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エントラスト、「メールが不可欠な今こそ、メッセージング・ソリューションに注力」


 PKIなどアイデンティティソリューションを提供しているEntrust社は、カナダに本社を置き、Northern Telecom(現Nortel Networks)からスピンオフして誕生した企業である。日本法人であるエントラストジャパン株式会社(以下、エントラスト)は、1998年に設立され、300社以上の顧客をもつ。同社が新たに注力しているのが安全に電子メールをやり取りするためのメッセージング・ソリューション。9月に日本法人の社長に就任したハンス・ダウナー氏は、米国本社の上席副社長で、日本を含むアジア、カナダの営業およびグローバル・プロフェッショナル・サービスを含んだすべての技術部門およびグローバル・プロフェッショナル・サービスを担当する。ダウナー社長は、「メッセージング・ソリューションはこれからの成長分野。日本でも需要が見込める」という見通しを打ち出している。


メールが企業に欠かせない通信手段となったことで対策が必要に

エントラストジャパン ハンス・ダウナー社長
―エントラストといえば、PKIのベンダーという印象があります。メッセージング・ソリューションに注力するようになったのはどんな理由からですか。

ダウナー氏
 成長が著しい分野だからです。メッセージングに限らず、セキュリティに対する注目度は高いですが、調査会社であるIDCはセキュア・メッセージング・ソリューションの市場規模は全世界で4億6000万ドルと試算しています。特にメッセージの出入り口部分を管理する、セキュアなゲートウェイ・ソリューションは、今後64%成長すると予測されている分野です。当社はそのゲートウェイ・ソリューションを提供しています。


―企業がセキュアなメッセージング・ソリューションを必要とするのはどんな理由からですか。

ダウナー氏
 どの企業でも、電子メールがコミュニケーションの中心になっているからでしょう。例えば、電子メールでやり取りする中身に企業の知的財産のような、漏れると困る情報も入ってきています。


―外部に漏れるような中身の送付には、あえて電子メールを使わないという選択肢もあると思いますが。

ダウナー氏
 送信する相手の数が多く、早急に情報を送る必要がある場合には電子メールというのは最適な通信手段になります。

 当社のユーザー事例をご紹介しましょう。カナダのオンタリオ州の警察に当社のメッセージング・ソリューションを納入しています。全国の騎馬警官隊に犯人に関する情報を送付する際に、大きな力を発揮しています。犯人に関する情報は、関係者以外に情報が漏れるととても困る分野です。しかし、できるだけ迅速に情報を共有する必要もあります。つまり、電子メールを使っての情報共有が適している分野なんです。

 情報が漏れることにナーバスになる分野で、当社のソリューションが利用されているのは、当社にとって大きな誇りとなることだと考えています。

 そこまでメールでの送受信にナーバスになる必要はないという企業でも、「つい、うっかり本来は送信すべきではない相手にメールを送ってしまった」という場面は起こり得るでしょう。当社のソリューションはわざと外部の情報を流出させる場合ばかりでなく、「つい、うっかり」を防ぐ機能を持っていることが特徴です。


―「つい、うっかり」を防ぐことができるんですか?

ダウナー氏
 ゲートウェイ・ソリューションだからこそ対応が可能なんです。内部と外部の境界線(バウンダリー)部分でチェックを行うことが当社のメッセージング・ソリューションの大きな特徴。企業内のエンドユーザー自身は何もしなくとも、境界線でチェックを行うことで、入ってくるメールも、外に送り出すメールもトラブルを未然に防ぐことができるようになります。


―具体的にはどういう仕組みになっているのですか?

ダウナー氏
 日本でも12月20日に発売した「Entrust Entelligence Messaging Server(エントラストエンテリジェンスメッセージングサーバー)8.0」と「Entelligence Compliance Server(エンテリジェンスコンプライアンスサーバー)7.4」をセットで利用することで、メールの送受信の際に、送ってはいけないメールをストップさせたり、自動的に暗号化してメッセージを送るといった作業を行います。

 理想としては、エンドユーザー一人一人が、社内のセキュリティポリシーを理解し、その基準に基づいてメールをやり取りした方がいい。しかし、現実的には社員すべてがセキュリティポリシーを熟知するのは難しいと思うのです。そこで、サーバー側でセキュリティポリシーを判断できる仕組みとしました。

 現在、日本語化が完了していないのですが、Compliance Serverの英語版、フランス語版では、添付ファイルの中身を自動的にスキャンし、中身に応じて自動的に暗号化するといった仕組みがあります。

 また、暗号化されたメールでも中身を確認することが可能です。暗号化されたファイルは送るものも、受け取るものも中身の判別がしにくいという問題がありますが、当社のソリューションはその点を心配する必要がありません。


暗号化もエンドユーザーには負荷少なく対応可能に

―すべてのメールをチェックするとなると、サーバーへの負荷がかなり高くなると思います。エントラストのメッセージング・ソリューションを導入することで、メールの送受信に時間がかかるといったことは起こりませんか?

