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テレコムの巨人“ノーテル”が歩む顧客重視の確実路線


 テレコムベンダの最大手、加Nortel Networks(以下、Nortel)は、1895年に設立され、すでに100年以上という歴史をもつ。また日本法人にあたるノーテルネットワークス株式会社(以下、ノーテル)も1983年設立だから、これまた20年以上である。こうしたNortelの長い歴史は、これまでに決して華々しさを表面化させなかったにしても、この間蓄積されてきたWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)などの光伝送をはじめVPN(Virtual Private Network)、VoIP(Voice over IP)ほか多彩な技術が、ワールドワイドで着実に顧客をつかむことに貢献した。ノーテルの専務取締役 営業統括本部長であるニック・ブルーデンヒル氏は「これもお客様との信頼関係および歴史で築きあげてきたセキュリティ、コンバージェンス、信頼性のたまもの」と断言する。このたび、同社体制も2004年10月から従来の4事業部門から「エンタープライズネットワークス」および「キャリアネットワークス」2事業部門に移行させ、果敢ながらも確実なステップで新たなビジネス戦略に挑む。ここでは、ブルーデンヒル氏に、特にエンタープライズ市場における近況を聞いた。


セキュリティ、コンバージェンス、信頼性にフォーカスされてきたエンタープライズ市場

ノーテルの専務取締役 営業統括本部長、ニック・ブルーデンヒル氏
─ここへきてエンタープライズ市場も大きな変化をみせているようですが、現状をどうみておられますか。

ブルーデンヒル氏
 今エンタープライズ市場はダイナミックに変化し続けています。お客様もこの変化に対応する必要があり、そこにどうクリエイティブなソリューションを提供させていただくかがカギです。こうした市場の変化があり続けるかぎり、今後数年先までをも十分にらみ、お客様の利益最優先でビジネスチャンスをつかまなければなりません。


─そのためには、どのような事業戦略が求められるのでしょうか。

ブルーデンヒル氏
 今、重点的に力を注いでいる分野が3つあります。第1がセキュリティです。これは企業にとりましても、最近とみに重要不可欠なテーマになってきましたね。ネットワークは、いつでも確実にアクセスできなければなりませんが、同時にモバイルやワイヤレスあるいはワイヤードなどさまざまな環境で、自らのネットワークをどこまで保護できるのかが非常に大切です。ノーテルでは、セキュリティソリューションの開発に多大な投資をしており、負荷分散やファイアウォール、SSL(Secure Sockets Layer)-VPNを実現する「Alteon」やIPsec(IP Security Protocol)によるVPNを実現する「Contivity」ほか豊富なセキュリティ製品を用意しています。さらに、市場におけるここ1年の新しい現象は、セキュリティをエンドトゥエンドで確実に組み込むこと、これこそネットワークソリューションの最重点課題になっています。

 第2が、コンバージェンス(統合)です。VoIPはその典型例ですが、これだけではありません。つまり、1つのネットワーク上で、音声やWeb、Eメールなど複数トラフィックを扱いたい、というお客様が多くなっているのです。コンバージェンスの話題は3年前からありますが、ここへきて本格的に主流になってきました。そこで、LANスイッチやVoIP、またターミナルサーバーにしても、最初からコンバージェンスネットワークを意識して機能化、お客様に提供させていただくというスタンスをとっています。

 そして第3が信頼性です。これは100年以上にわたるキャリアの方たちとの長いおつきあいからくる経験や歴史に裏打ちされており、信頼性に対するお客様のニーズは、どのベンダよりも理解しているつもりです。加えて、最近ではモビリティも重要な戦略に掲げられますね。これは、オフィス内のワイヤレスLANであったり、モバイルワーカーに対し外出先からのネットワークアクセスを可能にしたりする世界です。いまワイヤレスLAN製品をフルラインでとりそろえており、確実にそのインフラを提供できる体制ができあがっています。


