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ブロケードの社長が語る、「オープンな仮想メインフレーム」への道筋


 米Brocade Communications Systemsはこの6月に、サーバーやアプリケーションを管理するためのソフトウェア製品群「Brocade Tapestryシリーズ」の投入を発表した。SANスイッチのベンダとして広く知られており、ワールドワイドで70%のシェア(ポートベース)を持つという同社が、なぜこうしたソフトを発表したのであろうか。ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社(以下、ブロケード)の代表取締役社長、津村英樹氏は、一部で違和感を持って受け止められたこの動きを「明確な将来のビジョンに基づいたもの」だと強調する。


メインフレーム・ブレードサーバー分野でのSAN普及を図る

ブロケードの代表取締役社長、津村英樹氏
 ブロケードが従来ビジネスの中心としていたのは、主にUNIXサーバーを用いる企業を対象とするミッドレンジとハイエンドの市場になるが、SANスイッチ/ダイレクタのポート単価は年々下落。現在ではこのレンジでのビジネスの伸びがフラットになってきているため、既存の市場もおさえつつ、新たに収益を確保できる分野への取り組みを迫られているのだという。

 そこで同社では、これまで手がけていなかった市場へ積極的に乗り出した。まず取り組んだのはハイエンドの中のメインフレームの市場だ。同社の製品はメインフレーム環境でのデファクトスタンダードであるFICON(FIbre Connection)プロトコルをサポートしており、また国内のメインフレーム市場で大きなシェアを持つ富士通とも強いパイプで結ばれている。こうした立場を生かして、DASからSANへの移行を推し進めていく。

 また、IAサーバーをはじめとするローエンドのエリアでは、ブレードサーバーに着目した。サーバーを高密度に集約したブレードサーバーでは、HDDを外付けにして、OSをSAN経由でブートする「SANブート」への関心が高まっている。障害などのために利用するサーバーブレードを切り替えなくてはならない場合、SANブートの環境では、OSやアプリケーションが外部にあるため、迅速な再立ち上げが可能になるなど、明確なメリットがあるからだ。

 さらにSANブート環境では、数百台、数千台のサーバーが存在したとしても、管理ツールなどによって一括してパッチの適用を行うことができる点もメリットだという。ブロケードではすでに、IBM、HPなどの主力ベンダへOEMで提供をはじめており、着実にこのエリアでもビジネスを拡張している。


目指す姿は「ユーティリティコンピューティング」

データセンターのこれまでと「目指すべき姿」

ブロケードが目指す、「モノリシックデータセンター」のイメージ
 しかし津村社長は、こうしたビジネスによって、「(同社にとっての)ホワイトスペースを埋めるのが、ビジネスの拡張にとってもっとも手っ取り早い」としながらも、「これでは本質は変わらない」とも述べ、その周辺にある「ユーティリティコンピューティング」のエリアに本格的に取り込むことが、ブロケードにとっても顧客にとっても必要なことだと主張する。

 現在のITシステムでは、メインフレームによる集中的なシステムから、安価なオープン系の分散システムが主流となってきている。しかし、サーバーやストレージなどの台数が爆発的に増加した結果、「すでにIT部門による管理が飽和している状況を招いてしまった」(津村社長)。また分散したシステムを有効に活用できないために、ストレージ容量やCPUリソースの利用率が低下してしまっているほか、重要データが分散し、セキュリティの面でも管理基準を徹底できなくなっているという。

 そこでブロケードでは、複雑かつ大規模になってしまったITシステムをデータセンターに統合し、一元管理を行うことで、かつてのメインフレームが持っていた高い信頼性・可用性・管理性を備えたオープンシステム=「仮想メインフレーム」を実現させるべく、製品をリリースしていくとする。

 その完成形としてイメージされるのが、ファイルシステム、物理的配置、接続手段といったデータアクセスレイヤを仮想化し、プラットフォームに依存しない、かつ全体最適化されたITアーキテクチャを実現する「モノリシックデータセンター」という概念である。簡単に言ってしまうと、これはユーティリティコンピューティングが実現した姿だという。

 ここでは、サーバー群は仮想コンピューティング資源として扱われるようになり、必要な処理ごとに処理能力を切り出されるようになるため、利用率の向上が図れる。また業務やアプリケーションに縛られることもなくなるので、昼間はデータベース処理、夜間はバックアップというように異なった処理を行わせることが可能になるほか、仮想化された共有ストレージからのSANブートを効果的に利用することによって、非常に多くのサーバーが存在しても、パッチ適用やアプリケーションの入れ替えなどを簡単に行えるようになる。

