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「日本の人財開発は最低レベル?」、IBCSが世界の人事責任者への調査結果を発表


 IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(以下、IBCS)は5月27日、世界の主要業界のCHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)を対象に行った調査結果を発表した。調査は33カ国の大企業・多国籍企業320社を対象に、2004年4月から2005年3月にかけて書面で実施。日本からは44社が参加している。


人事責任者の悩みは、管理・開発・評価・人財の維持

ヒューマンキャピタルマネジメント担当 執行役員パートナーの大池一弥氏
 調査結果によると、世界のCHROが直面している課題として、1)成熟市場に属する企業で人財(ヒューマン・キャピタル)の管理方法が消極的となる傾向、2)社内での人財育成と外部の人財獲得のバランス、3)優秀な人財の維持、4)人財評価の基準、などが見られるとしている。

 同社のヒューマンキャピタルマネジメント担当 執行役員パートナーの大池一弥氏は、「調査前は、成長企業において人財育成や管理の問題があるとおもっていたが、実際に調査してみると成熟企業において、人財管理の方法が消極的・手薄という結果が出た」と述べた。「成熟企業について見ると、社内のシステムは完成しているものの、人事制度については不十分。企業サイズと人事制度が相反していることが判明した」と、成熟企業にとって、人事制度をどう整備するかが課題であるという結果となった。

 社内での人財育成と外部の人財獲得のバランスについて、「傾向としては、中堅管理職が人財開発プログラムに参加している企業、上級管理者への研修日数がより高い企業、e-learningなどコンピュータベースのトレーニングの利用率が高い企業ほど、一人あたりの収益が高い」と、育成に投資している企業は、そうでない企業に比べて従業員一人当たりの収益が3倍高くなるという結果がでたと紹介。一方、成長企業で顕著である有能な管理職を外部から獲得するという行為について、既存社員のモチベーション低下につながっている点を指摘した。「外部から人財を獲得する場合は、離職率の増加や士気の低下によるコストも考慮しないといけない」と、人財育成と人財獲得のバランスの難しさがあるとした。

 また、優秀な人財をどう維持するかも企業にとって大きな課題となっている。半数以上の企業は従業員の定着に関してうまくいっていると確信しているという結果が出ている。「仕事と家庭のバランスをどうするかという課題について、フレックスタイムの導入や緩やかな服装規定など、企業は仕事と家庭を両立できるための対策を実施している」と、積極的に取り組んでいる企業ほど生産性と組織の収益性の向上につながっていると説明した。

 人財評価の基準についてみると、評価基準の上位に従業員の満足度や管理職の満足度が並んでおり、ビジネス効果やROIによって評価している企業は半数未満となっている。また、人事部門の成果と報酬との関連付けが明確となっていないため、成果の認知が難しくなっているという。


他地域と大きく異なる日本の人財開発

 日本企業への調査結果を見ると、1)雇用の確保を非常に重視、2)昇進や情報共有は個人的な関係に大きく依存、3)パフォーマンスや職務の責任と評価の関係が分断、と大きく3つの点が他地域と異なる結果が出ている。

 まず、雇用面については、自発的な退職率が他地域と比べると非常に低いという結果となった。これはアジアパシフィック地域とも大きく異なっており、「アジアパシフィックとまとめてみていてはわからない結果」と、日本独自の雇用の現状が明らかになった。その結果、人財配置の柔軟性や外部から上級・中級管理職の採用率の低さにもつながっているようだ。


自発的退職率は他地域と比べると圧倒的に低い 社員配置の柔軟性も、他地域と比べて圧倒的に欠けている

 また、個人的な関係に依存した組織となっており、管理職の後継者育成が行われていないという点も調査により明らかになった。「北米では、企業の政策として後継者育成が行われている。日本の場合、経営戦略との連携が取れていない印象を受ける」と、管理職の人財開発が弱い点を指摘した。


上級・中級管理職レベルの後継者育成も低い結果に 管理職への人財開発プログラムの導入率も低い

 人財評価という面でも、成果と報酬の連携が取れていないという結果が出ている。「その人のパフォーマンスや職務と評価とのリンクが切れているようだ。また、コンピテンシーと自己啓発教育の導入率が低く、人事評価の仕組みが遅れている傾向がみえる」とした。


報酬に関連付けられる人事評価も少ない 評価において、目標達成度は他地域と同等だが、コンピテンシーと自己啓発は低い水準

 今回の調査結果を見ると、日本企業の人財に対する取り組みが相対的に低いという結果が出ている。これについて、大池氏は「個人的な見解ではあるが、日本の人事部では労務管理にパワーが割かれており、仕事もルーチンワークが中心になっている。また、企業のトップからも、(人財開発を)求められていないようだ」と、人事部門に対する企業トップの考え方が大きく影響しているのではないかと述べた。大池氏は「日本の企業の強さが生かせた時代もあったが、時代に応じた人事制度となっていないようだ」と、改善の余地があるという見解を示した。



URL
  IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社
  http://www-6.ibm.com/services/bcs/jp/
  プレスリリース
  http://www-6.ibm.com/jp/press/20050527002.html


( 福浦 一広 )
2005/05/27 16:44

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