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「先行者の強みを生かす」-ソフト開発支援ベンダTelelogicの戦略


 スウェーデンのTelelogic AB(以下、Telelogic)は、要件定義ツールの「DOORS」、構成管理ツール「SYNERGY/CM」、変更管理ツール「SYNERGY/Change」に加え、モデリングツール「TAU」などの、ソフトウェア開発を支援する製品を展開するベンダである。

 2月21日にもTelelogicの日本法人である日本テレロジック株式会社(以下、テレロジック)が、Unicodeに対応した日本語版のSYNERGY/CMとSYNERGY/Changeの最新版を発表したほか、3月7日にはTelelogicが、組み込み分野にフォーカスしたモデリング開発ツールを擁する米I-Logix(株式非公開)を8000万ドルの現金で買収することを発表。エンタープライズ分野におけるソフトウェア開発をさらに強力に支援する製品戦略を明確に打ち出している。

 今回は、そうした戦略を進めるTelelogicとその日本法人の現状、またソフトウェア開発が進むべき方向について、両社のエグセクティブに話を聞いた。


複雑化するソフトウェア開発の課題

 その前に少し、ソフトウェア開発の現状について整理しておこう。現在、エンタープライズ分野におけるソフトウェアの開発は、さまざまな課題を抱えているといわれている。しかし、究極的に考えれば「本当に必要とする機能」をもったソフトウェアを「短納期」で、しかも「最小限のコスト」で開発するという3つの課題に集約することができる。

 これまで企業のITプロジェクトは、エンジニアがビジネス部門の担当者に要件をヒアリングして設計し、その設計を元にシステムエンジニアやプログラマーがせっせと開発していた。ビジネスの要件はITの機能へと細分化され、それぞれの機能をコーディングしていくのである。これは一般的にウォーターフォール型と呼ばれる開発プロセスであるが、コーディングの開始前には設計を完成させ、網羅的なドキュメントにしたがって開発が進行していく。

 ウォーターフォール型の開発プロセスは、大規模なプロジェクトで時間をかけて作ったソフトウェアを、長期間運用することを前提としている。ところが急速にビジネスの速度が増したことにより、ユーザーのニーズも短期間で変化するようになった。この変化にIT側が柔軟に対応するため、多くの企業が既存のウォーターフォール型に代わり、反復型やアジャイルといった開発プロセスへと移行していった。

 このようにソフトウェアの開発プロセスが複雑化したことに加えて、ITへ要件が多岐に渡り、しかも変化することを前提としているためにソフトウェアの複雑性が増し、プロジェクトの管理もより複雑なものとなったのである。その結果、多くの開発プロジェクトは混乱し、納期までに仕上がらない、必要な要件を満たしていない、予算内に終わらないといったプロジェクトの失敗を招くこととなった。


要件駆動型の開発をサポート

構成管理ツール「SYNERGY/CM」の画面イメージ
 そこで登場したのがDOORSに代表される要件定義ツールである。DOORSではユーザーが求める要件を定義し、それぞれの要件を実現するソフトウェアをツリー構造で管理する。どの要件が実装されているか、あるいは現在の進ちょく状況が何%か、問題は発生していないかなどを正確に把握する要件駆動型の開発が可能になる。

 さらに要件に紐づいたソフトウェアは、SYNERGY/CMのような構成管理ツールを利用することによって、そのソフトウェアがどのファイルから構成されているのかを管理することもできる。構成管理ツールはソースファイルなどのバージョンを管理し、リリースされたソフトウェアがどのバージョンのファイルだったのか、ファイルの依存関係などをリアルタイムで把握できる。SYNERGY/CMでは開発者の作業をタスクという単位に分割し、ソフトウェア開発のプロセスを詳細に管理することで、開発プロジェクトの進ちょく状況や問題点を素早く判断することができる。

 ソフトウェアに対する変更を管理するのが、変更管理ツールである。Telelogic製品ではSYNERGY/Changeになる。変更依頼や担当者の承認から、設計、コーディング、テストといった変更プロセス全体を管理する。変更管理ツールは単体で利用することもできるが、構成管理ツールとセットで利用するのが一般的である。

 このようにユーザーの要件を定義して、ソフトウェアの開発プロセスを管理する要件駆動型の開発では、開発プロセスをコンパクトで小回りのきくもの、つまりアジャイル型の開発プロセスへと容易に移行することができる。さらにソフトウェア開発の効率化だけではなく、分析についての効率化を図ることも可能である。たとえば要件変更の依頼が発生した場合、その要件変更がIT全体に与えるインパクトを事前に分析し、必要となるコストを試算できる。ユーザーからみれば「ちょっとした機能追加」であっても、IT全体から見ると大きな仕様変更が必要となる場合もあるが、分析結果に照らし合わせて「その機能は本当に必要なのか?」という視点をユーザーに与えることができる。

 DOORSおよびSYNERGYはJ2EEおよび.NETの主要な開発ツールとの連携が可能で、既存の開発ツールはそのままに、要件管理、構成管理、変更管理を行うことができる。つまり開発担当者にとって大きなインパクトとなりうる開発ツールの変更は、最小限に抑えることができるのである。また、リポジトリとなるデータベースはバンドルされており、新たにほかのデータベースを用意する必要はない。もちろんすでにあるデータベースをリポジトリとして利用することも可能だ。

