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「もっとプログラミングを楽しんで欲しい」-米Borlandインターシモーネ氏


 ボーランド株式会社 デベロッパーツールズ事業本部は9月6日、Win32、および.NETアプリケーション開発環境の単一言語版として、「Turboシリーズ」の日本語版を発表したことは、すでにお伝えしたとおりである。今回は、この発表と7日に開催されたボーランド デベロッパー キャンプの講演のため来日した、David Iこと、米Borland Softwareのデベロッパーリレーションズ担当副社長兼チーフエヴァンジェリスト、デビット・インターシモーネ氏から、直接Turboブランドの復活について話を聞いた。


もっとプログラムを身近で楽しいものに

米Borland Softwareのデベロッパーリレーションズ担当副社長兼チーフエヴァンジェリスト、デビット・インターシモーネ氏
 BorlandのTurboシリーズといえば、同社が1980年代にリリースしたPCの開発環境のブランド名である。Borlandを世界的に著名な企業にしたブランドでもあり、かつては「Turbo Pascal」や「Turbo C」をはじめとして複数の言語があった。今回リリースされた新Turboシリーズは、「Borland Developer Studio」として提供されている統合開発環境の単一言語版で、Win32および.NETのアプリケーションを開発することができる。つまり、名前は昔のブランドでも、中身は最新の開発環境ということになる。

 Turboブランドの復活についてインターシモーネ氏は、「過去にTurbo PascalやTurbo Cが登場したとき、学生やプログラミングを仕事としていない人が、プログラミングは簡単で楽しいと感じ、さまざまなプログラムを作成しました。このように、Turboシリーズは、幅広い層にプログラミングはエキサイティングで楽しいということを知ってもらうためのブランドです。多くの人がTurboシリーズでプログラミングの楽しさを知ることで、開発者の層を広げたいと考えています」と語る。

 「Turboシリーズは、プログラミングの学習にとても魅力的な製品です。すべてのTurbo製品はフルプロダクトで、モデリング機能やデバッガも搭載されています。たとえば、友人の名前と電話番号のリストさえあれば、ドラッグアンドドロップでデータベースを簡単に作成することもできます。自分が作ったゲームを友人に見せたりといった楽しみかたもあるでしょう。このように、もっとプログラミングを身近なものとして考えられるのが、Turboシリーズなのです」(インターシモーネ氏)。


新Turboシリーズでプログラム開発者を増やす

 しかし、PCの利用者は増えているものの、プログラミングを目的としてPCを購入する人は少ないのが現状である。Turboシリーズが手軽に入手できる開発環境であったとしても、それほど多くの人が利用するのだろうか。この件に関してインターシモーネ氏は、「私の3人の娘もそうですが、自分のブログやホームページを作成することでHTMLやJavaスクリプトなどに興味を示します。また、私の父は、仕事を引退してからプログラミングを学習し、それを楽しむようになりました。若い層でなくても、プログラミングを趣味で楽しむことができるのです」と、PCを利用する多くの人が、潜在的にプログラミングに対して興味を持っていると主張する。

 また、最近では、MicrosoftがVisual Studio 2005 Express Editionで開発環境を無償で提供していたり、Javaの世界ではEclipseによって個人ベースのユーザーでも開発環境を無償、あるいは極めて安価で入手したりすることができる。このような状況でTurboシリーズのメリットはどこにあるのかを尋ねたところ、インターシモーネ氏は、「Turboシリーズには、過去から続くユーザーのコミュニティがあります。また、IDEだけでなく、モデリングツールやデバッガなども含まれたフルプロダクトであることも強みです」と述べた。

 このようにプログラミングを“楽しい”と感じてもらいたいと考えている背景には、世界的にプログラム開発者が減少している現象がある。大学などでプログラミングを学習する学生が減少し、結果的に将来プログラマになる人員が減っているのである。また、IT関連企業への就職を希望している学生の多くは、プログラマよりもコンサルタントやシステムアナリストといった、より上流工程の業務につきたいと考えているという。

 この現象についてインターシモーネ氏は「将来プログラマーになりたいと考える学生の減少にはさまざまな理由が考えられます。1つにはバイオテクノロジーなどプログラマー以外の選択肢が増えたことが挙げられますが、実際には多くの仕事でプログラミングの知識が必要になります。また、プログラミングという作業が(オフショア開発という形で)インドや中国といった人件費の安い国に出す作業になってしまったと考える人も増えたようです。しかし、これは大規模な企業のシステムの話で、すべてのプログラミング作業を人件費の安い国で行う作業になったわけではありません」と、プログラミング学習の重要性を強調した。


