日本でもSaaS(Software as a Service)への注目が高まっている。インターネット上のサービスとしてソフトを提供するこの形態は、ASPと混同されることも多いが、ASPはパッケージとして利用されていたものをインターネットに載せて利用するケースも多かったのに対し、SaaSはオンラインで提供されることを想定して新たに作り出されたものを指す。ASP以上にネットならではの使い勝手を実現するのがSaaSだ。
そんな中、SaaS専業の基幹業務ソフトメーカーである米NetSuiteが日本法人を設立。6月末から「NetSuite CRM+日本版」の提供を開始する。SaaSにおけるビジネスの現状を米本社・上級副社長のマンスフィールド・ディーン氏と、日本法人の社長に就任した東貴彦氏に聞いた。
■ 簡単にアップグレードできないパッケージソフト
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米NetSuite上級副社長のマンスフィールド・ディーン氏
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―NetSuite製品の提供形態ですが、日本ではSaaSに絞り込んでいるが、米国でも同様なのでしょうか?
ディーン氏
米国でも提供形態はSaaSのみ。パッケージによる製品提供は一切行っていません。われわれがソフトの提供方法をSaaSに絞り込んでいるのは理由があります。ひとつは、真のデータベース統合を実現するため。もうひとつは、インターネット上のサービスとして提供していった方が、ユーザーにとっての利便性が高いと考えているからです。
といっても、SaaSへの移行はどのアプリケーションベンダーでもできるというわけではありません。マイクロソフトのように、元々クライアント/サーバー型アプリケーションとして作られたものを載せ替えようとすれば、相当の苦労を強いられる。にも関わらず、マイクロソフトもサービス上のアプリケーション提供計画を発表しました。これは、CD-ROMやDVDなどを配布して、ソフトを提供するビジネスモデルが限界に近づいているからではないかと思います。
―CD-ROMなどのパッケージを配布するビジネスモデルが限界に近づいているとは大胆な意見ですね。
ディーン氏
でも、実際にそういう事態が起こり始めています。ある企業を訪問して、みんな同じバージョンのWindowsを使っているのか、確認してみてください。多くの企業が、いろいろなバージョンのWindowsを使っているはずですよ。バージョンが同じであっても、サービスパックをきちんと当てて使っていないというケースも多いでしょうし。
ご存知の通り、ひとつの企業が異なるバージョンのWindowsを使っていると、ノウハウの共有や情報の共有がしにくくなるということが起こり得ます。
OSのアップグレードも容易ではありませんが、ソフトのアップグレードはさらに難しい。あるオラクルのユーザーは、「ソフトのアップグレードをすると、事業をストップさせなければならない」と頭を抱えていました。SAPのユーザーのところに行って、「アップグレードは大変でしたか?」とインタビューしてもらえば、熱心にいろいろな逸話を聞かせてくれると思いますよ。
■ 価値あるネットサービスなら顧客は対価を支払う
―サービスとしてソフトを提供する場合、サービスが有料であることを納得してもらうのが難しいという指摘があります。インターネットの世界は、タダでいろいろなサービスを利用できるので、「有料」となると途端にユーザーが少なくなるという意見です。
ディーン氏
米国のユーザーは、有料化に大きな抵抗を示しませんでした。中小企業のユーザーも有償であることを納得してサービスを利用してくれています。
おそらく、「価値」を認めてくれたから、有償のサービスに抵抗感がなかったんだと思うんです。
例えば、企業内にいくつも存在するデータベースをひとつにして、業務システムを有効活用できるという点に賛同を示してくれるユーザーがたくさんいました。中小企業であっても、3つ、4つのデータベースは存在しているはずです。会計用のデータベースに、顧客管理用データベースといった具合に。本来、これらのデータベースは連携して使われてしかるべきなのに、バラバラに構築されたデータベースを連携させるのは容易なことではありません。
大企業も同様の問題を抱えていますが、プライスウォーターハウスやアクセンチュアといった大手コンサルタントに頼んで、データ共有の仕組みを作ってもらうことが可能です。
しかし、中小企業にはそんなコストはありません。仕方ないので、中小企業ではExcelをコミュニケーションツールとして活用し、「このデータベースはこんな状態になっているよ」と切り出したデータをExcelで閲覧して確認しているわけです。そうなると、データベース用に複数のサーバーが必要になったり、Excelを利用する分、余分な時間やコストがかかることになる。おまけに、データベースがバラバラな状態では、情報収集機能は限られてしまう。
そこで、NetSuiteはデータベースをひとつにして、企業の業務システムを処理するスタイルとしました。それによって余分な作業もコストも必要なくなる。Excelのスプレッドシートで行っていた在庫データの分析も、われわれのサービスを利用すればできてしまいます。
■ ユーザーに付加価値を提供できる事業者だけがパートナーとして生き残る
―NetSuiteのサービスを利用するには、その企業のワークスタイルにあった設定を行うことが必要になると思います。その設定はユーザー自身で行うのですか?
ディーン氏
ご指摘の通り、NetSuiteを利用する際には、その企業にあったポリシーを設定する必要があります。設定はユーザー自身で行うことになります。
―ポリシーの設定となると、社内のIT担当者には決定権限はないと思いますが。
ディーン氏
その通りです。その企業のポリシーをきちんと理解しているのは、経営者だけでしょう。
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日本法人社長の東貴彦氏
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―日本の中小企業の経営者には、ITアレルギーの人も多いと聞きます。自分自身でポリシーを決定しないと利用ができないと聞くと、導入をためらう場合も多いのではないかと思います。
東氏
米国の場合は、Webブラウザ上でポリシー設定が行えることで、自分自身の手でポリシー設定を行う経営者が多かったと聞いています。日本の経営者の中にはご指摘のように、自分自身の手でポリシー設定のための作業をできないというケースもあるでしょう。
米国では電話でいくつかの質問をユーザーに投げかけ、設定の手助けをするというフォロー方法もとっています。日本法人にはトランスコスモスに資本参加し、パートナー企業としてビジネスサポートをしてもらうことになっています。これは米国で実践しているような電話サポートをする能力がトランスコスモスさんにはあると判断したからです。
もちろん、電話サポートだけではサポートしきれないユーザーもいるでしょう。そういうユーザーを獲得していくためには、地域に特化したパートナー企業や、特定業種に特化したパートナーも必要になると思っています。
―パッケージ製品を販売する際に必要なパートナー企業と、SaaSに必要なパートナーには違いがあるのでしょうか?
東氏
広く浅くビジネスを展開している企業はSaaSのパートナー企業には向かないと思います。お客さんのニーズをきっちり理解し、付加価値を提供できる企業でなければビジネスが成立しなくなる時代が来るでしょう。
―ところで、NetSuiteはオラクルの創業者であるラリー・エリソン氏が出資して誕生した企業です。マイクロソフトの役員だった東さんがNetSuiteの日本法人の社長となったことにちょっと驚いたのですが。
東氏
(笑)いや、私自身は違和感はまったくないですよ。NetSuiteの出資者が偶然、ラリー・エリソンだっただけですよ。マイクロソフトに入社したのも、「この会社は面白い」と思ったから。私にとっては、現在、「面白い」と感じることができる企業がNetSuiteだった。この会社を選んだ理由はそれだけです。
■ URL
ネットスイート株式会社
http://www.netsuite.co.jp/
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( 三浦 優子 )
2006/05/31 11:51
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