 またTelelogicは、新たにモデリングツールのベンダであるI-Logixを買収した。TelelogicにはすでにUML2.0に対応したモデリングツールTAUや、ビジネス・モデリングツールのSystem Architectがあるが、I-Logixの組み込み分野にフォーカスしたモデリングツールを入手したことで、よりMDD(モデル駆動型開発)をサポートする環境が整うこととなるだろう。


要件管理、構成管理、変更管理のシームレスな連携

Telelogic SYNARGY製品管理部門副社長のジャン・ルイ・ヴィニョー氏
 しかし、要件管理や構成/変更管理への関心が高まったことは、多くのベンダの戦略にも大きく影響している。たとえばMicrosoftのVisual Studioの最上位エディションであるTeam Systemは、要件管理、構成/変更管理といったALM(アプリケーションライフサイクル管理)全体をIDE(統合開発環境)でサポートするようになった。また、Borlandでは、これまでのIDE中心のビジネスから、ALM製品を中心としたビジネスへ転換を図ることを表明している。また、IBMやSerenaといった強力な競合他社の存在もある。そんな中でTelelogicはどのように優位性を保っていくのだろうか。

 構成/変更管理のツールについてTelelogic SYNARGY製品管理部門副社長であるジャン・ルイ・ヴィニョー氏は、「タスクベースによるソフトウェアの構成管理、さらに構成管理と変更管理を同じリポジトリで管理したのは我々が最初で、98年にはすでに発表していました。それから数年たって競合他社が追いついてきたという感じがあります。それはこの手法が優れているということの証明でしょう」と語る。

 さらにヴィニョー氏は「02年には要件駆動型の開発を提唱していますが、この分野についても他社が我々を追いかけています。面白いことに競合の製品からも、我々はベストプラクティスであると認識されているのです」と述べ、Telelogicが要件管理の分野においてもリーディングカンパニーであること、さらに先行優位性を保ち続けているということを強調した。

 ちなみに、Telelogicは買収戦略によって成長を遂げた企業であり、構成/変更管理ツールであるSYNERGYは、2000年にContinuusを買収して手に入れている。ヴィニョー氏はContinuusの出身である。要件管理ツールのDOORSも、同じ年にQSSの買収によってTelelogicの製品となったものである。Telelogicではこれらの買収の後、要件管理、構成管理、変更管理の統合を推進してきた。


日本テレロジック 代表取締役社長の粟倉豊氏
 日本国内の事情に関してテレロジック 代表取締役社長の粟倉豊氏は、「日本では2年前から要件管理、構成管理、変更管理のツールを提供してきたわけですが、やっと最近になって注目されるようになってきました」と述べる。顧客の多くは電気・通信産業や自動車産業の大手企業であるが、最近では比較的規模の小さい企業からも注目され始めているという。そのため、日本テレロジックでは、ソフトウェアライセンスのリースなど、初期の導入コストを抑えて中小規模の企業でも導入しやすいようなプランを設定することも可能にしている。


Telelogicが考えるソフトウェア開発の今後

Telelogic フィールド・マーケティング部門 副社長のトム・クーア氏

Telelogic 要件・変更管理・構成管理担当 プロダクトマーケティング・ディレクターのドミニック・タバソリ氏
 また個人情報保護法や日本版SOX法といった法制化も、日本テレロジックには追い風になっている。大規模な情報漏えい事件や、粉飾決算などITに絡んだ大きな事件が相次ぎ、全世界的にITの安全性や情報の確実性への関心が高まっている。さまざまな法制化がすすむ中、企業の存続そのものに関わる重要な関心事として「自分たちのITは本当に信頼できるのか?」が挙げられるようになった。この疑問を解決するには、全体を透過的に把握して管理するしかない。

 要件管理、構成管理、変更管理のツールを利用すると、自分たちの利用している機能は、どのようなソフトウェアで提供されているのか、誰が書いたどんなコードによって実現しているのかを把握することができる。また、何らかの欠陥が発見された場合、その欠陥にはどのようなインパクトがあるか、どのソフトウェアを修正すればいいのかなどが瞬時に判断できる。

 Telelogic フィールド・マーケティング部門 副社長であるトム・クーア氏は、「とりわけ金融関係の企業では、ITの透過性に対してセンシティブです」と語る。先年発生したクレジットカードの情報漏えい事件など、ITの不透明性が企業の存在そのものを揺るがしかねない大きな問題に繋がることを知っているということだろう。日本においては政府や自治体といった役所でも関心が高いという。

 また、今後の計画をTelelogic 要件・変更管理・構成管理担当 プロダクトマーケティング・ディレクターであるドミニック・タバソリ氏は「今後はディシジョン・サポートツールのFocal Pointなどよりビジネスに近い分野からも、ITをサポートしていく予定です」と述べる。現在ビジネスとITとのギャップに悩む企業は多いが、ビジネスの要件をITに正しく反映することで、これらの問題を解決することができるだろう。



URL
  日本テレロジック株式会社
  http://www.telelogic.com/jp/
  Telelogic AB
  http://www.telelogic.com/

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  ・ テレロジック、ソフト開発プロセスを改善する構成・変更管理ツールの新版(2006/02/21)


( 北原 静香 )
2006/03/16 15:59

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