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Let'snoteが企業ユーザーを増やした理由

他社との差別化を実現した神戸工場の一貫生産

 個人用、企業用でパソコンの仕様の違いが明確になる中、松下電器産業株式会社(以下、松下)のLet'snoteは、企業ユーザー、個人ユーザーの両方をターゲットとしている。松下のパナソニックAVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部・高木俊幸事業部長は、「昨年までは企業内の特定部署への導入がほとんどだったが、今年に入って社内で利用するパソコンのメインをLet'snoteに切り替える企業も出てきた」と話す。Let'snoteが着実に企業ユーザーを増やす秘密はどこにあるのか。製品の生産を一手に引き受けるITプロダクツ事業部神戸工場を取材した。


神戸市西区にある松下電器産業 ITプロダクツ事業部 神戸工場 ITプロダクツ事業部 高木俊幸 事業部長

他社とは違う尖った商品

 「当社のパソコンラインは、(1)ビジネスモバイル、(2)フィールドモバイル、の2つだけ。他社のようにデスクトップや、A4ノート、AVパソコンといったものは一切ない。パソコンにはさまざまな使い方があるが、その中であえて通常のパソコンにはない要素をもった製品を出す。一言でいえば、『差別化』が当社のパソコン事業の戦略となる」-高木事業部長は工場見学に先駆け行われた説明会で自社のコンセプトをこう説明した。


フォーカスを明確にした松下電器のパソコン事業
 差別化を実現するために、次の3点をポイントとする。

  1. 事業領域を明確化することで、どんなユーザーが利用しているのかターゲットを明確にする。
  2. 尖った商品を実現するために、7つのコア技術、高品質、原価力、カスタマイズ、ブラックボックスもの作りという要素を重視。
  3. 主に法人ユーザーをメインに、購入から商品廃棄までサポートできる顧客とのパートナーシップの確立。


他社との差別化となる「尖った商品」実現のために必要な7つのコア技術
 事業領域を明確化したのは、「ホワイトカラーへのIT化は一巡したと判断したため」だという。あえてホワイトカラーという最も市場が大きい部分に乗り出さなかったことが、Let'snoteの特色を作り上げることにつながった。

 そして尖った商品を実現するために、次の7つのコア技術を最重点ポイントとした。

  1. 堅牢性
  2. ワイヤレス
  3. セキュリティ
  4. 軽量化
  5. 長時間駆動
  6. 放熱
  7. 高輝度

 この7つのコア技術は、Let'snoteによって生まれた技術ばかりではない。市場ではほとんど目にすることはないが、米国では警察など過酷な環境で利用されている特定マーケット向け商品「TOUGHBOOK」という製品を開発、生産することで培った技術蓄積が、Let'snoteのベースとなっている。

 Let'snoteと同じく神戸工場で生産されているといっても、TOUGHBOOKの外観はLet'snoteとは正反対だ。落としても壊れない、水に濡らしても故障しないなど、文字通りタフさを売り物にしているこの製品の外観はアタッシュケースのよう。とてもパソコンには見えない。外観からすれば、軽量がセールスポイントのひとつとなっているLet'snoteと対極にあるこの製品があったからこそ、Let'snoteが生まれたというのは興味深い。軽量のモバイルノートを作るパソコンメーカーはほかにもあるが、軽量でありながら、堅牢という相反するコンセプト両方を兼ね備えたからこそ、Let'snoteは企業ユーザーからも支持を受けることになったのではないのだろうか?

 例えば、対圧迫性能100キログラムという数字をアピールしているが、この数字は都心の満員電車で実際に圧迫力を測定した結果出した数字だという。満員電車の中で持っていても、耐えられるように圧迫から基板を保護する技術を搭載。回路基板にゆがみが加わりにくいフローティング構造や、曲面・ネジレ面を加えてダンパー強化されたボンネット構造などが加わった。

