NACSEコンソシアムジャパンが設立し、日本国内における新たなネットワーク技術者の資格認定制度がスタートすることになった。NACSEは、果たして、日本のユーザー、ベンダーにどんな影響を与えることになるのだろうか。NACSEコンソシアムジャパンの設立の中心的役割を担うナクシージャパン株式会社の小林忍代表取締役社長に話を聞いた。
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ナクシージャパン株式会社の小林忍代表取締役社長
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─日本では、まだNACSEそのものの知名度がありません。簡単に概要を教えてください。
小林氏
NACSEとは、National Association Communication Systems Engineers(全米通信システム技術者協会)の略称で、もともと93年からボランティアとして活動していた組織を母体に、96年に発足したNPOです。本部は米国です。ネットワーク技術者の技術レベルの認定には、シスコシステムズをはじめとするベンダーが認定する制度がありますが、NACSEは、特定のベンダーに依存しないネットワーク知識、ネットワーク技術レベルを認定する試験と研修プログラムを実施しています。
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設立説明会の様子
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─9月に行った設立説明会では、約100人の来場者があったようですが。
小林氏
事前に、参加すると返事をいただいていた人数の1.3倍の方々に来ていただきました。関心の高さを浮き彫りにしたといえます。大手SIerやユーザーのシステム部門では、社内のスキル認定の一環として、シスコのネットワーク技術者の認定制度を活用しているところもありますが、その一方で、なぜシスコの認定制度を社内の資格制度のひとつとして使わなくてはならないのか、という疑問もありました。
利用者側から見れば、認定の指標もわかりにくいという不満もあったでしょうし、ベンダー側の意向が働いて指標が変わる可能性もあるという不安感もあります。つまり、もう少し特定のベンダーに頼らない認定制度があってもいいのではないか、という考え方が自然に発生していた。そのあたりへの期待が、来場者の数につながったといえます。
─特定ベンダーに左右されないというのは、どのあたりから証明できますか。
小林氏
これまでの米国におけるNPOとしての実績もそのひとつですが、NACSEコンソシアムジャパンにおいても、エクストリームネットワークス、スカイウェイブ、アラクサラネットワークス、アライドテレシスといった複数のネットワーク機器ベンダーが会員として参加しています。また、一般会員としても、中国電力やCSKといったユーザーやSIerのほか、NECグループや日立グループ、NTTデータの関連会社などが参加しています。なかには、すでにグループ会社全体の研修コースとして、NACSEの研修プログラムを活用しようという動きもあります。シスコシステムズの認定制度の場合、もともと代理店支援プログラムのひとつという側面もあるようですから、どうしても販売を促進するという狙いがある。NACSEの場合は、個人の技術的なスキルアップと個人の技術を認定することを追求したものですから、自然と生い立ちが異なります。マルチベンダーに対応した技術力の向上や、最新の技術動向にあわせた対応が図れるといえます。
NACSEの特徴は、SIerの意見が反映されてプログラムや指標が成り立っているという点です。これも中立性ということにつながりますが、試験を受けるための研修プログラムではなく、あくまでも人材育成のための受講プログラムが用意されているという点を強調しておきたいですね。これも、SIerの意見を反映しているからこそできるものといえ、これまでの認定制度にはない仕組みといえます。
─評価指標が透明化しているという点も強調していますが。
小林氏
NACSEの認定資格では、評価指標を公開しているからです。一般的な試験では、試験項目、基準などは公開されていませんが、NACSEでは、これを公開し、受験者や研修プログラムの受講者が、どの項目のどの技術を修得し、そのレベルはどうなのか、あるいはどの部分の技術を修得しなくてはならないのか、といったことがわかるようになっています。これらの項目は、グラフにより客観的に判断できますし、弱点を克服するといった手を打つこともできる。また、この研修プログラムを全社規模で導入すれば、技術者全員の技術の修得状況や認定状況を把握できますから、業務の遂行に必要とされるスキルを前提とした、会社全体の人材育成計画の策定にも生かすことができます。
─業界の変化が激しいですから、この評価指標も変化しなくてはなりませんね。
小林氏
そこに、コンソシアムの役割のひとつがあります。NACSEコンソシアムジャパンのなかには、指標検討部会を設け、ここで指標の根拠について議論します。また、新たなプロトコルが登場したり、新たに技術対応が必要になったときには、研修プログラムのマッピングも変更します。
─今後の日本での展開はどうなりますか。
小林氏
まずは、今後1年間で50社の参加を目指します。すでに、20社程度が強い関心をもっていただいており、なかでもSIerやユーザー企業から注目が集まっています。当初は、こうしたSIerやユーザー企業、ベンダーなどの参加が中心になるでしょうが、来年度以降は、大学などの教育分野からの参加も期待しています。
12月14日には、総会を開催し、会長には、多摩美術大学教授で、東京大学名誉教授の石田晴久氏、また、副会長には、北陸先端科学技術大学院大学助教授の丹康雄氏が、それぞれ就任することを決定しました。そのほか、理事には、早稲田大学理工学部教授の後藤滋樹氏、日立電子サービス教育統括本部長の徳永直助氏、アライドテレシス代表取締役副社長の長尾利彦氏と、産学が連携した形での体制が整いました。
日本のネットワーク技術者は20万人以上も不足しているといわれています。教育分野との連携こそが、優秀なネットワーク技術の育成につながると考えています。NACSEでは、ネットワーク技術者の入門レベルを認定するものも用意しており、米国でも、入門レベルの受講がかなりの比率を占めています。新社員向けの入社前の教育コースのひとつとしても、NACSEを採用することができると思います。
■ URL
NACSEコンソシアムジャパン
http://nacse.jp/
ナクシージャパン株式会社
http://www.nacse.co.jp/
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・ 「NACSEコンソシアムジャパン」設立へ-ネットワークのマルチベンダー技術者認定を目指す(2005/09/08)
( 大河原 克行 )
2005/12/16 09:00
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