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アマゾン吉松氏「標準化にはこだわらず、まずは気楽にWebサービスをはじめよう」

~Developers Summit 2005講演

 2月3・4日に株式会社翔泳社の主催で開催された開発者向けイベント「Developers Summit 2005」において、アマゾン ジャパン株式会社 Amazon Web サービス テクニカル エバンジェリストの吉松史彰氏が、すでに実稼働しているWebサービスの動向について講演した。


アマゾンジャパン株式会社 Webサービス テクニカルエバンジェリスト 吉松史彰氏
 「Webサービスに関する最近の話題は、システム設計やアーキテクチャといった難しい話ばかり。正直残念」とした吉松氏。元々“Webサービス”は、場所や環境の異なるシステムをネットワークを介して相互に接続する“テクノロジ”を指している。この技術が登場した2001年当時には、例えばホテル、航空券、レンタカーの予約を統合する旅行ポータルなどが多くみられた。このように「Webサイト同士がプログラムを介して接続することで、ユーザーの利便性が向上する」ものが、本来のWebサービスとし、現在身近なものとして、ブログやSNS、ショッピングサイトなどを挙げた。

 米国に本社のあるGoogleやAmazon、eBay、PaypalといったBtoCのリアルサービスプロバイダは、すでにWebアプリケーションの一部をAPIとして提供している。例えば複合検索サービスを提供している「A9」では、GoogleのWeb/イメージ検索、Amazonの書籍検索、映画データベースサイトIMDBへの検索を一回の検索ワード入力で実行できる。これもAPIが公開されて初めて提供できるサービスだ。また米国の不動産売買支援サイト「RedFin」では、地図データ、航空写真データ、地域の不動産物件情報をWebサービスで集約することで、付加価値を生み出している。

 講演中の吉松氏は、会場風景をデジカメで撮影し、WebサービスAPIを公開している米国のサイト「Flicker」へ撮影画像をアップロードし、自身が米国の「Blogger」に開設しているブログへ公開、さらにブログサーチ「Tecnorati」へXML-RPCを介してpingで更新を通知する一連の作業を、1本のJavaプログラムで実行するデモを行った。プログラムでは、HTTPでXMLをPOSTし、GETしたXMLの一部を取得して画像URLを生成、標準APIとなりつつある“ATOM”を介して公開するといった処理を行っている。


A9の提供する複合検索。左からGoogle Web、Amazon Book、Google Image、IMDBの各検索結果 不動産売買支援サイト「RedFin」。米Amazon本社そばの地図、航空写真、不動産物件情報を表示している 吉松氏のブログにアップされた会場写真。これをプログラムで自動実行している

 吉松氏がFlickerの関係者に聞いたところでは、「画像アップロードサイトとしては後発なため、APIを公開することで、ハッカーの口コミ効果を狙った」とのことだ。このように不特定多数の一般ユーザーを集める大企業の手法ではなく、こうした技術的なアプローチもヘビーユーザーへリーチするには有用であるとした。

 国内企業の間では、Webサービスの利用は現在のところさほど浸透していないが、吉松氏は、「米国では、Webサービス仕様の標準化などにはあまりこだわらずに、ある意味で気楽にWebサービスが活用されている」とした。そして「例えばWSDLでデータの静的構造が定義されているとしても、データの内容が本当に妥当かどうかは、動作時に毎回受け取ってランタイムで検証しないとわからない」とし、Webサービスの開発においては「WSDLやSOAPといった標準仕様よりも、流れているXMLデータそのものの方が重要だ」と語った。

 WS-Iの標準などについても、「これがなければ開発できないシステムは確かに存在するが、それが多数ではない」とし「安定した仕様ではないからといって、Webサービスをやらないのは、時間を無駄にしている」との見方を示した。そしてFlickerのように「コミュニティの利用しやすいサービスを用意して公開すれば、ハッカーから不具合や要望なども集まる面がある」とした。

 「Webサービスに必要なのは、HTTP、XML、何らかの開発言語だけで敷居は低く、プログラム言語のスキルで差別化できる領域でもない」と述べた吉松氏は、「Webサービスがつながること自体は、あたりまえになりつつある」と語った。一方でWebサービスには固まった仕様がなく、利用しやすい提供データの構造に関するベストプラクティスも存在していない。またXMLデータ化しても意味のないデータもある。これについてはW3Cで公開している指針「When to use XML」が参考になるとした。

 Amazonでは、広告ではなく口コミでの拡販に繋がるアフィリエイトの効果に着目し、より顧客獲得できるメリットからWebサービスの提供を行っている。Amazonでは、すべての販売商品につけられたIDから、商品名、画像、価格、製造者などの詳細な項目にわたるXMLデータを提供している。これにより例えばここから必要な項目をプログラムで抜き出して、ブログにアップしたりHTMLに組み込むことが可能だ。

 現在のところ、こうした試みへの投資が回収されるほどの売上を上げるまでには至っていないとのことで、Amazonとしては「XML Webサービスが、インターネットの次のイノベーションをドライブするなら、それに参加したい」ということのようだ。



URL
  Developers Summit 2005
  http://www.seshop.com/event/dev/
  アマゾンジャパン株式会社
  http://www.amazon.co.jp/


( 岩崎 宰守 )
2005/02/07 10:56

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