2月24日から25日まで、東京の赤坂プリンスホテルで開催されている「IBM フォーラム 2005」において、日本アイ・ビー・エム株式会社の代表取締役社長、大歳卓麻氏が「加速するオンデマンドの世界 ~いま、企業の目指すべき方向とは~」と題して、基調講演を行った。
■ インベンションとイノベーション
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日本アイ・ビー・エム株式会社の代表取締役社長、大歳卓麻氏
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大歳氏はまず、発明/発見を意味するインベンションとイノベーションは意味が異なる、と語る。インベンションは技術要素だが、「それをどう使って、人間の生活や企業の活動、社会を変えていこうかと考えるのが、イノベーションだ」というのである。世界ではこれまで、たびたび革新が起こっており、例えば蒸気エンジンはそれが発明された後の世界を大きく変えてしまった。
こうしたイノベーションは国という大きなレベルでも要件になっており、英国や米国ではイノベーションに焦点を絞った政策が実行されているという。大歳氏は、「日本の技術要素は世界一と言ってもいいのに、それがどれだけビジネスやイノベーションにつながっているか、という点では別問題」と述べ、収益やイノベーションの観点からは遅れをとっていると指摘するとともに、「日本でも焦点を絞った、実効の伴う政策が必要」とする。
ここで日本の国際競争力に目を向けてみると、かつて80年代後半には日本がトップレベルだった。しかしバブルがはじけた後は、約60カ国中の20~30位以下に低迷している状況だという。個別に見た場合、「特許取得率」や「インフラ」ではかなり上位にいるものの、「ビジネス効率」や「政府の効率」はともに37位と、「変化への適応性、柔軟性では半分よりも下に見られている」(大歳氏)。さらに「株主価値の重視」は59位、「起業家精神」は60位と、特に成績が悪い。このうち起業家精神については、「新しいもの、人を支援するよりは、出るくいが打たれる風土がある」として、日本には保守的な一面がある点を取り上げた。
■ 外の変化への適応がイノベーションの鍵
そうは言っても、企業を運営していくためには、後ろだけを見ているわけにいかない。企業にとってのイノベーションという観点からは、「改善活動もある種のイノベーション。毎日やっていること」だとした一方で、「内容を極端に単純化すると、優れた企業は正しいことをやり続けると失敗する」と主張しているという“The Innovator's Dilemma”論文を紹介。「IBMは80年代後半から破滅の時期を迎えていた。それは、一部の優良顧客へ偏ってしまったこと、大型機などの利益率の高いものに投資を集中してしまったことなどが原因だった」と自社を引き合いに出した上で、「下から入っていく、ローエンド型破壊が打開のための答えだった」とした。
大歳氏は続けて「既存の成功してきた企業でも同じアプローチができないだろうか」と述べ、既存の資産を生かす形だけを延長してしまうと駄目だが、世の中の変化を反映できる独立チームや、市場の動きを察知して、連続線上にない動きを会社として支援する仕組みがあれば、既存の企業でもこうした“破壊型のイノベーション”が取れるはずだと主張するのである。
つまり、この場合のキーは「外の変化への適応」、そして「変化を前提としたビジネスモデルの構築」になる。日本の場合、「これまでの戦後50年は規模の向上が優先課題だったため、特定の製品、事業分野に特化した縦型の組織が有効だった」(大歳氏)。しかし今では、規模は必ずしも向上しない。将来の予測も難しくなっている。そのため「生産部門ではラインによる大量生産からセル方式へ変化しているし、マーケティングもゼネラルマーケティングではなく個別マーケティングが多くなった。これも、環境の変化に適合して迅速な行動をとるためだ」(同氏)という。
そして、オンデマンドビジネス、要するに「エンドトゥエンドのバリューチェーンが統合され全体が見える形に置かれること、また顧客のニーズの変化に迅速に対応すること」(大歳氏)が、企業グループの優位性確保に必要になっているのだという。
■ バリューネット全体での最適化を考える
この場合、管理の仕方も変える必要があると大歳氏は主張する。「今までは、局所最適を基本的な仕組みとして動いてきた。しかし個別に発生してきた管理の仕組みに、必要なものを追加していくだけでは、将来に必要な経営のスピードにはついて行けない」とも述べた大歳氏は、「会社を町に例えると、どういう町を作りたいかによって、電気配置も道路も変わってくる。プライオリティを経営者が提示して、それに迅速に対応できるような設計図をまず持つ必要があるだろう」と語った。
また大歳氏は、「得意でない分野は得意な人に任せて、企業は得意分野に集中しようという考え方は昔からあったが、当初は事業単位の考え方が主流だった。今では、物流、製造といった機能単位で考え、ノンコアな部分は世の中でもっともうまくやってくれる企業の機能を取り込むべき。そうするとバリューネット全体での最適化が可能になる」と、企業構造変革の必要性を訴え、こうした例の代表として同氏は、P&Gが米IBMに人事業務をアウトソースした事例を紹介した。
加えて、自動車リサイクルを取り上げ、「各社ごとに用意すると大変な負担なので、業界としてリサイクルプロセスの共同化をしている」として、オープン化、見える化されている好例として取り上げたほか、さらにIBM自身のレノボとの提携が「いいとこ取りのオンデマンド経営だ」と説明していた。
最後に大歳氏は「多くのベースにはテクノロジがあり、それは今後も続く。しかしどう活用するかは人のなせる業で、高いやる気と倫理観で、社会のため、人のためになる使い方を考えるべき。IBMでは、お客様に満足してもらえるだけでなく成功してもらう、世界にとって、人類にとって意味のあるイノベーションに貢献したい、またあらゆる関係において信頼、責任を大事にしていきたい、ということを目標としている。全世界で目標を共有しようと努力しているので、引き続きご指導頂きたい」と述べ、講演を締めくくった。
■ URL
日本アイ・ビー・エム株式会社
http://www.ibm.com/jp/
IBM フォーラム 2005
http://www-6.ibm.com/jp/event/forum2005/index.shtml
( 石井 一志 )
2005/02/24 18:15
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