10月20日から23日まで、東京ビッグサイトで開催された「WPC EXPO 2004」のコンピュータ・ネットワークトラックにおいて、「導入して初めて分かった『IP電話のトラブル対策』のすべて」と題したセッションが、日経コミュニケーションの主催で行われた。
■ まずは内線から普及、外線も急ピッチでIP化が進む
|
日経コミュニケーションの編集長、宮嵜清志氏
|
この中で最初に登壇したのは、日経コミュニケーションの編集長、宮嵜清志氏。「IP電話導入で変貌するLAN/WAN設計」のタイトルで講演した同氏は、現在のIP電話の傾向とトラブル事例を紹介した。
宮嵜氏によれば、IP電話導入はまず内線から進んでいるという。同誌と総務省が共同で上場企業3000社あまりを対象に行った調査によると、内線をすでにIP化した企業は22.4%で、導入予定の企業とあわせると60%超に達しているということで、同氏は「この流れはもう止まらない」と評した。
外線に関しては、「キャリアのIP電話サービスを利用するという性格上、内線とはまったく別物。昨年の段階ではほとんど導入されていなかった」としながらも、「導入済みが6.5%、検討中まで含めると45.6%になった」と述べ、キャリアの提供サービスの充実などの理由から、急激に増えている現状を示した。
また、拠点間を結ぶ広域内線などのバックボーン回線としては、IP-VPN、インターネットVPN、広域イーサネットの3つがほとんどを占めていること、規模の大きな企業ほどIP化の意欲が高いことなどを紹介した。
そして、宮嵜氏はセッションタイトルにもなっている「IP電話のトラブル」について説明。トラブルを避けるために設計時の鉄則としてはまず、「自動認識を過信しない、QoS装置を経路に入れない」と述べ、HUBの相性によって速度・通信モードの自動認識に失敗し、通信ができなかった例や、ルーターがQoSに対応しておらず、音声パケットを優先する処理ができなかったために音切れが発生した例などをあげ、説明した。
また、停電復旧時の動作確認も重要な要素だという。「復電時にはIP電話端末からサーバーへ一斉にIPアドレス取得などのため、通信が殺到する。通信タイミングをずらすようにしておくなど、対策が必要」と述べた。
さらに同氏は、IP電話では音量設定を行える個所が多いため逆に音量調節が難しいこと、FAXがつながらないトラブルが多くなること、などについて述べたほか、セキュリティ面にも言及。「IP電話で用いられるRTP(Real-time Transport Protocol)は暗号化されていないため、盗聴や不正通信の危険があり、IEEE 802.1xユーザー認証などによって不正なアクセスを防ぐ必要がある。また、データと同じネットワークを通すときは、その影響を受けないようにVLANを組むのは必須だろう」と語っていた。
■ 電話のIP化は「信頼性、品質、機能」と「価格」のトレードオフ
|
NECのネットワークシステム本部 第2プロダクトサービス部 部長、倉橋誠氏
|
また、日本電気株式会社(以下、NEC)のネットワークシステム本部 第2プロダクトサービス部 部長、倉橋誠氏はベンダの立場でIP電話について講演を行った。まず最初に倉橋氏は「IP電話化はコスト削減の面から興味を持つ人が多いが、レガシーの安いものも出てきている。音声のIP化の後に何があるかがポイントだ」と述べ、価格の面からだけでは必ずしもIP化は得策ではないとした。
続いて倉橋氏は「従来のシステムはお客様から見ると高く見えたかもしれないが、信頼性、品質、機能は担保されていた。IP電話ではコストも確かに安くなるが、これらとのトレードオフになる」と述べた上で、「ユーザーにとってはこれらの3つが過剰だった可能性もあり、これらをトレードオフすることで最適なものを得られる。これがIP化の本質で、トレードオフできないのであれば、逆に高くなるだろう」と語り、IP電話の落とし穴について説明を行った。
たとえば人的なものもその1つで、「電話系を担当する総務部門と、データを扱う情報系部門の間で風通しの悪いユーザーもいる。ベンダも努力はするが、ユーザーも両者の連絡を密にする風土を作ってほしい」と述べた。
さらに倉橋氏は、「電話は話せればいいと思うかもしれないが、エンドユーザーはいろいろな使い方をしているため、運用前に電話の使い方をよく調査し、IP化の後は何ができて何ができなくなるかを把握しておくべき」、「回線を太くしたり帯域制御をしたりしているから、ロングパケットでも問題ないというのは誤り。パケット送出中にはほかのパケットの処理はできないため、帯域制御していても、ロングパケットの処理を中断して、優先パケットの処理に取りかかることはできない。設計上、パケットを分割する機能が必要だろう」とも語っていた。
宮嵜氏が「注意すべき」としていたFAXに関しても、「相性がすごくある」(倉橋氏)ため同様に注意は必要だとした。「(FAXのデータをデジタルのまま転送するための)T.38コーデックやT.30コーデックなどを、キャリアによってはサポートしていない場合がある。現状ではみなし音声通信が一番安全ではないか」(同氏)。
また、通常使用ができてもワンタッチボタンだけが使用できなくなるトラブルもあるという。「これは最初にボタンを使用した時、FAX側が通信手順短縮のための設定を勝手にしてしまうため。こうした場合は一度リセットして再設定すればいい」と“ノウハウ”を語った。
停電対策も要注意だと主張する。停電時にIP電話が使えなくなると困るため、PoEでスイッチから給電を行い、スイッチにUPSをつけておくという構成はよくある。しかしこの場合、「UPSは(分散設置される時には)パイプスペースやペリカウンターの中など、温度が高くなる場所に設置されてしまうことが多い。そうするとバッテリの劣化が早くなり、放っておかれたUPS内の蓄電池が膨張して亀裂が生じ、中の希硫酸が漏れて発煙事故が起こることがある。これが怖い」というのである。
倉橋氏はこれを避けるため、「停電時にはIP電話をあきらめる、UPSをしっかりと集中管理してバッテリの消耗を見逃さないようにする、バッテリの消耗度合いを自己管理するタイプのUPSを使う、などの手段によって対策するべきだろう」とした。
またソフトフォンにも注意点があるとした倉橋氏は、ソフトフォンのトラブルの多さを欠点としてあげる。たとえば、「音質を一定に保つため、ベンダはUSBのハンドセットを付けて販売することが多いが、ドライバ同士の競合・相性などのトラブルもある」と述べた同氏は「有効な武器ではあるが、情報システムにとっては必ずしも手離れがいいものではない」とソフトフォンを評していた。
■ URL
WPC EXPO 2004
http://expo.nikkeibp.co.jp/wpc/
( 石井 一志 )
2004/10/25 12:07
|