株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は11月1日、「無視できなくなったIT基盤」「レガシー・マイグレーション」の2つをテーマに、プレス向けのセミナー「第12回NRIメディアフォーラム」を開催した。
■ 「広義」のIT基盤の整備で、ライフサイクルの違いを吸収
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システムコンサルティング事業本部 ITアークテクチャーコンサルティング部長 嵯峨野文彦氏
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ミドルウェアを核としたIT基盤の考え方
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まず、前者のテーマで講演を行ったのが、同社のシステムコンサルティング事業本部 ITアークテクチャーコンサルティング部長、嵯峨野文彦氏だ。IT基盤とは業務アプリケーションを支えるシステムのいわば「土台」にあたる部分だが、狭義ではハードウェアやOSなどの部分がそれにあたると考えられている。しかし嵯峨野氏は、「ITの戦略をどう考えるか、標準化をどう考えるかといった部分から、ものに対する目利き、人材の育成」といった部分までを、「広義」のIT基盤としてとらえるべきだとする。
なぜなら、企業にとって業務の中核となるアプリケーションは1度作ったら10年、15年持たせたい部分だが、「狭義のIT基盤」部分の寿命は5年程度しかなく、これらを土台として考えた場合、アプリケーションの寿命はまだ残っているのに、ともに捨てなくてはいけないという事態に陥ってしまうからだという。「このライフサイクルの差をどうやって埋めるかが課題」だとした嵯峨野氏は、ミドルウェアを「IT基盤の核」に位置付け、この問題を解決するべきだと説明する。
つまり、ミドルウェアによって業務アプリケーションとハード、OSなどを分離しておけば、ハード側に寿命が来た時、すんなりと取り換えられるようになり、また汎用性を持たせておくことで、ベンダの囲い込み戦略の影響も受けなくなるというのである。嵯峨野氏はこの「IT基盤」を業務アプリケーションの「苗床」と呼び、その善しあしは全体の品質を左右するとした。
一方、こうしたオープン化によってベンダ・製品の組み合わせを自由に選べるようになったものの、ユーザーはベンダ任せでなく、自分自身でこれらをきちんと把握する必要が生じた。これが、IT基盤管理という考え方だ。「オープンシステムでは、CIOがシステムを手の内に入れる可能性が出てきた。これができないとメインフレームのころと変わらない」とした嵯峨野氏は、IT基盤管理の重要性に言及した。
しかしPDCAの各サイクルでIT基盤管理を見た場合、「Do」の部分はそれなりにできていても、それ以外はまだまだだという。嵯峨野氏はこれに関して、「『Plan』にあたるIT基盤戦略であるとか、『Check/Action』にあたるITコストの把握や投資評価などはきちんとしておくべきではないか」と述べた。
■ レガシーマイグレーションの4つの手法
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基盤ソリューション事業本部 基盤ソリューション推進室 上席テクニカルエンジニア 野間克司氏
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レガシーマイグレーションの各手法における長短
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続いて、レガシーマイグレーションについて講演を行ったのは、基盤ソリューション事業本部 基盤ソリューション推進室 上席テクニカルエンジニアの野間克司氏。野間氏によれば、「レガシーマイグレーションに、万能のツールはない」という。
レガシーマイグレーションとは、レガシーシステム、つまりメインフレームやオフコンなどを、オープン系のシステムへ移行させることを指す。レガシーシステムは、その長所として高い安定性・可用性などを持つものの、高額な維持コストや、度重なるシステム改修によるシステムの複雑化、といった問題を抱えている。また、新規ビジネスに有効な新技術がレガシーであるがゆえに導入困難なこと、技術者の高齢化などによる要員確保の問題など、将来性に関しても課題がある。
そこで、レガシーマイグレーションが注目されるようになっているのは周知の通りだ。この移行に際してよく用いられる手法としては、ホスト上のプログラムやデータをそのままオープン系へ移植する「リホスト」、ビジネスロジックは残しながらもプログラム、データベースを別のものに置き換える「リライト」がある。プログラム言語を例にとれば、前者はCOBOLのまま移植するが、後者はJAVAや.NETに刷新することになる。
NRIではこの2つに加え、メインフレームを残しながらオープンシステムと接続できるようにする「ラッピング」、業務そのものを見直しはじめからシステムを作り直す「リエンジニアリング(リビルド)」、をまとめてレガシーマイグレーションと呼んでいるが、野間氏は「各手法には長所・短所があるため、用途に応じて使い分ける必要がある」というのである。
■ レガシーマイグレーションに万能薬はない
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適切なマイグレーション手法はケースによって異なる
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たとえばこれらのうちリホストは、コードに手を付けないために移行にかかる時間が短く、コストもほかと比べて安く済むことから、注目されている手法の1つだ。各種ツールもさまざまなベンダからリリースされており、環境も整ってきたように見える。しかし野間氏によれば、リホストツールで機械的に移行する場合、省力化が期待できるのはあくまで一部にすぎないという。
また、「既存システムが内包する問題もそのまま移植してしまう」(同氏)のも問題だとする。アプリケーションがそのまま移植されるということは、古いバッチベースの処理もそのまま引き継ぐことになるし、複雑化したアプリケーション構成にも手をつけないからである。しかも、「これまで利用していた高信頼・高可用のメインフレームからオープン系のシステムに変わることになるので、基盤に対する不安が顕在化してしまう」(同氏)。
野間氏は、こうしたリホストの抱える問題から、「アプリケーションに内在する課題も解決するためには、リライトかリエンジニアリングが望ましい」と主張する。アプリケーション側では、構成の整理や処理方式の見直し、データ構造のスリム化などを実施。一方、基盤側では要件を明確にして、性能・信頼性などをきちんと担保したシステムを構築すれば、再稼働後も不必要なトラブルを避けられるという。
野間氏は「手法としてはまとまりつつあり、リライトでカバーできる部分は多いが、すべてをカバーできる手法はまだない。目先のコスト削減にとらわれず、中長期的に大きな効果を得られるようにマイグレーションを実施することが重要。個々のシステムのマイグレーションに取りかかる前に、IT戦略や全体設計をきちんと立てて、それに基づいてレガシーマイグレーションを行うべきだ」と結論づけた。
■ URL
株式会社野村総合研究所
http://www.nri.co.jp/
( 石井 一志 )
2004/11/01 19:33
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