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クラスタストレージがメディア&エンターテインメント業界で評価される理由とは?-米Isilon


 米Isilon Systems(以下、Isilon)のクラスタストレージは、放送関係などのメディアやエンターテインメント業界から大きな関心が寄せられている製品の1つだ。同社は2001年に米シアトルに設立された若い企業だが、特徴的なクラスタ構造と、ストレージ管理を行うOS「OneFS」などで実現させた拡張性や性能の高さが評価され、昨年12月に新規上場したNASDAQでも、投資家たちからより強い信頼を得ているという。今回は、Isilonのグローバルセールスパートナー担当副社長、トム・ペティグルー氏に、同社のクラスタストレージに関する動向を聞いた。


革新的なクラスタ技術とOneFS

IsilonIQシリーズのクラスタストレージ

MigrationIQを利用すると、ポリシーベースでプライマリストレージからセカンダリストレージへ簡単にデータを移行できる
―Isilonのクラスタストレージ技術が評価される背景はどのようなものでしょうか?。

ペティグルー氏
 最近は、データベースや文章などの構造化データではなく、デジタルコンテンツなどの非構造化データが急増中で、これが全データの80%以上を占める企業もあるほどです。データ容量でいうと、デジタル写真データや音楽データなどのデジタルコンテンツはファイルあたり4~10MB、医療用画像などに至っては60GBにまで及びます。この傾向はさらに進み、従来のストレージ技術ではもはや対応できません。そこでIsilonでは、こうした動向をにらんでOneFSオペレーティング・システムを核としたクラスタストレージソリューションを投入しました。


―OneFSとはわかりやすくいうと、どのようなものですか。

ペティグルー氏
 OneFSは複数のストレージ筐体を単一ファイルシステムとして提供するためのOSであり、従来のストレージのRAID、ボリューム管理、ファイルシステムの3つの階層をシンプルに、1つにまとめる分散ファイルシステムがその中心技術となっています。

 OneFSの分散ファイルシステム技術は、次のような仕組みです。画像ファイルをストレージに書き込む場合、従来はアクセス先ディスクにファイルを配置しますが、これだとそのディスクが壊れるとデータまで壊れてしまうかもしれませんね。そこで当社では、まずクラスタ構成のストレージがデータを受け取ると、最適ノードを選んでデータを渡します。ノードは、データをジグソーパズルのピースのように細かく分割、各ノードにもそれらピースを書き込むのです。こうすることで、複数ノードが障害を起こしても各ノードに分散配置されたパリティにより復元ができるという仕組みです。


―Isilonのクラスタストレージには、主にどのような製品がありますか。

ペティグルー氏

 製品のシリーズ名はIsilonIQと呼びますが、これにはIsilonIQ 1920/IQ 3000/IQ 6000の3タイプがあります。各基本クラスタ構成は3ノードで、IQ 1920クラスタは5.76TB、IQ 3000クラスタは9TB、IQ 6000クラスタは18TBです。また単一ファイルシステムは最大96ノード、1PBまで拡張でき、スループットも10GB/秒まで可能で、クラスタ内部はInfiniBandを活用した高速な通信が可能になっています。中小規模ユーザーや企業のブランチオフィス向けにも、先頃IsilonIQ 200を投入しましたが、これは筐体あたり2TBとなっています。さらに最近では、クラスタ間でのデータ移行やデジタルワークフロー化が行えるアプリケーションソフトウェア「MigrationIQ」を投入するなど新製品開発も精力的に進めています。


メディア&エンターテインメント業界で導入が加速するクラスタストレージ

Isilonのグローバルセールスパートナー担当副社長、トム・ペティグルー氏

Isilonのクラスタストレージでは、制作、管理、配信、アーカイブといった4つの重要なワークフローを丸ごとカバーできるという
―今、クラスタストレージに関心が寄せられている最大の要因は何でしょう。

ペティグルー氏
 従来のストレージは、4~16TBまでといったように拡張時の制約がありました。たとえば100TBのデータを所有していたら、4TBのストレージでも25セット必要といった具合で、多くのストレージアイランドができてしまうのです。そのような多くのストレージ群において、あるデータにアクセスが集中するとI/Oも不足し、スループットも下がります。そうなると、データコピーを別のストレージ群に作成しなければならないでしょうね。あるいは、ストレージシステムそのものの全面的な構築し直しが必要かもしれません。企業負担は大変なものです。

 しかし当社製品の場合、単一ファイルシステムであり、6TBから1PBまで、すべて同じファイルシステムで拡張可能なのです。IsilonIQでは、クラスタをどんどん積み重ね拡張させていくにつれてインターフェイスが増え、よりスループットも向上しますし、1ノードを1分以内で追加できるなど、容易な拡張性もあります。こうした点が、すでに使用した多くのユーザーからの高い評価を得ているゆえんです。


