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PLMが自動車部品の“超短納期”を実現-市光工業


 自動車用ランプとミラーの大手メーカーである市光工業株式会社では、自動車メーカーの求める超短期開発に対応するため、設計品質向上の施策や、設計プロセスの標準化(パターン化)を推進している。同社では、以前から利用していたPLM(Product Lifecycle Management)ソリューションを生かした独自の設計システムとして「設計ナビ」を構築し、新しいモデリング手法を確立した。これによって、設計業務のプロセスを改善し、一定の品質を保ったまま、設計業務にかかる時間を大幅に短縮することに成功したのである。今回は、この新しい設計システムについて、同社の伊勢原製造所を取材した。


頻繁に発生するモデルチェンジに対応する

市光工業 伊勢原製造所

市光工業は国内でもトップクラスのシェアを誇る自動車部品メーカーだ
 市光工業は、日本初となるプロジェクター・ヘッドランプを開発するなど、国内でもトップクラスのシェアを誇っている部品メーカーである。トヨタ、日産、富士重工など主要な自動車メーカーの多くと取引がある。そんな市光工業が近年課題としているのが、超短納期の設計である。

 自動車に限った話ではないが、近年製品のライフサイクル(製品寿命)は短期化する傾向にある。製品をすばやく適切な時期に市場に投入し、同時に古い製品の在庫を抱えることがないよう生産は少量化している。以前は同じモデルの車を大量に何年も生産していたが、最近では短いサイクルでモデルチェンジを繰り返したり、地域ごとに異なるモデル(地域に密着したモデル)を展開したりするなど、多様な車種を少量ずつ市場に投入するようになった。

 製品のライフサイクルが短くなることで、設計にかかる時間も短縮しなければならなくなった。早いものでは一週間ほどで次のデザインに変わってしまうため、以前のように設計に多くの時間を割くことは難しい。そこで市光工業では、設計業務をサポートするシステムを見直して設計プロセスの標準化と自動化を推進することで、一定基準以上の品質は保持したままで、自動車メーカーの求める超短納期に対応したのである。


ベースはハイエンド3次元CAD製品「CATIA 5」

既存のデザインをもとに、モーフィング機能で新しいモデルをデザインする。従来の手法と比較して80%の工数を削減可能という
 設計ナビのベースとなっているPLMソリューションは、日本IBMとダッソー・システムズの「CATIA V5」である。CATIAは「Computer graphics Aided Three dimensional Interactive Application」の頭文字から名づけられたソフトで、その名前の示す通りハイエンド3次元CAD製品である。

 しかし、CATIAは単なる3次元CADではない。最新版のCATIA V5は、構成要素のほとんどをパラメトリックに設計する(3次元データに対して、3次元パラメータを定義する)ことが可能で、そのデータは再利用可能な資産として管理される。試作品によるテストや検証といった作業の多くを、3次元の仮想環境で実行できるため、設計/検証という製造の前段階のフェーズを短期化することもできる。さらにPLMソリューションの中核をなすソフトとしてのCATIAは、製品企画、設計/検証、金型の加工や組み立て手順書の作成といった製品ライフサイクル全体を支援する。

 市光工業は、80年ごろからCADによる設計を行ってきた先駆的な企業でもあり、2次元CADの時代から培ってきたノウハウ(知的資産)が蓄積されている。そこで同社ではCATIAのナレッジ機能や、マクロ、モーフィング、パワーコピーなどの新しいモデリング手法を利用して、過去の知的資産から設計プロセスの標準化と自動化を進めたのである。これによって、経験の浅い設計者でも設計を可能にする環境が構築できるという。


設計プロセスの明確化とモデリング業務の分離を実現

設計プロセスを4階層に分類して明確化

設計プロセスの改善例
 しかし設計システムだけで設計プロセス全体が改革できるわけではない。市光工業では設計プロセスを見直すために、設計プロセスを明確化する作業を行っている。これは設計プロセスの全体を分析し、概念設計から詳細部分の設計まで4段階で階層化して、細かい設計の単位に分類するといった作業である。

 このように設計プロセスを細分化したことによって、設計者やモデラーといった設計に関わる人物の役割、つまり自分たちが「いつ」「何をすればいいか」ということが明らかになった。設計者は設計の本質となる部分に専念し、モデラーはデータ作成の期間短縮と、理解しやすいデータの作成を目指すのである。

 以前は要求仕様がかたまっていないにもかかわらず、概念設計をもとにモデリングしてしまい、結局作りなおすという無駄な作業が発生していた。しかし、プロセスを明確化することで無駄な手間を省くことが可能になったという。

 このように、設計ナビの構築と業務プロセスの改革によって、市光工業は設計業務にかかる時間を大幅に縮小することに成功した。さらに今後は法令関係のデータベースとのリンク、各種シミュレーションとの連携、進ちょく状況の管理など設計ナビの多機能化を目指す予定とのことである。



URL
  市光工業株式会社
  http://www.ichikoh.com/
  ダッソー・システムズ株式会社
  http://www.3ds.com/jp
  日本アイ・ビー・エム株式会社(PLM)
  http://www-06.ibm.com/jp/engineering/


( 北原 静香 )
2006/06/14 11:07

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