境で動作するため経済的といえるが、マルチプラットフォーム対応により運用ノウハウを一本化できるほか、「ベンダーロックオン(囲い込み)を回避できる点から、各国の政府機関での採用も進んでいる」とその他にもメリットはあるとした。

 そしてサーバー分野の市場動向から「現在、企業では商用UNIXからLinuxへのマイグレーションが進んでいる」とした同氏は「コストはもちろん、追加する場合の容易さから、エッジのWebサーバーなどでは、ほとんどLinuxが採用されている」との例を挙げたほか、「ハードウェアに依存した部分を除いて、LinuxではUNIXのアプリケーションがほぼ稼動するといってよい」とし、「データベースサーバーへの採用など、商用UNIXとほぼ同様のステップで適用分野も広がり、現状ではすべての分野で使われている」とした。

 こうした採用の広がりについては「カーネル2.4、2.6において、信頼性・可用性といったエンタープライズの要件を満たすレベルになったことが大きい」とした。これにより、ISVでのLinuxサポートも本格化した面がある。特にカーネル2.6では、SMP構成時のカーネルのパフォーマンスが大幅に改善されたほか、I/O周りの改善、NPTLの採用などでアプリケーションの動作も高速化されている。

 現在のところ、企業向けのLinuxディストリビューションとしてカーネル2.6を採用しているのはSUSE LINUX Enterprise Server 9のみだが、Red Hatでも現在カーネル2.6を採用したRed Hat Enterprise Linux 4を開発中だ。こうしたLinuxディストリビューターでは、「更新が続くカーネルのある時点のリリースでフリーズし、それを元にしたパッケージを5年間サポートするサービスを提供している」。こうして安定した製品を供給することで、企業ではLinuxを安心して採用でき、ISVでも検証の手間が大幅に改善されることになる。

 企業への採用においては、セキュリティ面の懸念がついて回る。開発者向けの調査結果によれば、Linuxの安全面は商用UNIX各OSとほぼ同等で、Windowsよりセキュアとの回答が多い。しかし「ソースコードが公開されていることから、アタックも受けやすい面もある」ことは確かだ。それでもメンテナンスを手がける人間が多いため、修正パッチが即座にリリースされる利点もあり、同氏は「OSSだから、商用だから安全ということはいえない」とした。


「Linuxを他のOSと遜色なく使える」ことを目指したIBMのLinuxへの取り組み
 IBMでは、1998年秋にDB2の動作プラットフォームとしてLinuxに対応して以来、世界1位、2位のシェアを占めるRed Hat、SUSEとも1999年の段階で協業するなど、早くからLinuxへのコミットを続けてきた。これについては「市場がオープン標準を受け入れ、動いていることがトリガーになっている」という。「技術がコモディティ化し、差別化の難しいなかでの強み」として、「IBMではハードウェア、ミドルウェア、サポートすべてにおいて、Linuxを他のOSと遜色なく使える」ことを目指してきたという。

 そして「Linuxに何を足せば商用UNIXと同じになるか」との観点から、世界20地域、600人以上のエンジニアが参加する「Linux Technology Center」を設立するとともに、国内でもLinux検証施設である「Linuxコンピテンシーセンター」を開設している。 そして現在IBMでは「Linuxをオープン標準のひとつとして、オンデマンドを実現する上で重要なコンポーネント」と位置づけているという。またIBMの技術者は、300人以上がLinuxコミュニティのメンテナー、コントリビューターとして参加しており、こうした施設では、パッチの開発などソースコードレベルでオープンソースへの障害に対応するサポートサービスを提供しているという。その際の成果は、コミュニティにフィードバックも行っている。

 またIBM自社開発のPOWERプロセッサを搭載したeServer z/i/pSeries上でも、Linuxをネイティブでサポートしている。POWERアーキテクチャでは、同社がメインフレームで培ってきた技術を応用し、CPUを仮想化するLPARやマルチスレッドなどもサポートしている。同氏は「来年第1四半期にはPOWER環境を整えていく。ゆくゆくは高価とのイメージを払拭してPOWERプロセッサをコモディティ化し、オープン環境での差別化を図りたい」とした。

 また最後にサーバー分野では採用の広がったLinuxの今後について、「Linuxを他のOSと遜色なく使えるという意味では、今後クライアント環境でMicrosoftの代替品になり得るのか、今後の方向性を注視していきたい」とした。



URL
  IBM Linux コンファレンス
  http://www.ibm.com/jp/linux/event/2004/matsuri/

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( 岩崎 宰守 )
2004/09/08 00:00

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