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富士通・黒川社長、「自ら実践した価値を顧客に提供する」


代表取締役社長の黒川博昭氏

富士通のビジネス構造

財務体質の改善状況
 富士通株式会社は6月9日、経営方針説明会を開催。代表取締役社長の黒川博昭氏が自ら、同社の経営方針を詳細に説明した。

 2005年度の富士通の業績を見ると、営業利益は前年比13.3%増の1814億円となり、目標を達成しているが、売上高は同0.6%増にとどまっていた。黒川社長はこれについて「きちんと営業利益を出せる会社にしたいと思ってきたので、売り上げはそんなに重視していなかった。ただし、成長を目指す場合にはそれではいけないので、これからは売り上げも重視していく」と述べた。セグメント別では、テクノロジーソリューション部門が売り上げの57%、利益の69%と大きなウエイトを占めており、この状況は引き続き推進していくとした。

 また有利子負債の残高が1兆円を割るなど財務体質も強くなっているほか、2002年度の月当たり0.59回転に対して2005年度は同0.88回転と、回転率が上昇。一方フリーキャッシュフローも1700億円あまりまで上昇している。黒川社長は「棚卸し資産の継続的圧縮を目指すとともに、業務のプロセスを高速化することが大事だと思っている」と述べ、成長に向けたベースはできつつあるとしている。

 一方、2006年度の方針としては、2004年度に掲げた中期ビジョンの仕上げを行うとして、1)既存ビジネスの強化、2)新しいビジネスの創造、3)フォーメーションの革新、4)マネジメントシステムの見える化、などを継続課題として挙げた。

 黒川社長は、そのためには、プラススパイラルの経営実現が必須としている。「価格はどんどん下がるなど、数量が伸びても売り上げは伸びないことがあるが、それでも富士通は成長を目指す」とし、「利益を商品力・販売力の強化に使い、さらに利益を増やし、再投資する」という流れを作ることが大事だと語った。

 そのためにはまず、危機意識の共有が必要なほか、リアルな現場・現実にこだわることも大切だという。そして、顧客起点で考える基本の徹底やプロダクト部門の復活、チームとして業績を見ていくことなどの意識改革をする一方で、営業とSEの一体化、FSASの完全子会社化など、グループ会社の再編、電子デバイス事業のロジックへの集中などの構造改革を行っていく考えである。


 ビジネス構造は、ユビキタス、デバイスの各事業に比べて高い営業利益率がある、テクノロジーソリューション部門を中心とした構造は変わらないとする。その中では、75%を占めるサービスビジネスが主流。成績の良くない国内の収益を向上させるとともに、成長率の高い海外のビジネスをさらに伸ばしていくことが、成長戦略という。

 そのサービスビジネスでは、構築・SIの比重が大きいものの、粗利率は運用サービスやパッケージサービスの半分程度ということを説明。黒川氏は「富士通のリソースをパッケージ、運用に変えていけば数字は良くできる。SIからサービスビジネスへのシフトを進めたい」と述べた。

 もっとも、SIでも手をこまぬいているわけではない。収益力強化のために不採算案件のさらなる低減を目指した結果、2006年度は50億円の損失にまで圧縮できる見込みで、これは2004年度の1/8だとのことである。「リスクの高いビジネスを、リスクをテークしてやっていかないと、次のSIのビジネスが広がらない」として、不採算はゼロにはできないとしながらも、確実にコントロールできるようになってきたということを強調。さらに、SIプロジェクト管理の高度化、失敗の研究などによって、いっそうのレベルアップを目指している。


運用を起点としたビジネスの拡大

中堅・中小企業市場の成長余地
 また、重点的に伸ばしていく分野は、アウトソーシングと中小・中堅企業への取り組みだと、黒川社長は説明した。「東証などでお客様に迷惑をかけた。お客様のシステムを預かっているのだ、サポートしているのだという原点に返り、もっときっちりとやっていく」と昨年を反省したほか、「単なるITのアウトソーシングが、お客様の業務プログラムを保守続けるAPMや、現場のアウトソーシングであるBPOに広がっていく。これが富士通の次の成長領域だ」と話す。

 中堅・中小企業への取り組みでは、「地域でのシェアは、ハードウェアは21%なのにソフトウェアは12%、サービスは17%」と、ギャップがあることに触れ、「提案やデリバリはきちんとできているのか、パートナーとの連携はうまくいっているのかなどを見直す。まだ国内で成長する場はある」と語っている。

 一方、プラットフォームビジネスでは、たとえばPCサーバーで国内シェア(金額ベース)が下がっている点を指摘。競合よりもパートナー販売の比率が少ないため、これを改善するほか、海外での販売力強化を目指すという。通信系では、米Cisco Systemsとの協業に言及し、「富士通だけでやっていても商売は難しいし、Ciscoにも品質などの課題がある。それなら一緒にやろうということで作った提携。富士通の技術者がCiscoへ行って一緒に開発している。またインテグレーション力の強化も行っており、先行している競合を早くキャッチアップしたい」と述べた。

 テクノロジーソリューション部門での売上高目標は、国内で2兆2480億円、海外では9690億円。前年度は売上成長率がマイナスだった国内をプラスに転じさせるとともに、「海外は日本と比較にならない伸び率で伸ばしていこう」(黒川社長)という考えである。


富士通のPCビジネスの現状
 このほか、デバイスソリューションではロジック事業に集中した投資を行う。300mm製造施設の第一棟投資を前倒し、第二棟投資を行うなど、世界トップクラスの製造能力を目指す。ただし、「やみくもに投資しようとしているわけではない」とし、キャッシュフローを考えた臨機応変な対応で、安全性と積極性を両立させていくとした。

 HDDやPCが位置するユビキタスソリューションでも、キャッシュフローの範囲内で投資をしていく。クライアントPCは全体で5500億円規模のビジネスとした黒川社長は、「製品は世界で認められているし、セキュリティ機能やAV機能で差別化ができている」と述べた。2006年度は、前年比75万台増の900万台の出荷を全世界で行う予定だ。

 HDDは、2001年度にコンシューマPC向け3.5インチHDDをやめ、モバイル向けの小型HDDと企業向けの両製品ラインに絞って展開している。モバイル向けはシェア23%で2位。「厳しい戦いが続く」とコメントしたが、企業向けはSeagateが買収によって52%のシェアを突破したため、「顧客はセカンドソースを気にしてくる。逆の意味で富士通は伸びる意味がある」とした。この分野での同社シェアは、21%で2位となっている。

 「2006年度は(全体で)設備投資をかなり増やすが、連結のフリーキャッシュフローは前年度と同じレベルを確保する。これだけ投資すると減価償却費が5~600億円増えるが、しっかりと投資して次の成長を目指す」(黒川社長)。

 さらに黒川社長は、「経営とITが一体化していく中で、富士通が自らビジネスを変えていこうと思っている。業務プロセス改革、社内ITの改革をして、うまくいった部分、いかなかった部分をリファレンスモデルにして提供する。コーポレートIT部門に、富士通の製品を真っ先に使って、いいところ、悪いところを言えといっている」とも語り、富士通自身が身をもって実践したモデルを顧客に提供するとした。



URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/

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( 石井 一志 )
2006/06/09 16:34

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