 このような姿は、理想像として各ベンダが提唱しており、「データセンターでは現実に非常に強いニーズとしてある」(津村社長)ものの、まだ完全に実現しているベンダはない。ブロケードもTapestryシリーズの1製品としてリソースマネージャ製品を投入しているが、津村社長はまだ実用レベルではない点を認め、今後、ニーズを組み上げてより機能を強化するとした。


SANルータとWAFSを投入、「まずはデータ基盤の統合から」

データ基盤の統合に向けた2つのソリューション
 ただし、ブロケードでは一足飛びに現在の姿からこうした状態に持って行こうとしているのではなく、明確なロードマップに従って、順次道筋をつけていくという。同社が現在注力しているのは、「データ統合の共通基盤を作る」こと。同社は昨年7月に「SilkWormマルチプロトコル・ルータ」を発売し、ばらばらに構築されてきたSAN(SANアイランド)を容易に統合できるようにしているが、これもこの戦略の一環だという。一般的な企業では、各SANアイランドは必ずしも同一ベンダの製品で統一されているわけではないため、無理にスイッチ/ダイレクタでつなごうとしても、不具合が生じてしまうことが多い。そこでレイヤ3レベルのルーティングが可能な製品によって、確実に結びつけようとしているわけだ。

 またTapestryの中でも、6月に米国で発表された「Brocade Wide Area File Services(WAFS)」は、名前の通りWAN経由でのファイル共有を統合するためのもの。企業の拠点ごとに配置されているローカルのファイルサーバーをなくし、統合された中央のデータセンターへ“快適に”アクセスできる環境を整えることによって、管理面、セキュリティ面でのメリットを得られるようにするという。

 WAFSと呼ばれる製品はほかにもたくさんあるが、特に同社製品は、Windows環境のファイル共有で用いられるCIFSの処理に最適化されているとのこと。津村社長も「Windowsが主の環境であれば、当社の製品が一番優れているだろう」と自負しているこの製品によって、小規模拠点のファイルサーバーを不要にし、データ統合によるメリットを顧客に提供していくとした。


「仮想化」と「柔軟なデータ移行」によるメリットとは?

 そして次のステップとして、こうした統合のあとにストレージ仮想化によるアプローチへ取り組むべきという。ストレージ仮想化とは、いくつもあるストレージを単一のものであるかのように見せかける技術で、これが実現すると、管理者は個々のストレージのどこに何のデータがあるかを意識しなくて良くなるため、管理の効率が増す。さらに論理ボリュームの構成を容易に行えるようになることから、ストレージ利用率の向上も見込める。

 こうした仮想化の機能を盛り込んだ製品も市場に出回り始めてきたが、ブロケードでもこの分野への取り組みを進めており、今年に入ってから、同社のプラットフォームをベースにする、富士通のVS900、EMCのInvistaといった製品が発表されている。津村社長は「当社ではこの2社以外とも取り組みを行っており、仮想化では一番進んでいると言えるのではないか。また2社ともかなりこの分野には力を入れているので、実用的な技術としてかなり広がっていくのではないか」と述べた。

 ただし津村社長は、これに加えて、容易なデータ移行の機能も提供されるべきだという。ストレージは現在も進化し続けており、価格が毎年下がる一方で、性能は逆に向上し続けている。せっかく仮想化によって複雑なプロビジョニングから解放されたのに、同じストレージを利用し続けなくてはいけないのでは、メリットを最大限に生かせないということだ。確かに、安価で高性能なストレージを常に利用できれば、ユーザーにとってのメリットは大きい。

 現在でもハイエンド製品では、そのデータを利用しているアプリケーションに影響を与えずに、データ移行を簡単に行える機能を備えた製品が提供されている。しかし、津村社長は「ミドルレンジ以下、特にヘテロジニアス環境でも実現できなければ意味がない」と主張。この分野でも、何らかの形でユーザーを支援したいとした。

 なお津村社長は、こうした一連の機能の提供にあたっては、「サービス化」が重要だとも話す。なぜなら、「技術的には一般ユーザーにも可能だとしても、運用面でのノウハウの壁が立ちふさがるから」だという。大規模データセンターを自前で保有できる大企業ならともかく、それ以外の企業ではノウハウを蓄積することはなかなか難しい。そこでブロケードでは「エンドユーザーにはサービスとして提供する」ことを目指し、ホスティングサービスを提供しているようなxSP向けに製品を提供する体制を、今後強化するとしている。



URL
  ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
  http://www.brocadejapan.com/

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( 石井 一志 )
2005/07/22 13:09

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