マイクロストラテジー・ジャパンは、BI(Business Intelligence)の新製品として「MicroStrategy 8.1」の国内出荷を開始した。ダイナミック・エンタープライズ・ダッシュボード機能を追加。FlashやAjaxの技術を活用することで、インタラクティブなレポートを作成できるのが特徴だ。「日本市場においても、いよいよ離陸の準備が整った」と語る、米MicroStrategyアジアパシフィック&ジャパン プレジデントのテレンス・チャン氏に、同社が目指すエンタープライズBIについて、また、日本における取り組みについて聞いた。
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米MicroStrategyアジアパシフィック&ジャパン プレジデントのテレンス・チャン氏
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―BIに対する現在の需要動向をどう見ていますか。
チャン氏
BIは、決して新しいものではありませんし、多くの人が知っている。また、大手企業を中心に、多くの企業で導入されています。しかし、いまのBIには大きな問題点があります。それは、混乱した環境での使用を余儀なくされているという点です。企業には組織ごとにデータが存在しています。しかも、それらが相互に利用されている。営業部門は、製造部門のデータや物流部門のデータ、財務部門のデータなどを活用しながら、戦略を立案しますし、他の部門も同様に、複数の組織が持っているデータを活用して、状況を分析して、将来の予測を立てている。だが、ここで使用されているシステムは、ベンダーのパッケージによって構築されたものや、自社開発で構築されたものなど、さまざまなものが林立している。そして、BIも同様に、異なるものが導入されたり、横のつながりが分断されたものが多い。多くの企業は、なんらかの形でBIを導入してはいても、異なるBI同士の会話ができていないため、効果を最大限には発揮できていないというのが実態です。これは、日本の企業だけでなく、世界の企業で起こっている問題です。
一方、異なるシステムごとに運用、保守の人員を割いたり、データ集計やデータチェックのためだけに人材を割かなくてはならないという実態もある。私が知っているいくつかの企業では、10~50人の正社員を投じて、データの統合や集計、チェック、報告資料の作成を行っている。しかも、これが、日本の本社だけでなく、米国法人でも、中国法人でも同じように人を抱えている。あまりにも多くの人的投資をしなくてはならないという状況に置かれているのです。これは、10年前、15年前のERPと同じような状況だといえますね。
―10年前、15年前のERPとは。
チャン氏
振り返ってみてください。1993年頃の企業情報システムは、勘定系の基幹システムと、在庫管理、販売管理、物流システムなどが、すべてバラバラに構築されていました。しかし、いまはどうでしょうか。2007年の現時点を見ると、ERPとして、これがひとつのシステムとして統合されている。95~98年頃に、多くの企業が、分散したシステムから、統合したERPへと移行してきた。多くの企業が統合したERPの重要性を認識し、個別のシステムから統合システムへとリプレースしてきたのです。しかも、95年当時は、ERPは大企業にだけメリットがあるとされていたものが、2005年頃には、中堅、中小企業でもERPが活用されるようになっている。いま、BIは、ちょうど10年前のERPと同じ状況にあります。2、3年前から、一部の先進企業が、BIの標準化を進めようとしています。細分化したBIから、統一したBIへと移行しはじめる段階にあるのです。ここに対する回答が、当社が目指すエンタープライズBIなのです。
―MicroStrategyが目指すエンタープライズBIとはどんなものですか。
チャン氏
MicroStrategyが目指しているのは、高度な双方向性と拡張性を満たすことができるBIです。従来のBIは、分析機能は強いがレポーティング機能が劣る、あるいは、レポーティング機能は強いが分析機能は劣るというものが多かった。当社のBI製品であるMicroStrategyは、分析、OLAP、レポーティング、スコアカード&ダッシュボード、レポート&アラート通知という5つの機能を持ち、これらを、単一のソフト、単一のユーザーインターフェイス、単一のメタデータで処理ができる。さらに、Webブラウザをインターフェイスとして利用するため、共通利用ができる環境を容易に提供できる。これらの標準化された機能や環境によって、企業価値を高めることができるのです。これがエンタープライズBIの基本的な考え方です。
