2006年9月に日本でも発表されたマイクロソフト初の業務アプリケーション「Microsoft Dynamics CRM 3.0」。いよいよ、マイクロソフトが業務ソフト分野に進出するとあって、発売前から話題を呼んだ製品だったが、実際に商品が発売された後は、一転してDynamicsの話題は少なくなってしまっている。現在、ビジネスはどう進展しているのか、プロダクトマーケティング本部の新保将製品戦略部長に話を聞いた。
■ 知名度はまだまだ
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新保将製品戦略部長
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これまで日本企業の聖域といわれてきた中小企業向け業務ソフト市場。大規模業務ソフトをはじめ、多くの分野で外資系が優位なソフト業界の中で、毎年変更される税制への対応や顧客サポートの難しさなどから唯一、「外資の進出が難しい分野」といわれてきた分野である。
その中小企業向け業務ソフト分野にマイクロソフトが進出してくるというのだから、発売前から大きな話題を集めたのも無理はない。
が、実際に製品が発売されると、意外にも、マイクロソフトが激しい勢いで市場を席巻するといった事態は起こっていない。
それに対し、新保部長は次のように説明する。
「業界内はともかく、一般のユーザーにとってはDynamicsの知名度はまだまだ低い。これは製品アピールについても、パートナーの皆さんからの情報発信に頼っていたため。マイクロソフト自身の情報発信が少なかったことが原因となっている」
つまり、激しいスタートダッシュをかけて、Dynamicsのシェア拡大を進めるといった施策がとられてこなかったことが、ユーザーサイドの知名度不足の原因となっている。
ただし、これはマイクロソフト側の想定内の事態だという。
「これまでのマイクロソフト製品というと、IT Pro向けのサーバー製品か、Officeのようなデスクトップ製品のどちらか。しかし、Dynamicsはその中間ともいうべき製品。マイクロソフトにとっても初めて体験する顧客層に向けのもの。これまでは、どういう情報発信をするのが適切なのか、いろいろと試行錯誤してきた。ようやく、情報発信すべき方向性が明らかになってきたところだ」(新保部長)
大規模なものではなかったものの、これまで、さまざまな形のDynamicsを紹介するセミナーを実施してきた。その中では、「仕事をしている現場で、今、困っていることの解決につながるようなソリューションがDynamicsで実現できる、という視点で製品を紹介すると、大変よい反響を得られる」(同部長)という。
■ 日常使っているメールをより賢く利用することが可能に
これまでのマイクロソフトのセミナーといえば、IT Pro向けに製品に使われている技術を紹介するものや、一般ユーザー向けにOfficeなどのプロダクトを紹介するものが多かった。
それに対しDynamicsでは、もっと仕事よりの、問題解決のきっかけとなるような内容としている。
例えば、コンタクトセンターを運営しているユーザー向けにセミナーを行った場合、Dynamicsの機能を紹介するのではなく、最初にコンタクトセンターが抱える問題点から話を始めるのだという。
「現代は、新規顧客を獲得することよりも、既存の顧客のリピート率を高めることが重要だといわれている。ところが、実際にはそれがうまくいっていない。サービス活動、マーケティング活動、営業活動に携わるスタッフは別々の部門で仕事をしていて、自分の部門内の情報を共有するだけで精一杯。部門を超えた情報共有の必要性を感じてCRMソフトを導入しているものの、それでも情報共有がうまく進んでいない。それを指摘すると、来場者の多くから賛同を得られる」(新保部長)
これは大規模なCRMソフトに対して、1)現場のスタッフにとっては、管理されている感が強い、2)操作性に不満足、3)導入に際し、ばく大なカスタマイズコストをかけているため、バージョンアップ対応ができない、といった問題点があるため、出てくる不満だという。
「こうしたCRMソリューションの問題点に対し、携帯電話やメールなど日常的に利用しているツールを使って、自分の身の回りだけで情報共有をしている企業は案外多いのではないか」と新保部長は指摘する。
それに対しマイクロソフトのDynamicsは、CRMソリューションではあるものの、メールソフトであるOutlookやExcel、Wordといった、現場の人が日常的に利用しているツールを利用した情報共有ができることが強みとなる。
「表面的には日常的に利用しているツールを活用しているものの、そのバックグラウンドではDynamicsが動いていることで、通常のメールにはないシステマチックな情報共有を実現する。現場で仕事をしている人には、Dynamicsを利用していることを認識してもらわなくても構わない。マクロを使いまくるといった苦労なしに、メールをより賢く使えるソリューションを提供できる、という事実だけを認識してもらえばいい」(新保部長)
例えば、メールでキャンペーンの案内を送る際、顧客リストの中から最適な顧客を選び出すことや、送付するファイルに顧客の名前を明記するといったことは、WordやExcelを使っていれば十分に可能なことだ。
「ただし、そのためにマクロを使うなど、技が必要になっていた。その技なしでも、そういった作業ができるのがDynamics CRMの強み。つまり、日常業務を支援する機能が充実している。この点をもっとアピールしていきたい」と新保部長は強調する。
■ 「社員力を経営力に」というキャンペーンとも呼応
セミナーなどで、Dynamics CRMを使って現場社員の業務を支援できることを説明すると反響が高いという結果は、「当社がテレビコマーシャルを行っている、社員力強化キャンペーンと重なる」と新保部長は話す。
マイクロソフトでは、「People Ready Business 社員力を経営力に」というメッセージを、ワールドワイドキャンペーンのメッセージとして利用している。現場の社員のパワーを向上することで、企業全体の経営力もアップするというメッセージだ。マイクロソフトでは、Dynamics CRMをアピールする方向性として、現場支援型のソリューションであることを強く訴えていく計画だという。
「これまでMicrosoft OfficeやWindows製品は、個人の生産性をあげるツールとして最適だとアピールしてきた。サーバー製品は、バックエンドで会社の業務効率をアップする製品群になる。それに対しDynamics CRMは、個々の生産性をあげることと、会社全体の生産性をあげることの橋渡しをする製品群に位置付けられる。まさに、社員の力があがることで、経営力強化につながることを体現している」(新保部長)
■ URL
マイクロソフト株式会社
http://www.microsoft.com/japan/
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