Enterprise Watch
最新ニュース

ボーランド、PMや経営層を視野に入れた開発プロジェクト管理の新ビジョン「SDO」


 ボーランド株式会社は1月25日、ソフトウェア開発におけるSoftware Delivery Optimization(SDO)を実現する戦略として、米Borlandによる米TeraQuestの買収と、今後の製品ロードマップの発表を行った。

 SDOは、ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、市場の要求に応じて変化するビジネス上の要求と、開発要件とのギャップを解消するためのビジョン。要件の変更による開発プロセスへの影響範囲を分析、プロジェクトの進ちょくをリアルタイムに把握し、短納期、低コスト、高品質といったソフトウェア開発へのニーズを解決する。またビジネスとITの連携を強化し、複数プロジェクトを俯瞰することで最適なタイミングで最適なソフトウェアを予算内で投入することを可能にする。

 米Borlandが1月18日に買収した米TeraQuest Metricsは、ソフトウェア開発プロセスにおけるCMMI、ソフトウェアプロセス改善、品質保証、リスク管理の各分野についてのコンサルティングサービスを提供していた企業。米Borlandでは買収による事業の拡大とともに、チーフプロセスオフィサーの役職を新設し、米TeraQuestの共同設立者で主任研究員のビル・カーティス氏が就任する。


ボーランド株式会社 代表取締役社長 小手川清氏
 ボーランド株式会社 代表取締役社長の小手川清氏は、開発プロジェクトの成功率が26.7%との調査結果を挙げながら、現状のソフトウェア開発の問題点として、納期の遅れやコストの増加、ソフトウェア品質の低下、仕様の未確定やひんぱんな変更を挙げた。

 これまで同社では、開発者の生産性向上にフォーカスしたツールの提供をベースに、2004年からは要件定義、構成管理といったツールによるチーム開発におけるライフサイクル全体の支援する製品群を提供していた。今後はこれに加え、仕様変更によるコストや予算への影響、遅延を部門がフィードバック可能にするインフラの提供をはじめとして、ビジネス視点から見た組織全体の生産性向上を支援するSDOを実現していくとした。

 このSDOを実現する今後のロードマップとしては、新たに3つの製品が発表された。


 開発コードネーム「Themis(テーミス)」は、アナリスト、アーキテクト、開発者、テスト担当者など、開発プロジェクトチームそれぞれの役割に応じて最適化された統合プラットフォーム。チーム内でそれぞれの立場から構成管理などのリポジトリを利用でき、リアルタイムに開発要件の変更を管理できる。また隣接する複数の役割にまたがったコミュニケーションインフラとしての役割も果たし、ビジネス上の要件とのギャップを解消できる。

 「Hyperion(ハイペリオン)」は、Themisのインフラをベースに、プロジェクトマネージャーに向け、プロジェクトで現在起きている詳細な状況を可視化するポータルを提供するもの。これにより開発における問題への対応をコントロールできるようになる。また一方で開発されたソフトウェアの展開、運用を行う管理者やオペレータに対しても、必要な情報を提供できる。

 そして「Prometheus(プロメテウス)」は、CIOやCFO、開発部門の統括者などに、複数プロジェクトをまたがったダッシュボードを提供するソリューション。プロジェクト別の適切な人材の追加投入や予算投資といったリソース管理、さらに人材育成におけるスキルプランニングといった意志決定を支援する。


ビジネスとソフトウェア開発のギャップを埋めるSDO SDOを実現するためのインフラを提供する3つの製品 変更管理やSCMのリポジトリによりチーム開発のインフラを提供するThemis、プロジェクト/プロセス管理とポータルからなるHyperion、全体のリソースを管理するPrometheus

ボーランド株式会社 マーケティング本部長 藤井等氏
 これら3製品により実現するインフラについては「管理のための追加作業を必要とせず、自動的にフィードバックできる仕組みなため、プロジェクトを正しい方向に導いてくれる現場にも有益なもの」(ボーランド株式会社 マーケティング本部長 藤井等氏)だという。また他ベンダーや自社の製品を含む既存環境との連携も視野に入れているという。

 なおThemisについては2005年前半に最初のバージョンが提供される予定で、ほか2製品については1~2年のうちに提供予定とのこと。

 なおボーランドではあわせて、アライアンス本部の設立するととともに、エンタープライズ向けのセールス部門、さらにリセラーパートナーを支援するチャネルセールス部門も強化していくという。


南山大学 数理情報学部 情報通信学科 青山幹雄教授
 発表会にあわせ、「変化を先取りする俊敏なシステム開発」とのタイトルで講演を行った南山大学 数理情報学部 情報通信学科 青山幹雄教授は、「システム開発はソフトウェアを作ればよいだけではなく、きわめて総合的分野になっている」と語った。そして国内のソフトウェア開発ビジネスについて、「受託開発が中心となっているが利益率は低下傾向にあり、知識集約でなく労働集約型の“薄利多忙”になっている」とした。この改善策としては「一般的には管理面が強調されているが、開発の仕組みが弱い点が根本的な問題」とした。

 ウォーターフォール、ビッグバンといった従来型の開発手法は、「20~30年前は適したモデルだったが、いまの変化する要件への対応や、品質面での要求の進歩の前には適合不全」と述べた同氏は、現状について「10年前よりさらに厳しい状況におかれている」との見方を示し、「こうした状況は単にがんばるだけでは改善しない。人材や組織構成を工学的に体系づけることが大事」とした。

 そして同氏は、こうした現状の解決策として、時間軸をベースにしたモデルであるタイムベース開発を提唱した。これは一定期間内でソフトウェア開発での成果物を得るもので、開発サイクルが短い分、管理も容易になり、変化への対応力も高く、リスクも減少するメリットがある。

 しかしこのタイムベース開発を実現するためには、「質を問わないキャパシティからアーキテクトのケーパビリティへ」、つまり人材面で技術の高度化に対して能力を高め、開発のスピードと質を向上することが必要になる。このためには「チームとして人材を育成できる仕組みの確立が大事になってくる」という。

 こうしたタイムベース開発では、複数の成果物を連携して活用することになる。同氏は、「モジュラーなシステム開発を実現するにはさまざまな専門能力を必要とする」とし、「システム全体を統合できるアーキテクトのような人材の重要性は上がっていく」とし、「現状は10年前よりさらに厳しい状況におかれており、危機感を持っている。この中核となる技術と人材をどう育てるかを検討している」と語った。



URL
  ボーランド株式会社
  http://www.borland.co.jp/
  ニュースリリース(SDOの国内展開)
  http://www.borland.co.jp/news/20050125_sdo.html
  ニュースリリース(米TeraQuest買収)
  http://www.borland.co.jp/news/20050125_teraquest.html


( 岩崎 宰守 )
2005/01/25 16:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.