―エンタープライズBIのコンセプトを理解しているCIOはどの程度いますか。
チャン氏
まだ少ないのではないでしょうか。5%かもしれないし、10%かもしれない。もともとBIは、部門レベルで始まっている。そのため、全社規模でとらえるという段階に到達していない企業が多い。ただ、BIにおける課題は、多くのCIOが認識していると思っています。いくつかの企業は、BIの課題を解決するために、1~3年をかけて、エンタープライズBIへのシフトを開始している。ただ、ここではどうしても「痛み」を伴うことになります。
―痛みとはなんですか。
チャン氏
企業によって異なりますが、ある企業にとっては投資コストであり、別の企業にとっては、移行する期間ということになる。CIOは、エンタープライズBIに高い関心を寄せ、そのビジョンに対しては好意的です。ただ、その一方で、CIOは、その転換に、困難さを感じているのも事実です。投資する時間、資金に対して、ROIをきちっと持つことが難しいという壁に突き当たるからです。情報の質や、時間的メリット、安全性に対するROIを出しにくい。CレベルといわれるCEO、CFO、CTOといった経営トップがこれを理解し、痛みに対して、コミットしなくては実現は難しいといえます。
私は、日本の企業こそが、この移行をいち早く進めなくてはならないと判断しています。というのも、世界で最も多くのデータを所有しているのは日本の企業であり、それでいながら、その多くのデータが分断している。世界市場における競争力維持に弊害となっているのです。いまは一番難しい時期です。エンタープライズBIへの移行には、これまで投資したものの一部を捨てなくてはならないからです。ただ、ERPがその道を歩んだように、今後10年間で、個別のBIシステムはなくなり、ひとつの統一したBIが全社規模で導入されるようになる。統一環境における効果は、多くの企業がERPで経験済みであり、その効果を直感的に理解できるからです。
―どんなユーザーがMicroStrategyを導入していますか。
チャン氏
過去になんらかのBIを導入している経験があって、その経験から、改めてMicroStrategyを導入するという例が目立ちます。また、最近では、統合したデータウェアハウスの構築よりも、先にエンタープライズBIを導入するという例もある。データウェアハウスの導入は、どのような形でデータを格納するのかを設計する必要がある。どういったレベルで、詳細データを格納するのかを決める必要もあります。これらを決定するのは大変難しい。エンドユーザーがどの情報を必要としているのかを図り知ることが難しいからです。データウェアハウスを構築して、BIを導入しても、データウェアハウスにユーザーが見たい情報が入っていないという笑い話のような話も、実は頻繁に見られていることなんです。
―このほど投入したMicroStrategy 8.1は、企業にどんなインパクトをもたらしますか。
チャン氏
MicroStrategy 8.1は、大変、エキサイティングな製品だといえます。第3世代統合型BIと呼ばれる従来のMicroStrategy 8の機能を踏襲しながら、ダイナミック・エンタープライズ・ダッシュボード機能を追加しました。ここでは、FlashやAjaxの技術を標準機能として統合し、さらに生成された単一のメタデータを利用することから、リアルタイムで、視覚的に優れた表現での表示や変更が可能になる。導き出された情報を、直感的に確認することができるのです。しかも、それを必要に応じて、あらゆる角度から分析することができます。
―BIの使い方が変わるというわけですね。
チャン氏
シンプルな利用環境を提供できるMicroStrategy 8.1によって、最前線の社員が利用できるエンタープライズBIが実現することになります。また、私は、この製品をきっかけにして、レポートというものが徐々になくなるのではないかとも予測しています。百聞は一見にしかずと言いますが、「ピクチャー」は、CEOや取締役会だけでなく、現場の第一線の人たちも直感的に理解し、同時に情報を共有できる点に最大の価値がある。すへでの社員が活用できるBIこそが、エンタープライズBIなのです。
―MicroStrategy 8.1は、マイナーバージョンアップではありますが、利用環境としては、メジャーバージョンアップともいえる価値を提供できそうですね。
チャン氏
技術的な観点からいえば、BIとしてのアーキテクチャの変更はありませんから、マイナーバージョンアップです。しかし、利用の仕方という観点からは、非常に大きなインパクトを及ぼし、BIの利用環境に劇的な変化をもたらすことになります。
―日本の市場においては、まだエンタープライズBIの考え方が定着しているとはいえません。どんな仕掛けが必要でしょうか。
