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米OracleエリソンCEO、“同じレベルで価格は半分以下”のRed Hat Linux向けエンタープライズサポートを発表

Oracle OpenWorld基調講演

 米サンフランシスコで10月22~26日の5日間にわたり、Oracle OpenWorldが開催されている。25日の午後には、OracleのCEO、ラリー・エリソン氏の基調講演が行われた。


NASDAQ Closing Bell

 エリソン氏の基調講演に先立ち、NASDAQの閉幕ベル(Closing Bell)を鳴らすセレモニーが行われた。Oracle OpenWorld開催と、同社の株式公開20周年を記念してのもので、ニューヨークにあるNASDAQの取引時間終了の合図を、サンフランシスコから生中継で行うという趣向だ。ステージ上に「移動式ベル」といった感じのセットが用意され、エリソン氏のほか、社長のチャールズ・フィリップス氏、サフラ・カッツ氏なども顔を揃えた。

 セレモニーに先立ってあいさつしたNASDAQの社長兼CEOのロバート・グレイフェルド氏は、開幕/閉幕ベルのセレモニーは、通常はもっと小さな部屋で行われるのだが、今回Oracle OpenWorldの基調講演会場で行われるのは過去最大の規模ということになると紹介した。


NASDAQの社長兼CEO、ロバート・グレイフェルド氏
NASDAQから送られた記念品を掲げて来場者の声に応えるOracleのCEO、ラリー・エリソン氏。氏の向かって左隣は社長兼CFOのサフラ・カッツ氏、右端は社長のチャールズ・フィリップス氏
閉幕ベル(Closing Bell)を鳴らしたところ。オレンジ色のボックスのところにボタンか何かがついているようだが、客席側からはよく見えない

Unbreakable Linux 2.0

基調講演を行うOracleのCEO、ラリー・エリソン氏
 Closing Bellのセレモニーに続いて、エリソン氏の基調講演が行われた。同氏はまず、Oracleのグリッド技術への取り組みが、初期のParallel Server(1988年、Oracle Ver.6)から数えてももう20年近い歴史を持つことを紹介した。続いて、PCサーバーを利用して安価に高性能なグリッドを構築することの優位を明らかにした上で、PCサーバーグリッドのOSをどう選ぶか、というテーマに話を進めた。1998年のOracle 8でRAC(Real Application Cluster)を導入し、16台のPCサーバーでグリッドを構成できるようにした際に、PCサーバーのOSとして候補に上ったのはWindowsとLinuxの2種類。「オープンな標準ベース」「低コスト」という点ではLinuxが優れているが、「高性能」「高信頼性」「安全性」といった要素に関しては、Linuxにはまだ投資が必要と判断したという。


OracleのLinuxへの取り組みの歴史
 そこで、同社は1998年からLinuxに対する投資を継続してきた。1998年には商用データベースとしてOracleが初めてLinuxに対応し、2002年にはLinuxでグリッドを構成するために必要となるクラスタファイルシステムの開発に貢献した。さらに2002年には“Unbreakable Linux Program”として、Oracleデータベースを動作させているLinuxに深刻なバグが見つかった場合にはOracleが責任を持ってフィックスするとした。


Linuxにいまだに残る問題点
 こうした取り組みにもかかわらず、エリソン氏はまだLinuxにはエンタープライズ市場での普及を阻害する要因が残っているという。それは、
  • “真の”エンタープライズサポートが提供されていない
  • Linuxディストリビュータのサポート料が高すぎる
  • (SCOのような)知的所有権訴訟に対する補償が提供されていない
といった点だという。

 「“真の”エンタープライズサポート」とは何かという点が即座には分かりにくいが、同氏はこれを「バックポートの欠如」だと説明した。ユーザーが使用中のソフトウェアのバージョンは、常に最新バージョンとは限らない。むしろ、エンタープライズソフトウェアに関しては、バージョンアップのコストやトラブルのリスクを考え、安定した旧バージョンを使い続けたがるユーザーは珍しくない。エンタープライズソフトウェアのベンダーは、比較的長期のサポート期間を設け、旧バージョンに対しても深刻な問題が見つかったらパッチをリリースするのが一般的だが、Linuxでは、最新バージョンに関しては不具合修正が行われても、旧バージョンに対してバグフィックスが提供されることがなく、エンタープライズユーザーのニーズに応えていないのだという。


 そして、これらの問題に対するOracleからの解決策としてエリソン氏が発表したのが、新しい「Unbreakable Linux Program」だ。単純に言ってしまうと、Red Hat Linuxを対象としたサポート契約をOracleと締結できるようになるというもの。従来から、Oracleではデータベース等の製品のサポートの一環として、プラットフォームとなるOSに対するサポートも提供しているが、今回のプログラムは、Oracle製品ユーザー向けではなく、Red Hat Linuxそのものを対象として、データベース等の同社のエンタープライズソフトウェア製品と同じレベルのサポートを提供するという点で大きな差がある。

 コードベースはRed Hat Linuxだが、Red Hatの商標表示等を消して法的な問題を解消したソースに基づき、同社のサポート部門がパッチ等を作成し、バイナリでも配布する。作成したパッチや修正は即座にオープンソースとして公開され、誰でも利用できるようになるという。ただし、Red Hat Linuxから分岐した“Oracle Linux”といった新たなディストリビューションを作成するわけではなく、Red Hat Linuxがバージョンアップした場合などは新たにコードの同期を取り、Red Hat Linuxから乖離(かいり)しないようにする計画だ。当然、エリソン氏が挙げた問題点であるバックポートに関しても対応する。

 また、2番目の問題として挙げた「高額なサポートコスト」に対しては、Red Hatが提供するのと同レベルのサポートで半額以下、さらにRed Hatが提供しないレベルのサポートメニューも揃える。知的所有権訴訟に対する保護も提供されるという。

 上映されたビデオでは、Dell、HP、Intel、AMD、EMC、NetAppなど、エンタープライズ市場のプレイヤー各社のトップが出演して口々に支持を表明するなど、まさに業界待望のソリューションが登場した、という感があった。

 なお、現時点では対象となっているのはRed Hat Linuxのみで、Red Hatベースではあっても他のディストリビューションは含まれない。また、日本国内での提供開始についてはまだ未定とのことであった。


「Unbreakable Linux」(破られない/堅牢なLinux)のイメージとして、鎧をまとったペンギンのイラストが大写しになり、会場を沸かせた
Red Hatとのサポート価格比較表
基調講演会場から出ると、そこら中にペンギンが氾濫(はんらん)しており、会場がLinux一色に染まっていた。来場者にもペンギンTシャツが配られた。エリソン氏の基調講演が始まる前まではLinuxの存在感が高かったわけではないのだが、一瞬で雰囲気が変わったのは演出としても見事だった

 エリソン氏は、Unbreakable Linuxの提供理由を、「Linuxをエンタープライズユーザーにとって使いやすいものにするため」としている。Linuxの成熟の遅さにOracleがしびれをきらして自らサポートに乗り出したと見ることもできるだろう。とはいえ、基本的には無償で入手可能なLinuxをビジネスとして提供するために、高額なサポート料で帳尻を合わせるというビジネスモデルを採ったRed Hatにとっては、深刻な打撃となる施策であることも間違いなさそうだ。エンタープライズユーザーがどう反応するか、今後の展開が注目される。



URL
  Oracle OpenWorld
  http://www.oracle.com/openworld/

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( 渡邉 利和 )
2006/10/26 11:33

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