ビジネスでも利用できるTurboシリーズ

Turboシリーズから、Borland Developer Studioへのステップアップ
 もちろんTurboシリーズは、プログラミング学習だけを目的とした製品ではない。「Turboシリーズは、商業利用することに制限はありませんので、ビジネスでの利用も可能です。規模の小さい企業が少ない投資でプログラム開発業務を行ったり、個人ユーザーが知り合いに頼まれてプログラムを作成したりすることができるのです。また、企業内でプログラムを作成することがメインの仕事ではない人が、簡単なプログラムを作成するといった利用も考えられます」と、インターシモーネ氏が語るように、Turboシリーズの可能性は広い。

 Turboシリーズには、無料の「Turbo Explorer」と有償の「Turbo Professional」がある。最初の学習にはTurbo Explorer、より高度なプログラミングをするならTurbo Professional、さらに多言語を利用しての本格的なプログラミングには、Borland Developer Studioとステップアップすることができる。もちろん、ステップアップしてもIDEが同じなので操作感は変わらない。また、インターシモーネ氏はTurbo Professionalの3万9900円という価格について、「プログラムを作成してなんらかの対価を得るのであれば、十分に魅力的な価格」と述べた。


Borlandでなくなっても開発環境は今後も進化していく

 すでにBorlandは、IDE関連事業をスピンアウトする意向を発表している。この件についてインターシモーネ氏は「春に来日したときよりも状況は進展しています。デベロッパーツールズの事業部が設立され、セールス、マーケティング、研究開発などの人員は、グローバルで200人以上働いています」と述べた。

 今回リリースされたTurboシリーズも、同様に新たな企業に引き継がれる製品となるが、Turboシリーズをはじめとして、多くのデベロッパーツールがマイルストーンにしたがって開発がすすんでいるという。Turboシリーズは、Win32および.NETのみの開発環境であるが、もちろんJBuilderなどJavaのデベロッパーツールも開発していくという。

 最近のBorlandのIDE事業は企業向けの製品が多く、以前のTurboシリーズで開拓した個人ユーザーは減少する傾向にあった。しかしインターシモーネ氏は「新しい企業の中心事業は開発環境で、開発者を中心として展開します。そのためにも、多くの人にプログラミングは楽しいことを知ってもらって、プログラム開発者のリーチを拡大して、市場を開拓しなければなりません」と述べ、これまでの企業よりの事業だけでなく、より個人向けの市場も開拓していく意気込みを示した。


啓発活動も積極的に実施

 Borland(あるいは新しく設立される企業)では、多くの人にプログラミングの楽しさや学習の重要性に興味を持ってもらうため、Explorer版のダウンロードや技術情報の提供を行う技術サイト(turboexplorer.com)の開設や、多くのサイトでの啓発的な宣伝活動を行うという。

 国内のボーランド株式会社でも、turboexplorer.com上に日本語ページを作成し、さまざまな情報を日本語に翻訳して掲載する予定である。また、この技術サイトを見てもらうために、雑誌やWebなどのメディアや、ボーランド デベロッパー キャンプなどでさまざまな啓蒙活動を行う予定とのこと。

 ボーランド株式会社 デベロッパーツールズ事業本部 マーケティングディレクターの藤井等氏は、「ソフトウェア開発の上流過程に偏重する学生も多いですが、これはソフトウェア開発を“建設業”にたとえることも原因かもしれません。上流工程は建築士、プログラミング作業は大工だと思っているのでしょうが、実際に開発作業はそこまで分業化されていません。我々はソフトウェア開発は厨房のようなものだと考えています。上流である料理長になるためには、ジャガイモの皮むきなどの修行からはじめなければなりません。ソフトウェアも同じように、ソフトウェアの本質を理解するためには、プログラミング知識が不可欠なのです」と、日本の多くの学生にプログラミング学習の重要性を訴え、実際に国内でも、プログラミングに興味を持ってもらえるような施策を考えていると説明している。

 今年2月の突然のスピンアウトを発表して以来、その動向が注目されるBorlandのIDE関連事業であるが、このTurboシリーズのリリースによって、その一部が見えてきたといえるだろう。



URL
  ボーランド株式会社
  http://www.borland.co.jp/
  turboexplorer.com日本語サイト
  http://turboexplorer.com/jp/


( 北原 静香 )
2006/09/13 00:00

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