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発注者ビュー検討会、顧客とSIベンダの対立なくすための仕様書ガイドライン

競合9社が手を取り合う“大きな一歩”

 実践的アプローチに基づく要求使用の発注者ビュー検討会(以下、発注者ビュー検討会)は9月18日、第1弾目となる共同検討成果を発表した。顧客に分かりやすい仕様記述および合意方法のガイドラインとして、外部設計の工程(非機能要件を除く)のうち、「画面設計」に関する「発注者ビューガイドライン(画面編)」の公開を開始する。

 発注者ビュー検討会は2006年4月12日に、株式会社NTTデータ、富士通株式会社、日本電気株式会社(以下、NEC)、株式会社日立製作所(以下、日立)、株式会社構造計画研究所、東芝ソリューション株式会社の6社で発足したもの。顧客(発注者)とSIベンダ(開発者)間でのコミュニケーションの円滑化を促進すべく、システム開発における仕様記述方法および合意方法を共同で検討し、ガイドライン化することを目的としている。今回、検討活動の第1段目の成果として、「画面設計」に関する「発注者ビューガイドライン(画面編)」を発表した。併せて、日本ユニシス株式会社、沖電気工業株式会社(以下、OKI)、TIS株式会社の3社が新たに同検討会への参入を発表。9社に強化された体制で、以後の検討活動を進めていく。


左から、NTTデータ、常務執行役員 技術開発本部長の山田伸一氏。富士通、生産革新本部 プロジェクト統括部長の藪田和夫氏。NEC、システム技術統括本部長の辻孝夫氏。日立、情報・流通グループ プロダクトマネジメント統括推進本部主任技師の宮崎肇之氏。構造計画研究所、執行役員 ソフト工学センター長の岩尾俊二氏 新規参入3社。左から、TIS、取締役 技術本部長の會田雄一氏。OKI、ユビキタスサービスプラットフォームカンパニープレジデントの平沼雄一郎氏。日本ユニシス、常務執行役員の稲泉成彦氏 発注者ビュー検討会の組織概要

NTTデータ、常務執行役員 技術開発本部長の山田伸一氏
 このような活動がなぜ必要とされているのか。NTTデータ、常務執行役員 技術開発本部長の山田伸一氏は、その理由として、現状の開発案件における問題点を説明。「プロジェクトにおいて最大の問題は、発注者と開発者間の認識の食い違い。例えば、同様のシステム・機能を開発する場合でも、これまでは各ベンダごとに異なる仕様書が作成され、そのため顧客からすると、仕様策定段階でどのような点に留意すべきか判断の難しい状況となっていた」。結果として、開発がスタートしてから両者間で意見が対立し、最悪、すべてを作り終えてから、また作り直しという事態も多々発生していたという。「そうした場合、経験上では、およそ300%のコスト増となってしまう」と日本ユニシス、常務執行役員の稲泉成彦氏は語る。

 こうした発注者側と開発者側の間での認識の食い違いをなくそうというのが、同検討会の活動目的というわけだ。具体的には、外部設計の工程(非機能要件を除く)のうち、「画面」「システム振る舞い」「データモデル」の3分野において、仕様の記述方法や合意方法をまとめたガイドラインの作成を進めている。同検討会の名称に「実践的アプローチに基づく」とあるように、各社が24もの事例をノウハウとして惜しみなく提供し合っているのが特筆点で、山田氏は「このことからも、従来の形だけのガイドラインとは一線を画していることがお分かりいただけるだろう」と述べている。

 今回はその第1弾目の成果として、画面設計に関するガイドラインを公開。3部構成となる同ガイドラインでは、第1部で、画面に関連する外部設計書の記述のコツを集約。第2部で、記述内容を確認する際に留意すべきチェックリストを網羅。第3部では、記述内容を発注者と開発者がレビューし、合意するためのコツが取りまとめられている。なお、東京証券取引所およびAGSが有効性の評価や改善点を指摘、ユーザーレビューを経た上で、完成を迎える運びとなったという。


検討の概要。今回は非機能要件を除いた外部設計の工程のうち、「画面」「システム振る舞い」「データモデル」の3分野を対象としている 発注者ビューガイドライン(画面編)の概要 今後の検討内容。9社がそれぞれのワーキンググループに分かれ検討するとともに、相互に情報共有することで、より実践的なアプローチをめざすとしている

9社メンバーが手を取り合っての撮影会
 今後は9社体制で、残りの「システム振る舞い」「データモデル」のガイドライン化に着手。2007年度中にはすべて出そろう予定としている。その時点をもって、同検討会は解散。その後の普及活動は、独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA SEC)や社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)などと連携して行っていく方針だ。「発注者ビュー検討会は解散となるが、検討メンバーはIPA SECなどの取り組みに参入して、今後も同活動を発展させていきたい」(山田氏)とのこと。

 なお、今回の画面編ガイドラインは発足メンバー6社のシステム開発標準に組み入れられることが決定している。普及活動という面においては、「各社がこのガイドラインにより実際に開発を行い、そして実績を出す、それが何よりの普及促進となるはずだ」(山田氏)とのこと。

 今回はまだ、外部設計の一部の工程のみのガイドライン化である。ほかにも運用やセキュリティなどの非機能要件など開発にはガイドラインが必要となるシーンが多い。また、本当の意味で発注者と開発者間の食い違いを擦り合わせようとするならば、当然、より上流の要件定義に関するガイドラインも必要となるであろう。今回の活動にはそうした点は一切含まれていないが、その必要性については、同検討会のメンバー一同も認識している。

 「そうした意味では、今回の成果はまだまだ小さな一歩だ。しかし、ここに並んでいる各社は、実際に案件を前にしてはそもそも競争相手。その各社が手を取り合って、それぞれのノウハウを惜しみなく提供しあっている。企業単位での利益を超越して、産業界全体の利益となるよう足並みをそろえられたことが、まずはどれほどの大きな一歩であるかをご認識いただきたい」(山田氏)。

 なお、検討活動の情報や画面編ガイドラインをはじめとした成果物、ならびにこれまでに行った各種イベントの講演資料などは、発注者ビュー検討会の公式Webサイトからダウンロードすることが可能。



URL
  発注者ビュー検討会の公式Webサイト
  http://www.nttdata.co.jp/cview/
  株式会社NTTデータ
  http://www.nttdata.co.jp/
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/
  日本電気株式会社
  http://www.nec.co.jp/
  株式会社日立製作所
  http://www.hitachi.co.jp/
  株式会社構造計画研究所
  http://www.kke.co.jp/
  東芝ソリューション株式会社
  http://www.toshiba-sol.co.jp/
  日本ユニシス株式会社
  http://www.unisys.co.jp/
  沖電気工業株式会社
  http://www.oki.com/jp/
  TIS株式会社
  http://www.tis.co.jp/
  ニュースリリース
  http://www.nttdata.co.jp/release/2007/091800.html


( 川島 弘之 )
2007/09/18 16:44

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