―セキュリティ、コンバージェンス、信頼性に関しましては、多くのベンダも重点課題としています。とくに御社の他社に対してのコアコンピタンスは何でしょうか。

ブルーデンヒル氏
 この分野での競争は確かに激化していますね。これら3つは、極めて興味深くかつチャレンジングです。大切なのは、セキュリティや信頼性に基づく技術をお客様が望むソリューションとして提供できるか否かでしょう。また、コラボレーションを通じてエンドトゥエンドソリューションをお客様に提供できる実行能力があるか否かもです。この点を、長い歴史で勝ち得た市場に対する深い理解、そしてR&Dを中核とした強力な技術でクリアできます。とくにソリューションの提供は業界一と自負しています。ここから、より革新的なソリューションをご提供できるようにいたします。

 最近のソリューション例は、音声通話や電話会議、ファイル送信、プレゼンス、モビリティ機能などを提供する次世代マルチメディアコミュニケーションプラットフォーム「MCS5100シリーズ」があります。ほかにも、LANスイッチ製品、従来とひと味ふた味もちがうワイヤレスLAN製品、ファイアウォール、VPN製品などを投入しています。今後ともこうしたチャレンジング製品に投資をし、さらに具体的なソリューションという形でご提供申し上げます。


日本のユーザーはハイレベルで要求も厳しい

─日本の市場をどうとらえておられますか。

ブルーデンヒル氏
 日本のノーテルは設立が1983年と、これも大変長い歴史を持っています。エンタープライズビジネスも、音声とデータを中心に当初からかかわってきました。このように、日本の市場は十分理解しているつもりですし、お客様への導入実績も大変豊富です。またパートナー企業とも非常に良好な関係を保ち続けています。こうしたことをベースに今後も取り組んでまいります。


―このたび組織が4事業部門制からエンタープライズネットワークおよびキャリアネットワークの2事業部門制に移行しましたね。これに向けた日本側の戦略はどう変わりますか。

ブルーデンヒル氏
 今回の組織変更は、ノーテルの今後の方向性という意味からして大変意義深いものがあります。まず、オプティカルネットワークス、ワイヤレスネットワークス、ワイヤラインネットワークスといった3つの事業部門がキャリアビジネスに統合されました。ここで重要なことは、シナジー効果を発揮することと、エンドトゥエンドソリューションの効果的な提供、そしてコスト削減ですね。この意味で3事業部門の統合は大変意味のあることです。またエンタープライズネットワーク事業部門は変更前から継続されたものであり、マルコム・コリンズが引き続き社長を務めます。彼は今後とも日本のビジネスをさらに成長させるために努力をしてくれるはずです。一方で、ノーテルは技術力は高くご評価いただいていますが、マーケティングはいまひとつの感を否めないのではないでしょうか。しかしこれからは、コミュニケーション、ソリューションをよりご理解いただくべく、マーケティング活動にもこれまで以上のパワーを発揮させることになるでしょう。


―日本のユーザーは諸外国と比較して、どこが違いますか。

ブルーデンヒル氏
 市場におけるトレンド、つまりセキュリティや信頼性、エンドトゥエンドソリューション、そしてコンバージェンスなどの見方につきましては日本と欧米などではそれほど異なりません。日本でのビジネス成功のためには、やはり日本のカルチャーを十分理解することが大切です。こと品質につきましては、日本は要求が厳しいですね。また日本のエグゼクティブやマネージャの方たちは、技術に対する知識がほかの国と比較して数段高いと思います。米国やカナダでは、コンセプトや価格の話が中心ですが、日本では詳細なスペックなどの話をすることが多いです。こうしたハイレベル性を念頭においたビジネス戦略が日本におけるキーポイントです。


