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企業の情報化投資、2005年度に回復か?-JUASが、企業のIT動向調査を発表


調査を担当した調査部会副部会長の宇羅勇治システムコンサルタント(右)と、永田靖人委員
 社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS、河野俊二会長=東京海上火災保険相談役)は3月22日、「企業IT動向調査2005」を発表した。

 同調査は、経済産業省から三菱総合研究所が委託を受け、その実施機関としてJUASが調査を行ったもので、今年で10回目を迎える。

 2004年10月から2005年2月までの期間に、企業のIT部門および利用部門を対象にアンケートを実施、さらにインタビュー調査によって、IT投資の現状を掌握する方式を採用。今回の調査では、IT部門で977社、利用部門で802社からアンケートを回収。さらに、IT部門40社、情報子会社20社、システムインテグレータ10社を対象にインタビュー調査を実施した。


企業のIT投資予算推移
 これによると、2004年度のIT投資予算を前年度より増加させた企業は43.8%、減少させた企業は34.7%となり、増加と減少の割合を指数化したDI(Diffusion Index=増加割合-減少割合)値は9ポイントとなった。前年の13ポイントからは減少にあるものの、2002年度も9ポイントであったことから、同協会では、「この3年間はほぼ横ばいと判断」している。

 これに対して、2005年度の投資意欲を見ると、増加するとした企業が44.7%となる一方、減少すると回答した企業が29.9%となり、DI値は15ポイントと2001年度調査以来の高水準となった。同協会では、「来年度への投資意欲は高く、明るい展望がある」と分析している。


企業におけるIT投資の重点課題
 企業におけるIT投資の重点課題では、IT部門からの回答では、「トップによる迅速な業績把握」である点がもっとも多いことは、昨年度調査と変わりはないが、昨年度2位のコスト削減が4位に落ちる一方で、業務プロセス・システムの再編が2位に浮上している。

 「昨年度調査では、景気の先行き不透明感を背景に、レガシーからオープンシステムへの転換など、コスト削減意識が強かったが、景気回復が見え始めたことで、本来のIT投資を落ち着いて考えられるようになってきた結果と見ている」とした。

 一方、IT投資について関心が高いトピックス上位5項目をあげてもらったところ、セキュリティがもっとも高く、次いでITコストの削減、システム再構築、IT投資効果評価、個人情報保護法という順番となった。「近年のメールや電話を使った架空振り込みの犯罪に個人情報の漏えいが大きく関わっていることから、ITセキュリティを現実のリスクとして認識し危機感を抱いていること、4月から施行される個人情報保護法への対策に関心が高まっていることが要因」としている。

 その証として、昨年度調査では、35.5%に留まっていた、「ITリスクマネジメント体制をなんらかの形で設置している」とした企業が、今年度調査では、83.1%にまで高まっている。

 「常に3割程度に留まっていたセキュリティに対する体制が一気に拡大した。こうした伸びを見せたのは、長年の調査のなかでも、過去に例がない」という。


情報セキュリティポリシーの策定状況
 ただ、情報セキュリティポリシーを策定している企業が依然として少ない実態も明らかになっている。情報セキュリティポリシーを策定済みとした企業は34.6%、策定中が22.2%と前年度比横ばい。さらに、プライバシーポリシーの策定では、策定済みが14.9%、策定中が28.4%と少ないことがわかった。

 「調査が昨年10月ということもあり、個人情報保護法の施行直前の現在では、もう少し高い比率でポリシーを策定している企業があると期待している」との観測を述べた。


メインフレームの削減には歯止め?

ホストコンピュータ、サーバーの増減
 ハードウェアに関しては、メインフレームに対する投資削減が一段落していることが浮き彫りとなった。

 ホストコンピュータ関連費用(ハードウェア、OS、保守費用などの関連費用を含む)がIT投資予算に占める割合が5割以上を占めているという企業は全体の約2割と前年並み。また、ホストコンピュータの台数が前年度よりも減少したと回答した企業が10.1%と、前年、前々年度調査を下回っており、「ホストコンピュータの減少傾向には歯止めがかかった」と分析している。

 一方、サーバーに関しては、高い伸びを見せているが、その増加率はやや鈍化しているという。2002年度をピークに増加傾向は頭打ちになったと見ている。

 VoIPに関しては、約3割の企業で導入済み、さらに3割が導入を検討中とした。なお、従業員規模が1000人以上の企業では半数近い、45.3%の企業がVoIPを導入している。


ERPの保守運用費用に対する不満が6割に

 一方、ソフトウェアに関しては、今後の新システムの構築方針として、「基本的に独自開発」とした企業が2割弱。パッケージを利用するとした企業が8割強に達したことがわかった。「人事、会計などの共通業務においては、パッケージを利用する企業が増加していることがその要因。作る時代から脱皮し、使う時代が本格化している」としている。

 ERPパッケージでは、すでに採用している企業が3割を突破。1000人以上の大企業では半数近くが採用している。全体では、SAP R/3の導入がもっとも多く、次いで、SuperStream、オラクルアプリケーション、グロービアCとなっている。

 ただ、ERPパッケージは、保守運用価格に対して「不満」と回答した企業が約6割を占めており、この点での課題解決に、パッケージメーカーが努力する必要があることが浮き彫りになった。

 そのほか、システム開発においては、システムベンダーなどに依頼している企業は72.7%を占め、そのうち、23.2%の企業がなんらかの不満を持っているとした。

 不満の内容では、「企画提案力不足」が圧倒的に多く、続いて、「見積もり金額の妥当性が不明」、「こちらの指示への対応以上の仕事をしていない」、「推進力が不十分で納期が守られない」、「価格が高い」が上位となった。

 また、47.0%の企業が運用業務をアウトソーシングしており、とくに、1000人以上の企業では75.4%と3分の2が運用業務をアウトソーシングしていた。


パッケージの利用状況 システムベンダーに対する不満 運用業務のアウトソーシングの実態

大規模プロジェクトの半分が遅延

CIOの設定状況

システム開発における工期の状況
 今回の調査では、CIOに関する設問が初めて用意された。

 これによると、役職として定義されたCIOがいると回答した企業が6.5%、IT部門・業務を担当する役員がCIOに当たるとした企業が43.9%と、CIOとしての役割を有する役員がいる企業が約半数に達したが、専任でのCIOはまだ少なく、IT関連業務に割く時間は全体のわずか25%以下とする企業が約7割を占めるなど、まだITに関する経営層の意識が低いことがわかった。

 また、今回の調査では、重点テーマとして、2007年問題を前に、IT部門におけるノウハウの継承や新たな人材育成などが問題になっているとして、「人材育成」を掲げたほか、大型プロジェクトの失敗例が相次いだことなどを背景に「プロジェクト管理」も、同様に重点テーマとした。

 IT要員のための教育費用を予算化しているとした企業は29.2%と少なく、教育体系についても、13.1%の企業が「ある」と回答したに留まっており、「場当たり的ともいえる育成の実態が浮かび上がる」と指摘した。また、教育体系を持つと回答した企業においては、53.1%の企業が「ITスキル標準」を活用していると回答した。

 一方、500人月以上の大規模プロジェクトでは、51.4%が予定より遅延すると回答、100人月以上の案件では予定通りに完了したものが1割を切る結果となった。

 「工期の遅れが日常茶飯事化している」と、プロジェクト管理の重要性を訴えている。



URL
  社団法人日本情報システム・ユーザー協会
  http://www.juas.or.jp/


( 大河原 克行 )
2005/03/22 18:20

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