ダウナー氏
 その点はベンチマークテストを行って確認しました。Compliance Serverを使ってセキュリティポリシーに適合しているのかを確認し、メールを送受信した場合、1秒間に30通から35通のメールをさばくことができました。米国の大手銀行に導入した実績がありますが、その銀行では1日に200万通から500万通の電子メールを利用しています。それだけ大量のメールをやり取りしている場合でも、パフォーマンスに問題がないという結果が出ています。


―メールの中身をスキャニングするためには、日本語版のCompliance Serverが必要になると思うのですが、発売はいつ頃になりそうですか?

ダウナー氏
 残念ながら未定です。日本語解析の技術が必要になるため、開発には時間がかかってしまいます。

 ただ、言語に左右されない使い方をしてもらえば、英語版でも導入は可能です。例えば、重要なデータが多い添付ファイルを送る際にはすべてデータを暗号化するといったルールにするのであれば、英語版のCompliance Serverで対応できます。実際にそういう使い方をしたいので導入を決めた日本企業も出ています。


―暗号化したデータをやり取りするためには、送信相手の状況を事前に知っておく必要があると思うのですが。また、相手が暗号化されたメールを利用するような体制がまったく整っていない場合もあるので、メールの暗号化は難しいという声もありますが。

ダウナー氏
 確かに暗号化してメールをやり取りすることが根付かなかった背景として、送信相手の公開鍵やパスワード、証明書といったものを考慮しなければならない状況がありました。そこでEntelligence Messaging Serverでは、証明書が確認されている受信者に対しては最適な配信方法を選んでメールを送る仕組みとしました。それもエンドユーザー側で判断するのではなく、Entelligence Messaging ServerがS/MIME環境なのか、OpenPGPなのかといったことを判断します。

 どちらにも対応していない送信相手の場合には、Webメールでメールを送ることができる「Entelligence WebMail Center(エンテリジェンスウェブメールセンター) 7.5」というアドオン製品をEntelligence Messaging Server8.0と同時に発売しました。この製品はYahoo! MailやHotmailにも対応しているので、どんな相手に対してもセキュアなメールを送ることができます。


日本法人の2006年の目標は販売パートナーの拡充

―ダウナー社長は、2005年9月に日本法人の社長に就任しました。日本法人の当面の目標について教えてください。

ダウナー氏
 2006年の日本法人の目標は、よりよい販社を増やしていくことです。当社の製品は導入の際にシステムインテグレーションが不可欠です。だから、ユーザーに最適なシステムインテグレーションができるパートナーをたくさん増やしていく必要があると思っています。

 米国ではPKIソリューションをアウトソーシングして請け負う企業も出てきています。日本でもそういうことができるようなソリューション力をもったパートナーを増やしていきたいです。

 実はパートナーシップの拡充は、日本だけでなく、全世界のEntrustの目標でもあるんです。当社の従業員数は500人で、そのうち300人のスタッフが開発拠点のあるカナダのオタワに在籍しています。当社のマンパワーだけではお客様のところに製品を届けることはできませんから、信頼できるパートナー網を構築することが必須となるわけです。


―日本法人の売り上げ目標はどれくらいですか?

ダウナー氏
 国別の売り上げは公表していないのですが、Entrust社トータルで前年比30%から40%の売り上げ増を狙っているので、日本でも同じような実績を残したいと考えています。これは業界平均である対前年度比10%の売り上げ増を上回る実績ですが、決して不可能な目標ではないと思っています。


―セキュリティ業界は、SymantecがVERITAS Softwareを買収するなど、ひとつの分野にとどまらず複数の分野のセキュリティソリューションを提供できる体制を目指す動きが出てきました。こうしたセキュリティ業界の変化をエントラスト社ではどう受け止めていますか?

ダウナー氏
 ご指摘のようにセキュリティといってもいろいろな分野があり、ひとつの分野に特化するのではなく、さまざまな分野のセキュリティソリューションをそろえたメーカーも出てきました。エントラストとしても、以前だったらアイデンティティソリューションの企業という印象が強かったでしょうが、メッセージングソリューションにも力を入れています。

 今後さらに新しい分野に進出する可能性も十分にあると思いますよ。


―新分野に進出する場合には、自社で新しい商品を開発する場合と、他社を買収するという場合がありますが・・・。

ダウナー氏
 両方可能性があると思いますね。現在、8400万ドルのキャッシュベースがありますから、買収によって新分野に進出する可能性は十分にあります。ただ、たくさんの会社を買収することはできませんから、フォーカスを絞ることにはなると思いますが。


―どんな分野にフォーカスしているのですか?

ダウナー氏
 それはまだ言えません。ただ、当社はソフトを作って、売るのがビジネスですから、その路線には変わりはないとだけ申し上げておきます。



URL
  エントラストジャパン株式会社
  http://japan.entrust.com/

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( 三浦 優子 )
2006/01/05 11:30

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