チャン氏
なんといっても、顧客の成功を通じて、人々にエンタープライズBIを理解してもらうということでしょうね。私の話だけだと、どうしても売り込もうとしているように聞こえるでしょうから(笑)。日本では、ユニクロなどを展開しているファーストリテイリングがMicroStrategyを活用し、大きな成果をあげています。この事例を聞くことで、当社が言っていることを信じていただけるでしょう。ぜひ、顧客の成功を、多くの方々に伝えていきたい。
そして、顧客の成功を実現するのは、パートナーとの緊密な関係ということになります。当社の戦略は、最初のステップが顧客に成功していただくということ、第2に、パートナー各社と強固な関係を構築すること、そして、第3に研究機関や大学、あるいはメディアなどを通じて、エンタープライズBIの良さを広げていくことです。かつてのERPも、IT業界関係者、大学、研究機関、企業のビジネスリーダー、そしてメディアが、その重要性を繰り返し伝え、伝導してきたことが大きく影響している。エンタープライズBIも同じです。シンガポールでは、すでにある大学と一緒になって、エンタープライズBIの効果を検証する動きが出ている。日本をはじめとするアジア太平洋地区において、こうした動きを増やしていきたい。
―日本法人の体制は十分だと考えていますか。
チャン氏
答えはノーです。決して、十分な体制だとは思っていません。いまは、ステップ1の段階です。マイクロストラテジーは、日本市場に対して強力にコミットしています。継続的に、新たなオフィス、新しい社員、新しいパートナーに投資をし続けていきます。昨年8月には、カントリーマネージャとして岡村崇が就任し、12月には本社を移転し、新たな体制で事業を開始した。この半年強で、チームを作り上げ、基礎を作り上げることができた。4月11日に行ったパフォーマンスレビューにも大変満足していますよ(笑)。
―日本の経営チームにはどんなことを期待していますか。
チャン氏
ひとつには、MicroStrategyの製品や、考え方を広く可視化することです。エンタープライズBIとはなにか、それはどんなメリットがあるのか、これをクリアな形で、しかも早急に、メッセージとして伝えていかなくてはならない。2つめには、日本におけるリファレンスとなる顧客を、早急に10社獲得すること。これらの企業の成功を広く、日本のユーザー企業に伝えていくことです。
そして、3番目には、グローバルSI企業にとどまらず、日本固有のシステムインテグレータとのパートナーシップを構築することです。これは、直接、顧客を成功に導くための手段にもなる。こうしたことを的確にやっていけば、日本法人の売り上げは増加していくはずです。
―日本での市場シェアターゲットはありますか。
チャン氏
企業ポリシーとして、具体的なシェアに言及することはできませんが、現時点における日本での市場シェアは非常に小さい。ただし、これからは、多くのマーケットシェアを競合から獲得できる自信がある。当社がどの程度のマーケットシェアをとれるのか、組織として成長できるのかといったことは、日本の顧客に、エンタープライズBIをどれだけ理解してもらえるのかにかかっています。日本におけるエンタープライズBIの市場ポテンシャルは大きい。今後3年の間に、売上高、マーケットシェアを劇的に拡大することができると信じています。MicroStrategyは、短期的な思考で事業を推進する企業ではありません。基礎づくりをしっかりして、そこから飛躍していきたい。
―基礎づくりは、いつまでに終わらせる予定ですか。
チャン氏
今年中には基礎づくりを終え、2008年からは第2章に入りたい。ここでは、多くの顧客を獲得し、成功を収めた事例がいくつも紹介できるようになるでしょう。また、さまざまな形でのパートナーとの関係構築が推進されることになる。成田空港の飛行機と同じで、いまは滑走路を走っているところ。ただ、この滑走路が長すぎた(笑)。いよいよ2008年に、離陸することができるようになる。離陸の時がやってきた。あとは信じるのみ。私のキーワードは、「Dear to Believe」。自分たちを信じ、夢を信じ、その成功を求めていきますよ。
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・ マイクロストラテジー、Flash技術を活用したBI新製品を日本初公開(2007/04/11)
■ URL
マイクロストラテジー・ジャパン株式会社
http://www.microstrategy.co.jp/
( 大河原 克行 )
2007/04/26 00:00
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