アドビシステムズ株式会社が12月1日に発表したAdobe Acrobat 7.0と連携するサーバー製品が、2005年春に提供予定の「Adobe LiveCycle Policy Server日本語版」だ。アドビが企業向け製品として位置づけている「Adobe LiveCycle」と、XMLをサポートしたPDFを中核とするAdobe Intelligent Document Platform(IDP)の製品群について、AcrobatとLiveCycleのマーケティング担当バイスプレジデントであるユージーン・リー氏にお話を伺った。
Adobeは以前からサーバー製品を手がけていたが、これらはWindows NTで稼動するスタンドアローンだった。Adobeでは、2002年に買収したAccelioのXML関連技術をPDFフォーマットへと統合した。Adobeでは、従来のサーバー製品をJ2EEアプリケーションサーバーへと実装し直し、Webサービスをサポートすることで新たに生まれ変わった「Adobe LiveCycle」の製品群として、6月よりアメリカ市場向けに一部を提供している。
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米Adobe Systems インテリジェントドキュメントビジネスユニット プロダクトマーケティング担当バイスプレジデント ユージーン・リー氏
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バックエンドとフロントエンドの間で、PDFを介したビジネスロジックを展開できるアドビのIDF
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これまで紙のドキュメントをそのまま電子化できるフォーマットとしてのイメージが強かったPDFだが、XMLをメタデータとして内包できるようになり、PDFを介するIDPによって「インタラクティブな形でビジネスロジックを展開することも可能となった」。
PDFを介して実現するIDPのメリットとしては、紙のフォームを用いていれば、例えば記載不足の項目があればやり取りが増え、結果として7割の顧客が心変わりをしてしまうという例を上げ、「紙の資源を節約するコストではなく、要する時間を短縮できることで、こうしたビジネス上のロスがなくなる」とした。
またPDFでは「官公庁の発行する手続き書類など、記入に時間がかかる複雑なフォームをオフラインで入力できる。法的な規制がある書類などもWebアプリケーションでは扱えない」とした。
XMLスキーマだけであれば通常のWebアプリケーションでも扱うことができ、シンプルなテキストベースのコラボレーションでは、十分機能するケースも考えられる。しかしバックエンドのデータベースと連携したシステムを構築する場合、Webアプリケーションではインターフェイスの作りこみとバックエンドの連携するビジネスロジックについて別個に開発が行われ、これを統合するだけでも時間を要する。一方PDFをUIのビューに用いた場合、項目やレイアウトが変更された際にもフロントエンド側で容易にマッピングでき、開発を効率化できるという。この点も、PDFを用いることの大きなメリットのひとつとした。AdobeではSAPともグローバルな提携関係を結んでおり、PDFコンポーネントはSAP NetWeaverにも多数採用されている。
またリー氏は「企業のIT部門では、管理に大きな労力がかかると考えがちだが、ドキュメントというのは、企業にとって戦略的な資産だ」とし、企業に存在する重要な情報の80%は、データベースの外にある非構造化データとした。そして「残り20%のアプリケーションに、IT予算の100%が費やされているのが現状だ」とし、企業では再考する必要があるのではないかと疑問を投げかけた。
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Adobe LiveCycle製品群で提供されるドキュメント生成、プロセス管理、コラボレーション、セキュリティの4つの機能
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先日発表されたばかりのAcrobat 7.0だが、企業で利用する上での新機能によるメリットについては、Adobe Readerユーザーによるコメントバックが可能になる点をまず挙げた。「企業ではパートナーとのビジネスェ拡大する傾向にあり、例えば大手企業が、デザインパートナーである中小企業やSOHOにAcrobatの購入を強制することは必ずしもできない」とした。この点、5億ものユーザーベースがある無償のAdobe Readerであれば、さまざまなユーザーに対して情報を共有する多くの機会を提供できるとした。
これは、Adobe LiveCycle製品群で提供されるドキュメント生成、プロセス管理、コラボレーション、セキュリティの4つのうち、コラボレーションに相当する機能といえる。
Adobe LiveCycleのうち、最初の国内向けJ2EEベースの製品となるのが、現時点ではアメリカでも未発売の「Adobe LiveCycle Policy Server」となる。この機能について、リー氏は製品の価格改定の際に以前のリストを閲覧不可とすることや、辞職した社員の閲覧権限を無効にするといった運用の例を挙げながら、「ユーザーやグループの単位でPDFファイルの閲覧権限や有効期限といったポリシーを設定できる」と述べた。これにより社内だけでなく社外のパートナーなどと、文書の機密性を維持しながら情報を共有することが可能になる。こうした機能はサーバー側との通信により実現されるが、「ドキュメントの配信時にオフラインのまま閲覧可能な時間も設定できる」という。
Adobe LiveCycleの製品群は、今後順次日本語化され、国内ではSIパートナーを通じて提供される予定とのことだ。Policy Serverによる閲覧権限のコントロールに限っても、利用を望む中小企業のユーザーは存在するだろう。現時点では、Adobeが自身でこの機能をASPサービスとして提供する予定はないとのことだが、リー氏はこうした事業展開について「関心は持っている」と語った。
またPDFと同様に多くのインストールベースを持ち、デザイン性に優れたMacromedia Flashは、PDFと比べてマルチメディア関連に強みを持つが、この数年で同様にXMLをサポートするフォーマットへと変化を遂げている。リー氏は「XMLは現在すでに存在しており、Webサービスは、既存のIT資産を統合する上で最適なものだ。今後も顧客から高い関心を集めるだろう。それだけ重要性が増している技術といえ、さまざまなベンダーがサポートするのも当然の動き」との見方を示した。
■ URL
アドビシステムズ株式会社
http://www.adobe.co.jp/
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( 岩崎 宰守 )
2004/12/03 13:07
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