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富士通小山工場。JR小山駅から車で約10分の距離にある
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富士通株式会社は、ネットワークバックボーンを構築する基幹光伝送装置のフラッグシップ工場である、小山工場の内部を報道関係者に公開した。
小山工場は、光デバイスから機構部品、装置までを一貫生産する拠点であるとともに、ネットワークシステムの評価、検証、顧客向けのテクニカルサポートまでを担当する。黒川博昭社長が、社長就任が決定してから、いち早く訪れた生産拠点でもある。
また、同工場は、富士通が導入しているトヨタ生産方式に早い段階から取り組んだ拠点のひとつ。富士通の生産革新の進化を推し量る意味でも、バロメータのひとつとなる拠点だ。
また、環境への取り組みにも先進的で、「ゼロエミッションの達成、資源の有効活用のほか、工場排水を集約したビオトープには、さまざまな動物、植物が生息している。1997年にはISO14001を取得。2004年3月には富士通グループ全体でISO14001の統合認証取得を実現した」(小山工場・小宅俊行工場長)という。
富士通小山工場は、JR小山駅から車で約10分の場所にある。1959年に、伝送・交換機の専門工場として設立。その後、下館工場、川崎工場から伝送装置製造を移管。現在、同社のフォトニクス関連製品、光モジュール製品の基幹生産拠点となっている。敷地面積は、17万6600平方メートル。東京ドームの3.8倍の面積を誇る。
2004年度実績で生産高は1008億円、富士通の1270人、関係会社で390人の合計1660人の体制となっている。
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小山工場のレイアウト。光伝送装置の製造棟は一番奥にある
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小宅俊行工場長
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小山工場の特徴は、変種変量生産を前提とした生産体制を敷いている点だ。
生産する図番数は、月に600種類から700種類となっており、年間に取り扱う図番数で、2000種類を超えることになる。
また、毎週製造する製品は、図番数でいえば、わずか1.0%。毎月製造するという図番も8.9%に過ぎない。つまり約9割が年に数回しか製造しないという図番なのだ。また、物量変動に関しても、時期によって、約2倍の格差があり、それだけ変種変量に柔軟に対応することが求められているのだ。
さらに、ここ数年、短納期での要求が高まっており、受注リードタイムが5日以内という案件が42%を占めているという。
こうした市場の要求に対応するため小山工場では、コンサルタントに、ものづくりシステム研究所の浅田洋正氏を迎えてトヨタ生産方式を導入。生産ラインの改革に挑んだ。
基本的な考え方は、分岐、合流をなくし、スムーズな流れを作る「整流化」、できるだけ小さな単位で製造する「一個流し」、そして、製造したものはその場に置き、後工程が引き取る「後工程引き取り」の3つだ。
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小山工場は変種変量生産が特徴といえる
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自動化されているSMTライン。段取り作業も短時間に行えるように工夫している
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スクリーン印刷、チップ搭載、異型部品の搭載リフローを経て検査工程に入る
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こちらの白いSMTは先週導入されたばかり
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SMTラインの最後は目視で検査
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IMTユニットの生産ライン。4つのラインがあるが、順序表に従うラインや個装梱包までインライン化したものもある
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作業者の前面に置かれたモニターの指示に従って作業する
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モニターを確認して、ハンダ付けを行う
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もともと同工場では、1人セル方式の導入によるラインの生産性向上に取り組んでいた。各工程ごとに、1人セルの体制を敷いていたのだ。だが、1人あたりの生産性が上昇するというメリットを出したものの、その一方で、各工程の間に仕掛かり品が滞留するという問題に直面していたのだ。
実際に同社がトヨタ生産方式を本格的に導入したのは、2005年4月。かんばん方式を持ち込み、後補充生産ラインを構築した。さらに、この12月からは後工程引き取りラインを構築。柔軟性と生産性の高い生産方式へと進化させたのだ。
これによって、生産効率は2004年3月時点に比べて1.8倍に、製造リードタイムは68%もの削減が可能となった。また、仕掛品の滞留が一気に減少するという、従来方式での課題解決にも成功している。
「トヨタ生産方式の導入は、これで終了というものがなくなる仕組みへの転換といえる。改善すべきところがまだまだ出てきている。変種変量生産へ対応するために、さらなる改善を加えていく」(ものづくり推進本部ネットワークローコスト推進統括部第一製造部・塩谷隆司部長)としている。
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塩谷隆司部長
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工場内の部品は、すべてこの手作りのバックの中に入れられてラインに供給される
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後工程からの引き取りラインとなっており、カンバンにあわせて必要な部品が入ったバックを調達する
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カンバンは、工程ごとに分割。形もさまざまなものを用意している
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丸いカンバンを採用したのは、カンバンを転がすことでカンバンの回収を楽にするため
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変種変量生産に対応するため、ある程度数がまとまった段階でカンバンを回収するという方式も一部で採用
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エージング試験を行うエリア。さらに抜き取り検査も行う
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最終的な装置試験を行うエリア。組み立てラインの横にある
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個装梱包を行い、いよいよ出荷
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次世代WDMシステムのデモストレーションも行われた
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フォトニクス事業本部長・近間輝美経営執行役は、「富士通は、自社での生産にこだわっていく。その理由は、高い品質レベルの製品を生産できる点につきる。フォトニクス関連製品は、社会基盤を支える製品であり、それに応える品質を維持するためには国内生産が最適である」として、小山工場での物づくりが重要であることを訴える。
フォトニクス事業は、北米における旺盛な需要に支えられて、今年度から黒字化している。近間経営執行役も、「年初に予想した以上に売上高が拡大している」と話す。さらに、「光・アクセス・IPシステムへの投資が集中していること、全世界規模で次世代網(NGN)への転換期を迎えていること、来年度は、今年度以上に設備投資に対する意欲が高まっていることなど需要は旺盛。これまでは、市況の状況には、曇り空が見えていたが、来年度は晴れるだろう。目標に掲げている売上高営業利益率3%も、早い段階で達成できそうだ」と、事業拡大に意欲を見せる。
とくに、次世代WDMでは、「NGNへの転換で、設備投資額を現在の3分の1以下に、保守・運用費に関しても、GMPLS自律型ネットワーク制御によって、5分の1以下に抑えられる。加速度的に増加するトラフィックへの対応や、光ネットワークをより効率的にオペレーションできるという点でも、フルフォトニクスネットワークの実現に大きな一歩となる」(フォトニクス事業本部プロジェクト統括部・松田孝部長)と、需要拡大に自信を見せる。
一方、小山工場で生産している光モジュール事業を率いる光モジュール事業本部・山口伸英事業本部長も、「2002年度を底に、10G LN変調器の生産台数は増加傾向にあり、10G 300pin MSAモジュールの製造実績も急速に伸びている。富士通研究所が開発した技術や、当社が持つこの分野の特許技術を生かし、最先端の技術を搭載した製品投入ができる体制を維持していきたい」としている。
同社の基幹光伝送装置に関する事業は、これから急拡大すると見られている。その成長と製品品質を支える重要な製造拠点が小山工場といえるのだ。
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近間輝美経営執行役
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松田孝部長
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山口伸英事業本部長
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■ URL
富士通株式会社
http://jp.fujitsu.com/
( 大河原 克行 )
2005/12/09 17:06
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