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インテル、社内のIT投資の状況を公開

2003年版ITパフォーマンスレポート日本語版を10月中に配布

インテル 情報システム部 部長の海老澤正男氏

プロジェクトごとに価値を評価
 インテル株式会社は10月13日、同社のIT部門における取り組みをまとめた「2003年インテルITパフォーマンス・レポート」の内容を公表した。

 同レポートは、2001年版から発行しており、今回で3回目。インテル社内における情報投資の状況と、その投資効果などを公開することで、企業のIT部門の参考となることを目指している。

 現在、インテルでは、米州で6万2000人、欧州で1万3000人、日本を含むアジア全域で1万5000人の社員を擁するグローバルカンパニーとなっており、800以上の業務アプリケーション、300のサーバーアプリケーションが、5万4000台のサーバー、3.2PB(ペタバイト)にのぼるストレージ、7万台のモバイルPC、3万4000台のデスクトップPCで利用されている。また、ワイヤレスのアクセスポイントは4000カ所以上、16万にのぼるLANノードが設置されており、一日あたりのEメールの件数は420万通、従業員一人あたりの一日のLANの使用帯域は35MBにのぼるという。

 「全世界がITで結ばれており、一度も顔を合わせたことがない社員同士が、一緒に仕事をして、実績をあげていくということが日常的に行われている」(インテルの情報システム部・海老澤正男部長)という環境にあり、まさに、IT活用の一大実験場だといえよう。

 だが、海老澤部長は、「投資コストを抑えながら、最大の価値、生産性を追求するのは多くの企業IT部門に課せられた課題。それはインテルでも同じ」とし、「ここ数年、インテルは、モビリティでの生産性向上に注目しているとともに、それと同時に発生するセキュリティリスクにも取り組んでいる」と説明した。


2003年のIT投資価値は4億ドルに

 2003年のレポートによると、インテル社内において、ITがもたらしたビジネスバリューは、4億4420万ドルに達するという。同社では、ひとつひとつのシステム投資について、SLA(サービス・レベル・アグリーメント)の遵守目標を設定するとともに、EメールやPC、ネットワークインフラなどに対する社内サービスレベルを同業他社と比較するベンチマークの実施により評価。さらに、各ITプロジェクトごとに実質的な価値をどの程度もたらしたのかといった指標を、金額に換算して提示することで、IT投資そのものに対する価値の評価を細かく行っている。

 「ワイヤレスLANに対する投資によって、ユーザーはどの程度のベネフィットを得られたのか、工数や時間の短縮、利便性の向上はどの程度図られたのかといった点を金額で換算し、実際の価値を推し量っている」という。


各部門における成果を見る

 今年、情報システム部門と統合されるeビジネス部門では、外部ホスティングサービスの活用から社内サーバーへの移行、eビジネスサーバーの統合、インテルItanium 2プロセッサ搭載システムの導入などのプラットフォームの改革に乗り出すとともに、中国をはじめとするアジア地域でのインテルの事業拡大に合わせた投資が相次いだ。結果として、原材料に関する取引では60%が電子化、顧客からの受注業務では85%が電子化することに成功。eビジネス部門で10億ドルの削減を達成したという。

 製造部門においては、新たなツールの導入によって、製造能力と製造効率の上昇に直結させたことで、220万ドルの費用を削減する一方、オートメーション関連のトラブルの際に電話サポートの迅速化を図ることで障害の時間を短縮。また、セキュリティ戦略を「外壁強化から深いところでも守る形へシフト」(海老澤部長)としたことで、製造ラインそのものの停止を削減した。「これまではセキュリティの問題から、製造ラインが停止するという事態も発生していたが、2003年は、決定的なライン停止という問題は一度もなかった」という。同部門では今後3年間にわたって、ITコストを35%削減する計画に取り組む考えだ。

 デザイン・エンジニアリング部門では、これまでのシステムを、IA(インテル・アーキテクチャ)上へと移行する大幅な移行措置が進められた。ベンダーとの協力関係によってEDA(エレクトロニック・デザイン・オートメーション)をIA上のLinuxに移植。現在はItanium 2上にアプリケーションを移行する作業をすすめているという。この移行措置によって、7億6600万ドルの費用を削減。製品の市場投入までの時間を短縮し、作業の効率化が実現できたことで、同部門のユーザーの95%以上が満足していると回答したという。

