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「ITのコストは仮想化技術で大きく削減できる」米HP CTO


 「仮想化技術はアダプティブ・エンタープライズを実現する技術のひとつです」と語るのは、米HPボリュームソフトウェア事業ディレクター兼CTO ProLiant Essentialsであるビリー・コックス氏。同氏はHPのProLiantサーバーに搭載されている管理ツールの開発責任者であり、HPにおいて10年間ProLiantサーバーにおけるデプロイ、パッチ管理、仮想マシン管理、プロビジョニングなどの技術の開発に従事している人物である。

 HPの提唱する「アダプティブ・エンタープライズ」とは、変化するビジネスの状況に迅速に対応できる俊敏性が重要であるとして、「ビジネスとITが同期して変化を活用する企業」を目指すというものである。そしてコックス氏は「これからのITは、自動化と仮想化のテクノロジが非常に重要」になるという。


仮想化によるメリットとは?

米HPボリュームソフトウェア事業ディレクター兼CTO ProLiant Essentials ビリー・コックス氏
 仮想化とは、ソフトウェアとハードウェアの物理的なコネクションを断ち切ってしまうことである。これまでのアプリケーションは、特定のハードウェアの上に実現されるものであった。しかしサーバーやストレージを仮想化すると、アプリケーション自身はどのハードウェアの上で動いているかを意識する必要がなくなる。これによって、サーバーやストレージを統合(コンソリデーション)できるようになる。

 コックス氏は「これまでアプリケーションの開発チームがハードウェアを決めてしまっていたために、後からそのハードウェアを別の目的に使用したいと思ってもうまくいかないことが多々あった。しかし仮想化してしまえば、ITグループがハードウェアのオーナーになり、アプリケーションのチームにパフォーマンスを保証(ギャランティ)するという方法に変更することができる」と語る。

 サーバーやストレージを仮想化することで、一台(または複数台)のハードウェア上に統合するというのは、かなり以前から存在しているテクノロジである。オープン系システムの普及によって、稼働率の低いサーバーを大量に抱えている企業が増えたことから、この仮想化技術に注目している企業は多い。データセンターのコストや、メンテナンスのコストが大きな負担となっているためである。つまり、統合によるコストの削減は、現在抱えている物理サーバーの台数が多いほど効果があるといえる。


HPの優位性は「管理ツールの充実度」

HP Sysytems Insight Manager
 単にサーバーやストレージを統合するというテクノロジは、多くのベンダーでも実現されている。しかし仮想化した環境を管理して自動化させるツールとなると、その完成度はまちまちである。HPではこれらの仮想環境と既存の物理環境を一元的に管理可能な、統合管理ツール「HP Systems Insight Manager(以下、SIM)」を提供することでほかのベンダとの差別化を図る。しかも、HPのシステム管理ソリューション「OpenView」と連携させることで、監視・運用を含む高度なシステム管理が可能となる。また、データセンターにある物理サーバーのうち、どれとどれを統合すればいいのかについて悩む担当者のために、意思決定をサポートするツールも用意されている。

 SIMによる管理の設定は、システムをどのように管理して欲しいかをモデルとポリシーで指定するという非常にシンプルな方法となっている。コックス氏も「ほかの多くのベンダでは仮想環境と物理環境はそれぞれ個別のツールによって管理されることが多く、それらをインテグレーションするという手間が必要だが、HPでは最初から統合されたツールが提供されている。しかも、管理のためにスクリプトを書いたりする必要もなく、モデルとポリシーで設定できる」と、ツールの完成度の高さをのぞかせている。

 さらにSIMは、VMware ESX ServerやMicrosoft Virtual Server、Xenといった複数の仮想化エンジンをサポートしており、それぞれの仮想化エンジンの持った機能をSIMから実行することができるという。例えば、稼働中の仮想サーバーを中断させずに、他の物理サーバーへ移動させるVMwareのVMotionといった機能も、VMwareの管理ツールを起動することなく、SIMから実行できる。


すでに始まっているITの仮想化

 すでにHPでは数多くの企業のITを仮想化によって統合している。あるテレコム系企業の場合、平均で30台の物理サーバーを1台に統合し、データセンターのスペースを20分の1に縮したという。しかもデプロイに要した時間は、数時間であったという。また、HP自身も仮想化技術を導入している。Webサイトから開発やテストに必要なサーバーをリクエストすると、仮想サーバーと物理サーバーのどちらかを選択できるのだという。もちろん仮想サーバーの方が安価で、比較的短時間で利用が可能だ。

 ビジネスの変化する速度が非常に速くなっている昨今では、ITも素早くビジネスのニーズに応えなければならない。コックス氏は「将来的に仮想マシンは5分程度で使用できるようになっていくだろう。ビジネスのニーズに素早く対応するためにも、仮想化の技術は重要だ。最初は仮想サーバーで始めて、あとから物理サーバーに変更することもできる」と述べ、変化に対応する仮想化技術の可能性を示唆した。

 サーバーやストレージの仮想化というと、「オーバーヘッドがあって使い物にならないのではないか」と疑問を持つ人もいるのではないだろうか。コックス氏はこの疑問に対して「簡単な算数をしてもらいたい。CPUの利用率が3%のサーバーが20台あって、オーバーヘッドが10~15%だと考えても、まだ余裕がある。しかもインテルやAMDはこれらのオーバーヘッドを減らす技術を、盛り込んできています」と話す。


「重要なのは選択肢を提供すること」

 仮想サーバーの主な用途は、テストや開発である。そして、データセンターにあるサーバーの約4割は、テストや開発にのみ利用されているという。そのためコックス氏は「現在仮想サーバーは全体の5%程度。しかし今後3年で40%程度にまで伸びるだろう」と予想している。とはいえ、すべてのサーバーやストレージを仮想化すればいいというわけではない。非常にI/Oの多いデータベースなど仮想化には向かない環境もある。コックス氏も「重要なのは物理でも仮想でも提供し、お客様に選択肢を用意すること」と語り、さまざな状況に対応できることが重要であるとした。

 コックス氏が「仮想化は、ハードウェアやアプリケーションを買っただけで実現するわけではなく、ITグループに仮想化をはじめる準備ができていなければならない」と述べるように、仮想化技術は一朝一夕で実現するものではない。そこでHPでは仮想化技術の啓蒙(けいもう)のため、さまざまな教育のプログラムを用意している。もちろん日本HPでも仮想化戦略には非常に力をいれており、仮想化に最適なのはブレードであるとして、ブレードパートナープログラムなどを展開している。日本のパートナーの反応はよいということで、教育プログラムに参加するといった積極的な投資をおこなっているところも多いという。

 仮想化技術に対してあまり積極的でない企業に対してコックス氏は「いますぐにでも仮想化技術を勉強して、将来につなげてほしい。仮想化技術がITのコストやプロセスに与えるインパクトは非常に大きいことを理解していただきたい」と呼びかけている。



URL
  日本ヒューレット・パッカード株式会社
  http://www.hp.com/jp/

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( 北原 静香 )
2005/12/20 12:39

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