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富士通研究所、研究開発戦略および知的財産戦略の説明会を開催


 株式会社富士通研究所は4月12日、同社の研究開発戦略および知的財産戦略についてプレス向け説明会を開催した。あわせて、同研究所が開発している最新技術の見学会が行われた。同社がこうした戦略説明会と見学会を開催するのは今回が初めて。


村野和雄社長

富士通が目指す21世紀型研究所

主要研究領域と技術成果ロードマップ
 説明会では、まず富士通研究所の研究開発戦略について村野和雄社長が現在の取り組みと今後の方向性などを語った。村野社長は同社の目指す21世紀型研究所のビジョンについて、「これまでの企業研究所は、サイエンスとエンジニアリングを統合することで競争力のある新技術を生み出し、20世紀後半には半導体による情報革命を巻き起こした。しかし、現在は技術拡散スピードの加速化によってグローバルでの競争が激しくなり、いままでのやり方では先行投資に対する利益確保が難しくなってきた。21世紀型研究所に必要とされるのは、開発した技術に関連するビジネスモデルの確立や環境問題・コンプライアンスといった社会的責任への意識で、これらによってユビキタス革命を起こしていく」と述べた。

 そして、これに向けた富士通研究所のミッションとして、「新ビジネスの創出を促進」、「先端技術の開発・蓄積」、「グローバルなバリューチェーンの構築」、「社会的な責任を担う」の4点を掲げ、全体戦略として富士通のテクノロジーバリューチェーンに貢献していく考えを示した。

 また、村野社長は同社がカバーする主要な研究領域と2015年までの技術成果ロードマップを披露。具体的な研究内容として、業務最適化BPM、ハイエンドサーバー、グリッドコンピューティング、ペタスケールコンピューティング、NGN(次世代ネットワーク)、手のひら静脈認証、H.264画像符号化技術、垂直記録技術、半導体の微細化技術などを説明した。

 特に業務最適化BPMについては、「他社にはない富士通ならではの上流開発技術。ITを使って業務改善のサイクルを構築し、経営業務の最適化を実現するもので、今後の重要な研究テーマとして本格的に取り組んでいく」(村野社長)という。

 グリッドコンピューティングに関しては、フランステレコムと共同で、グリッドコンピューティングによるテレコムキャリア向けITリソース有効活用実験に成功したことを同日付けで発表している。今回の実証実験では、パリ・新宿・川崎の3拠点のサーバー間で、サービスの負荷に応じてリソースを自動的に振り分けることで、従来のシステムでは処理しきれなかった負荷にも対応できることを示した。

 同社独自の技術である、手のひら静脈認証では今後の普及に向けた取り組みについても触れ、「小型・低価格化をさらに進めるとともに、世界統一ブランドとして国内だけでなくワールドワイドにも拡大を図る。そして、2007年度には携帯電話や自動車にも利用領域を広げ、出荷台数100万台突破を目指す」(村野社長)とした。


グリッドコンピューティングへの取り組み 手のひら静脈認証の普及に向けて 手のひら静脈認証の特徴

 研究開発の今後の方向性について村野社長は、「マーケット指向の研究開発を行っていく」考えを示し、「研究開発した技術をいかに早く事業に結びつけていくかがカギになる。そのために富士通のマーケティング戦略、製品開発ロードマップと密接にすりあわせながら、技術開発から製品化、市場投入までのスピードアップを図っていく」と説明した。

 事業化のスピードアップに向けては、研究所から事業部への人員異動を含む技術移管によって、事業部・営業・SE・関連会社などとの連携を積極的に行っている。半導体やHDD技術では、さらに事業化スピードを加速させるために、事業部と研究所を横断する組織を立ち上げ、開発と製品化を同時に進めているという。


ロードマップ基軸の研究開発戦略 研究成果の事業化スピードアップ

経営執行役 法務・知的財産権本部長の加藤幹之氏

知的財産戦略の目的

事業戦略・研究開発戦略・知的財産戦略の連携
 村野社長の発表に続いて、経営執行役 法務・知的財産権本部長の加藤幹之氏が知的財産戦略についての説明を行った。

 加藤氏は、「技術の会社である富士通にとって、特許や著作権などの知的財産は最も重要な価値がある」とし、知的財産戦略の目的について、「事業の競争優位性の確保」「事業の自由度の確保」「事業収益の確保」の大きく3点を挙げた。

 「知的財産をしっかりと保護できなければ、富士通のビジネス全体が重大な影響を受けることになる。そのために、事業戦略、研究開発戦略、そして知的財産戦略が三位一体となって知的財産の保護に取り組んでいく必要がある」(加藤氏)としている。

 具体的に、知的財産の側面から事業および研究開発の促進を支えるための施策として、「戦略的な権利の取得・維持・活用」、「他社権利を含む権利尊重のための取り組み」、「トレードシークレットを含む情報管理の徹底」、「政策提言のための積極的な社外活動」、「戦略的な人材育成と確保」などを推進している。

 さらに加藤氏は、三位一体での連携例を紹介し、特許取得の重点テーマとなっている「手のひら静脈認証装置」「サーバー」「光伝送技術」「次世代ネットワーク」「半導体微細化技術」に関して、特許取得への取り組みを説明した。

 特許に関する基本方針としては、競合他社に影響力を発揮できる質の高い特許を厳選取得、ビジネスへの特許の積極的な活用と実施料収入の増加、侵害回避に向けた事前調査の徹底などを掲げている。

 特許の出願・登録状況については、現在、富士通グループ全体で約8万1500件の出願・登録特許があり、そのうち40%が登録中、60%が出願中となっている。また、国内だけでなく海外にも積極的に特許出願を行っており、「2004年度には国内で出願した特許の海外出願率が60%を超えた。IT業界での平均海外出願率は20数%といわれており、これに比べると非常に高い出願率になっている」(加藤氏)という。

 なお、戦略説明会終了後に行われた見学会では、同研究所内のIDCラボで「グリッドコンピューティング」、BB&ユビキタスラボで「H.264画像符号化技術」、「手のひら静脈認証」、ロビーで「W-CDMA基地局装置」、「波長多重光伝送システム」、「光モジュール」、「シリコン半導体」についての最新技術が詳しく紹介された。




URL
  株式会社富士通研究所
  http://jp.fujitsu.com/group/labs/
  ニュースリリース
  http://pr.fujitsu.com/jp/news/2006/04/12.html


( 唐沢 正和 )
2006/04/12 21:28

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