日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は6月22・23の両日、六本木ヒルズにあるグランドハイアット東京で「HP WORLD Tokyo 2005」を開催している。22日には、何かと話題の多かったカーリー・フィオリーナ氏に代わって米Hewlett-Packard(以下、HP)のCEOに就任したマーク・ハード氏が、「新CEOが語るHPの今後の方針」と題した基調講演を行った。
■ HPは、「評価されている以上に強い立場」
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米HPの社長兼CEO、マーク・ハード氏
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ハードCEOはHPを「グローバル企業のニーズを満たすことができる、ごく少数の企業の1つ」と持ち上げ、「HPのような会社のリーダーになれる機会はそうない。それがCEO就任を受けた理由の1つ」としながらも、「HPを批判する声もある。現に、HPはそのポテンシャルを何年もの間満たしていなかった」と指摘する。ただしそれでも、800億ドル規模の売り上げがあり、第2四半期に7%の成長を遂げているHPは、「評価されている以上に強い立場だ」との姿勢は崩さない。「これは苦労している会社の数字ではない」と述べたハードCEOは、「当社は財務力があり、投資もする。お客様へのコミットメントも果たすことができる」とした。
さらに、「現状のすべてに満足しているわけではない」と続ける。HPにとって、「大企業であるがゆえの複雑さが障壁の1つ」とした上で、「よりHPをシンプルにすることで、もっと製品やサービスにフォーカスできる」と述べた。
また800億ドル規模というHPの大きさに再度触れ、「HPの規模はメリットであり、不利なことではないと、強く信じている」と主張する。「HPの持つポートフォリオの幅と奥行きによって、コンシューマ、公共セクタ、中堅・大手企業(のどのエリア)に対しても、お客様を助けることができる」と述べたハードCEOは、「大手企業がサーバー、ストレージ、サービスを入手したいと考えた場合には、総合運用が可能なソリューションを求めるはず。当社はそうしたことを提供できる数少ない企業だ」と、幅広いポートフォリオを持つことのメリットを、例を挙げて説明した。
■ 「HPの規模はメリットになる」、事業の分割・売却は否定
ハードCEOがこうしたことを強調するのは、HPについては、事業の売却や分割に関する議論が、これまでもたびたび行われてきたからだ。しかし同CEOは、「プリンタ事業の分社化、PC事業の売却はしない」と明言。事業を分社したり売却したりするかわりに、HPが持っているものを最適化してよりよい会社にし、その規模を生かしてメリットを出したいという。
具体的には、R&Dへフォーカスするとした。研究開発投資に年間35億ドルかけていると説明した上で、戦略的な部分においてリーダーになりたいと主張する。「最近、新しいナノ電子回路を発表したが、この設計はチップベンダにとってコスト優位性を獲得する手段になる」と例を示したハードCEOは、「研究所で何をやっているか、ビジネスで何をやっているかをもっと説明したい」と述べた。
加えて再三、「顧客のニーズに対してフォーカスすること」の重要性を強調した。「顧客第一主義はマーケティングのスローガンではない。私の基本姿勢だ」と語ったほか、「これからも皆さんと定期的なコミュニケーションを取っていく。とって変わるものがないからだ。皆さんの期待に応えられるかどうかはこれにかかっている」「当社の経営陣は言ったことは必ず実行する。オープンであること、正直であること、説明責任を持つことが重要だと考えている。こうしたことが相互信頼の基盤だ」と述べ、講演を締めくくった。
■ IBMとレノボについては、「興味深く見守る」
また、講演の後は、日本経済新聞社の編集委員兼論説委員、関口和一氏からの公開インタビューが行われた。この中でレノボへPC事業を売却したIBMについてコメントを求められたハードCEOは、「手元にパソコンがなかったら製品ラインはどうなるのか。ある程度サプライヤに対しての影響力も失われ、パートナー企業との関係も少しは手薄になる。次の製品ラインに対するコミットメントレベルがどうなるのかも考えなくてはならない」と問題点を指摘。「マージンが少なかったために、ビジネスプロセスのフォーカスということで(PC事業の)アウトソーシングを選んだのかもしれないが、包括的な製品を持たないのは課題にもなりうる。IBMの状況を興味深く見守りたい」とした。
加えて、「どのようにPCビジネスを差別化するか」との質問には「コンシューマカンパニーでもエンタープライズカンパニーでもあるのはHPのメリットだ。コンシューマから学ぶことはエンタープライズでも生かせる」と回答したほか、「業界標準ベースのものにフォーカスする」という、HPの従来からの主張をあらためて強調。「標準を推進し、革新のスピードを上げてコンシューマの選択を広げたい」と述べた。
さらに、「(前任の)NCRのCEO時代、株価が2年で4倍になった、HPもそうなるか」と問われたハードCEOは、「株価はマーケティングのスローガンで変わるのではなく、キャッシュフローと利益を出す力、また将来に対して信頼がおけるか、という基本的な2つのことで変わる」とし、あくまでも株価は結果に過ぎないと述べた後、「フォーカスしなくてはならないのは、すばらしい製品やソリューションをお客様に提供すること、すばらしいサポートでお客様を喜ばせること。HPの人間に対しては、『お客様を満足させることやイノベーションに集中しろ、株価のことは心配するな』と言っている。そうしたコミットメントさえ満たせれば、あとはうまくいく」と回答した。
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日本HPの代表取締役社長、小田晋吾氏
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なおこの日は基調講演に先立ち、5月9日付けで日本HPの新社長に就任した小田晋吾氏が登壇。「新生日本HPはスタートしてちょうど2年半。経営基盤も確立し、さらなる成長に向けて第一歩をスタートさせている」とあいさつした。
また同社の戦略であるアダプティブ・エンタープライズに触れ「(同戦略を具現化するための)構築方法や製品を示してくれという声が大きかったが、今年は、そのためのソリューションを具体的に紹介できるようになった。今回のイベントでそうしたソリューションや、(ユーザーの)事例をご覧いただき、明日のビジネスのお役に立てればと思っている」と述べた。
■ URL
日本ヒューレット・パッカード株式会社
http://www.hp.com/jp/
HP WORLD Tokyo 2005
http://www.hpworld.jp/2005/
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( 石井 一志 )
2005/06/22 17:51
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