 現実的に必要な機能が備わっているからこそ、企業ユーザーが拡大していったのである。


一見するとアタッシュケースのように見えるTOUGHBOOK 過酷な環境下で使われるTOUGHBOOKには12時間本体に水を浴びせ続ける防滴試験が欠かせない

生産工程でも「差別化」に強いこだわり

 生産を担当する神戸工場は、1990年ワープロ工場として誕生した。翌91年8月から、パソコンの生産を開始。敷地面積9880坪(3万2600平方メートル)、1フロア9000平方メートルの建物が3フロアあり、総建物面積は2万7000平方メートル。

 生産拠点を海外に移すパソコンメーカーも多いが、松下の場合、一部の海外需要を除き、9割以上を神戸工場で生産する。生産キャパは月産5万台だが、2005年度の生産目標台数は、Let'snoteが37万台、TOUGHBOOKが25万台で、前年度比2割増の目標値となっている。

 工場の生産の様子を見ても、「他社との差別化」を実現するための工夫がなされている。例えば、部品の基板への実装はほとんどの部分が機械で行うが、一部の部品は人間の手で実装されている。これは、「少しでも軽量にといったことを実現するためには、機械で実装できる平均的な部品ではないものも、実装する必要があるため」だという。

 見た目にインパクトがある防滴試験や落下試験は、TOUGHBOOKには必須のものだ。量産された製品も抜き取りで防滴試験、落下試験を行い、問題がないかチェックが行われている。

 完成した製品を松下製の肩叩き機で振動する台に置くのは、出荷後の製品が振動によってトラブルを起こすといったことを未然に防ぐため。


基板への部品実装は基本的な部分は機械によって行われる 一部の特殊な部品を基板に実装する際は、人の手が不可欠。軽量や長時間バッテリーなどの差別化には、機械では取り付けられない特殊な部品が必要となる 完成した商品に肩叩き機の振動を与えることで、耐衝撃性を確認

 品質や他社との差別化と共に、コスト削減の努力も不可欠となる。Let'snoteは他社のノートパソコンに比べれば割高という声もある。

 この点について高木事業部長は、「確かに価格が高いという指摘を受けることはある。だが、部品のほとんどを日本メーカーが日本で製造している部品を採用しているため、他社が同じものを作っても高くなるという側面がある。もちろん、コストダウンは重要な要素で、内部の努力はもっとしていくべきだと考えている。ただ、オリジナル部品を作り、性能を高めながら、価格を維持できているということも理解して欲しい」と答えている。

 現在の生産ラインは、セル生産方式を採用し、1ラインあたり、8人から10人の体制で対応。1ラインあたりの生産台数は300台から450台の間だが、今後はカスタマイズもインラインで行うことにも挑戦し、なおかつ従業員一人あたりの生産性向上と、リードタイムの短縮化を目指していく。

 また、一昨年から取り組んでいるリサイクル品の受付によって、法人ユーザーから製品の修理依頼を受けた場合、リサイクル品から取り出した部品を使うことで、修理コストの引き下げを実現するというプランもあるという。現在は正式なアナウンスは行っていないものの、2006年には正式にアナウンスして受け付けていく計画だ。


来年は一芸に秀でたLet'snoteが誕生?

ユーザーの声を反映して進化してきたLet'snote
 高木事業部長はこれまでのLet'snoteの進化は、「ユーザーの声を聞いた結果、実現してきたもの」と説明する。

 「テレビが視聴できる機能を搭載していないのは、そういう機能を要望する声がないため。逆に要望があれば、そういう機能を搭載する可能性もある。ユーザーの要望を忠実に取り入れていった結果、他社にはない商品の差別化を実現することができた」

 来年以降の製品は、これまで通り軽量、バッテリー寿命の長時間という特徴をさらに追求していくと共に、まったく性格の異なる製品を投入する可能性もあるという。

 「例えば、ワイヤレスLAN機能をなくせば、その分、軽量化を実現するという側面がある。とことんまで軽量化を追求した製品や、バッテリーの長時間化だけを追求した製品など、これまでにはないひとつの特徴に特化した製品を発売する可能性は十分にある」

 ただし、特徴をどんどん伸ばしていくと共に、「いろいろな環境下でも耐えられる信頼性という部分は重要な要素」とタフであることにもこだわっていくという。



URL
  松下電器産業株式会社
  http://panasonic.co.jp/


( 三浦 優子 )
2005/12/22 18:14

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