―日本のユーザー層はエンタープライズ系とキャリア系ではどのような比重となっていますか。

ブルーデンヒル氏
 具体的な比率は申し上げられないのですが、中央政府から地方自治体、大学などすべてを含みますと大変大きなシェアで、この分野は、ノーテルにとりましても非常に重要な部分です。年々この状況は、金融や製造の頑張りなどで変化しつつありますが、とくに大学関係は大きなビジネスになっています。つい最近では佐賀大学医学部へ導入させていただきました。また自治体に関しては、合併によって新たに誕生した京都府京丹後市への導入を発表させていただきましたが、この分野にもさらにフォーカスすべく頑張っていきます。


中期展望:キャリア系技術もエンタープライズ系へシフト

─御社では、コラボレーションに対しても最近戦略的なスタンスをとっておられますね。

ブルーデンヒル氏
 このたび発表しました専用ブロードバンド回線とIPカメラを用いた遠隔防犯ソリューションは、コラボレーションがいかに重要なテーマであるかを物語る事例です。つまり、お客様が真にお求めになるソリューションを提供させていく上で、ノーテルとさまざまな企業が協力しあいながら実現したというものです。この事例は、NTTコミュニケーションズが、ノーテルをはじめ松下電器産業、パナソニックシステムソリューションズ、住友電気工業、ネットマークス、ネットワンシステムズと協力して実現しました。今後の戦略の方向性を明確にした典型例といえるでしょう。


―具体的にはどのようなシステムですか。

ブルーデンヒル氏
 犯罪が増大する中、防犯カメラがとらえた映像による犯人検挙率が上がっています。これをさらに、リアルタイムで遠隔地へブロードバンドで高品質映像を伝送できるようにするというもので、企業や官公庁、警備会社向けに提供したいと思います。ここでノーテルは、マルチキャスト対応スイッチを提供、これにより従来は困難であった複数拠点での同時監視や録画しながらのリアルタイム監視が実現できることとなりました。


―このほど日本では、基幹系ルータ/スイッチの開発・製造・販売・保守などを行う日立製作所とNECによる合弁会社が設立され話題を呼びました。この動きをどう評価しておられますか。

ブルーデンヒル氏
 日本メーカーの開発能力はかなり高いと思います。しかし、テレコム市場では、スイッチにしろルータにしろ、いまだ海外からの影響力が強いといわざるをえないのではないでしょうか。新会社は、キャリアクラスのかなり大型製品の開発を狙っておられると聞いています。私はそのこと自体に関してお話できる立場ではございませんが、1つの大きなインパクトをもたらすのではないかということはいえると思います。ノーテルも、キャリア分野に関しては、今後ともきちんとフォーカスして臨んでまいります。


―今後は中小企業向けのソリューションも積極的に投入されますか。

ブルーデンヒル氏
 特にデータ系につきましては、さまざまな規模のネットワークに適応する製品の提供を目指していきます。ここでも、エンドトゥエンドソリューションがキーポイントになります。また、たとえ大企業とはいっても、本社より小規模の支店網などがありますので、ここに向けたビジネスも重要になってくるでしょう。


―3年後のノーテルはどのような企業になっていると思われますか。

ブルーデンヒル氏
 コンバージェンスは、まだスタートしたばかりですが特に期待できますね。お客様サイドでも1つのネットワーク内で音声、データ、動画を含めたニーズは一層高まってくるでしょう。速度もさらに速くなるに違いありません。さまざまなタイプのトラフィックが発生してきて、ますます毎日の業務や生活の中で多種類のマルチメディア端末が使われてくるでしょう。また光ファイバーも重要なトレンドであると思います。ここへきて、FTTH(Fiber to the Home)あるいはFiber to the Every Deskというように、どこにでも光ファイバーが張りめぐらされることになると思います。ノーテルは、もともとキャリア分野で業界リーダーたるすぐれた光通信技術を持っていますので、今後はそうしたキャリア系技術をエンタープライズ系の方へもシフトさせていきたいと思います。こうしたことも可能な点が、今後のノーテルにおける大きな強みですね。



URL
  ノーテルネットワークス株式会社
  http://www.nortelnetworks.co.jp/


( 真実井 宣崇 )
2004/10/22 11:09

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