 セールス&マーケティング部門では、Centrinoモバイルテクノロジ搭載のノートPCをいち早く採用。2800台を社員に配布し、フィールドセールスで活用している。欧州の拠点では、ホットスポットのマップツールを用意し、これを社員にオンラインで提供。セールス担当者の強力な支援ツールとして利用されているという。

 一方、ナレッジワーカーに対しては、社員同士のコラボレーション力を強化できる仕組みを提供することで、費用が発生する外部コンサルティングの時間を800時間削減。デザイン時間を平均で15%削減することに成功したという。また、不要なデータストレージを1.6TB分も削除できたという。


モビリティでの成果を追求

 こうした各部門での導入成果とともに、2003年の大きな成果は、モビリティ利用における成果だといえる。

 インテルでは、現在導入されているPCの約7割がモバイルPCだが、「新規導入比率で見ればすでに約8割がモバイルPC。ナレッジワーカーでは87%がモバイルPCを利用しているほか、日本法人の正社員では、わずか3人を除いてすべてがモバイルPC」(海老澤部長)という。

 インテルの試算によれば、ワイヤレスとモバイルの2つの技術の組み合わせにより、従業員の労働時間が一週間で5%程度削減できたと説明。従業員一人当たりで年間5000ドルの経費削減が可能になったとしている。

 また、6400台にのぼるモバイルPCへの入れ替えで、年間2600万ドルもの価値を産出できたと試算している。


災害時にも威力を発揮

 興味深い例としては、モバイルPCへと移行したことで、災害時などにもビジネスを継続的に推進できたケースがあるという。

 カリフォルニア州フォッサムのオフィスでは、配水管が破裂し、社内が水浸しになるという事件が起こったが、社員はモバイルPCを持ち出すことで、「オフィスそのものを社外に避難させることに成功」(海老澤部長)し、顧客への影響はまったくなかったという。

 また、オレゴン州ポートランドの大雪被害では、3日間にわたる道路閉鎖を余儀なくされたが、5000人のインテル社員はノートPCを用いて、自宅から通常通りの業務が行えたという。

 だが、こうしたモビリティによるベネフィットが享受できる一方で、気になるのはセキュリティに対するリスクマネジメントだ。

 海老澤部長も、「モビリティのベネフィトはわかるが、セキュリティのリスクが心配で、踏み出せないという声は多くのIT部門から聞いている」と前置きし、「しかし、技術的な対策とともに、よりわかりやすいセキュリティポリシーを策定することで、リスクを最小限にすることができる」と話す。

 セキュリティ対策は、社外からの脅威、社内からの脅威、そして、うっかりミスによるもの、意図的に行われるものに対して、それぞれ対策を施す必要がある。

 海老澤部長は、「うっかりミスに対しては、教育の徹底や、管理をしっかりすることが必要。インテルでは、自席を離れる際に、PCが他人に持ち運ばれないようにするためにセキュリティチェーンをかけていなかったり、画面をスクリーンセーバーブロックしていなかった場合などにはすぐに警告されるといった仕組みになっている。また、必要な人にだけアクセス権限を与えることはもちろん、パスワードは3カ月に1回更新する強制的な仕組みを導入したり、特定の意味を持つ文字列はキーワードとして受け付けないという仕組みを導入している。今後はVoIPも暗号化していくことが必要」として、インテル社内では、あらゆる角度からセキュリティ対策を行っている事例を示した。


ITパフォーマンスレポートは幅広く公開

 インテルでは、同レポートを広くユーザーに公開していく予定であり、同時に常時、新たな情報を同社サイトなどを通じて公開していく考えを示している。

 なお、2003年のインテルITパフォーマンス・レポートは、英語版が9月から公開されているが、日本語版に関しては、10月中にも同社サイトからダウンロードできるようになる。約25ページ程度で構成されている。また、印刷物による冊子も部数を限定して作成するが、これは一般には配布しない予定。

 日本語版は、10月下旬から http://www.intel.co.jp/jp/business/it/ でダウンロードできるようになる。



URL
  インテル株式会社
  http://www.intel.co.jp/
  IT@Intel
  http://www.intel.co.jp/jp/business/it/


( 大河原 克行 )
2004/10/13 17:23

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