―特にメディア&エンタープライズ業界での導入が活発化しているそうですね。

ペティグルー氏
 実はIsilonのクラスタストレージは、当初からメディア&エンターテインメント業界が得意分野でした。それこそ10年前は、テープやDVDなどが主流でありファイルも小さかったですね。しかしこの間技術革新に伴い、ファイルフォーマットやアクセスデバイスが大きく変容し、たとえば高品位TVを扱う機会も増えて、解像度が向上しています。こうしたことから、ファイルサイズは大きくなり、クラスタストレージのニーズが急速に高まってきました。今後4年間を予測してみても、データの総量が161エクサバイトから988エクサバイトまで増えるという見通しを示している調査会社があるくらいですから。

 これまで導入したユーザーの声では、たとえば現場で制作、管理、配信、アーカイブといった4つの重要なワークフローを簡素化できる点が評価されています。また、最小3台のクラスタ構成から導入でき、導入後も企業の成長度合にあわせて順次拡張していける点も好評です。こうしたメリットが評価され、最近では導入企業も急速に増えました。この半年をみただけでもユーザー数は倍増し、ワールドワイドで448社、日本と韓国だけでもその10~15%にまでになっています。


―メディア&エンターテインメント業界におけるホットなユーザー事例をご紹介ください。

ペティグルー氏
 たとえばNBC Universalでは、このほど当社と複数年契約しました。同社は、メディア&エンターテインメントの世界的な大手でもあり、2008年北京オリンピックの放送権を持つ企業なのですが、その放送インフラの一部として、当社のクラスタストレージが採用されたのです。この契約に基づき、同社の主要な制作・放送業務用に数PBの環境を構築する予定になっています。

 また日本ではなじみ深くないかもしれませんが、米国では衛星ラジオにも関心が集まっています。その中でXM Satellite Radioは、760万人以上の加入者を擁する衛星ラジオ局で、放送業務基盤を支えるプライマリストレージプラットフォームとしてクラスタストレージを採用しています。同局は170を超えるチャネルおよび各種オンラインショップを通じて、アーカイブをベースに配信ほかすべてのワークフローで当社製品を用いて放送業務を展開しています。

さらに世界でもナンバーワンといわれるDiscovery Communicationsでも、メディアコンテンツの中央リポジトリ格納用としてクラスタストレージを採用しました。同社は世界170カ国以上の国と地域に15億を超える加入者を擁し、100以上の番組ネットワークにコンテンツ配信を展開中です。


Web 2.0などでさらに進化するメディア&エンターテインメント業界

―Web 2.0に向けた導入も出始めていますよね

ペティグルー氏
 確かにWeb 2.0はトレンドですが、Isilonではこれを、リアルなインターネットビジネスに向けた改革といったような意味でとらえています。いま、こうした改革をめざすユーザがIsilonのクラスタストレージを導入し始めており、興味深い事例もいくつかあります。

 たとえば韓国のPandora TVは、ユーザー自らが制作したコンテンツを扱う企業で、数百TBのコンテンツデータをクラスタストレージでカバーしています。仏Dailymotionも、関連ビデオを共有する世界のトップ20に入るほど興味深いサイトに選ばれていまして、これも数百TBのビデオ共有データをクラスタストレージで取り扱っています。また最近注目されているバーチャルな世界「Second Life」を運用しているLinden Researchは、数年間にわたり数百TBのクラスタストレージを活用しています。写真やIPTVなどをストックするPhotoBoxのサイトでも数百TBのクラスタストレージが採用されています。

 これらの事例でも、スモールスタートができる柔軟性と、容易な拡張性が評価されています。


―Isilonの今後のフォーカスポイントは何でしょうか。

ペティグルー氏
 Isilonの市場戦略にはターゲットが7つあります。メディア&エンターテインメントをはじめ、Web 2.0、テレコム・キャリア、石油・ガス、官公庁・セキュリティ、製造業、ヘルスケア・ライフサイエンスなどですね。これらの分野に携わる人たちのクラスタストレージに対する関心はきわめて高いものがあります。これらの点にフォーカスし続けておくことが肝要でしょう。また、特定業界であるなしにかかわらず、たとえばレンダリングやシミュレーション、地理解析などの用途をはじめとするハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野では期待できるのではないでしょうか。

 また最近面白い現象があります。競合ベンダが当社のことを、いろんなところで引合いに出すケースが目立っているのです。実はこのことが、Isilonをご存じなかった人たちの関心を引くことにもつながり、認知度も向上しているようです。このほど新たに20社以上のパートナー契約も締結しましたので、今後ともさらにメディア&エンターテインメント業界や、ほかの業界に向けての戦略を強化していきます。



URL
  アイシロン・システムズ株式会社
  http://www.isilon.jp/

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( 真実井 宣崇 )
2007/05/25 00:00

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