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顧客の声と多国籍ビジネスの実情に合わせたグローバル戦略-米AT&T

グローバルサービス部門のキーファー上級副社長に聞く

 米AT&Tは、その歴史をたどると、電話の発明者であるあのグラハム・ベルが1876年に設立した同社前身の会社にまでさかのぼれる、まさに米国通信業界の歴史そのものを感じさせる企業だ。そのAT&Tが今、大きな変ぼうを遂げようとしている。インドをはじめベトナム、中国、中東などのアジア地域を中核とした、壮大なグローバルネットワーク戦略を掲げて、さらに大きな一歩を踏みだそうとしているのだ。

 このほど来日した、グローバルサービス部門 エンタープライズビジネスセールス担当上級副社長、マーク・キーファー氏も、こうした戦略とその取り組みに向けては並々ならぬ意欲をみせている。その自信の裏にあるのが、「通信の歴史=AT&Tの歴史」に加えて「押しつけでなく、顧客が主張する多国籍戦略に耳を傾けた上でのソリューション提案」というスタンスだ。


グローバルネットワーク戦略は顧客の多国籍ビジネス展開で成り立つ

グローバルサービス部門 エンタープライズビジネスセールス担当上級副社長、マーク・キーファー氏
―このたびの来日の目的は何でしょう?

キーファー氏
 第1に、日本市場は米国に次ぐ第2位の大きな規模であり、AT&Tの今後のビジネス展開上極めて重要なので、近況を掌握しておかなければならないという点が挙げられます。第2は、日本の顧客がビジネス上抱える問題とその解決法を、直接お会いし追究していきたい点、また第3として、これは私自身にとりましても重要ですが、日本法人のスタッフたちと直接コミュニケーションを深めていきたい点、などがあげられます。


―最近AT&Tでは、インドやベトナム、中国、中東などグローバル事業に力点をおいていますが、その戦略にはどのような意図がありますか。

キーファー氏
 AT&Tはまさに今、大きな変ぼうを遂げています。2005年にSBC Communicationsに買収された後、同社の米国内資産をAT&Tのグローバルネットワーク内に取り込み、現在では世界137カ国でMPLSベースのIPサービスアクセスを提供可能となりました。このおかげで、MPLSサービスも世界第1位になり、グローバルネットワーク展開の環境は整ってきています。

 こうしたことを行う上で特にビジネス上重要なことは、顧客との直接的な話し合いです。つまり、顧客が今抱えている問題は(彼ら自身の)コンポーネントによるものなのか、あるいはアプリケーションによるものなのかなどを理解することが重要ですし、同時に多国籍企業でビジネス展開する顧客が最近顕著な中で、世界のどのような拠点を中核にビジネスしようとしているのかを、よく理解しなければなりません。したがって、グローバルネットワークといいましても、当社が(展開する)国を勝手に決めるのではなく、あくまでも顧客からの直接の声をよく把握した上で決める、という戦略なのです。


―最近発表されましたグローバルネットワーク投資プログラムによりますと、その投資額は実に7億5000万ドル以上におよんでいますね。

キーファー氏
 そうですね、グローバルネットワーク戦略では、アジア/太平洋、南米、ヨーロッパがターゲットですが、実は多くの顧客がアジア市場を拠点にビジネスでの成功を目指しています。しかしこのとき重要なのは、日本では日本の、米国では米国の方法が考えられますが、そうした個別の方法ではなく、どこの国でも適応しうるような観点でのソリューション作りをするということです。7億5000万ドルの内訳は、第1がケーブルやルータ、サーバーなどネットワークインフラ、第2がアプリケーション、第3がユビキタス能力を実現させるためのOSです。これら3つは顧客がいずれの国でビジネスしようとも適応させうるものだからです。


―顧客の声は具体的にどのようにして吸い上げるのですか?

キーファー氏
 営業部隊の各顧客担当者がテンプレートを所有しており、顧客との対話から現状や今後の戦略を理解し、それを埋めていく、という作業をします。また、サードパーティのリサーチ会社を通じて顧客とやりとりをするという手段があります。ですが、当社のビジネス上重要なことは、「顧客サイドでは、実質どれほどの金額を投入しようとしているのか」を把握しておかなければならないことなのです。実は、社内にはCIOも出席する諮問委員会的なものがあるのですが、そこで営業部隊による顧客情報を私自身が掌握し、該当する顧客にどう対応すべきかを指示して、販売戦略やソリューション/サービスのポートフォリオ策定や実施に生かしています。


―先頃、アジア太平洋地域諮問委員会(RAC:Regional Advisory Council)がインドで開催されましたね。

キーファー氏
 RACはリージョナルな諮問委員会で、年2回程度開催します。これは、AT&Tにとって最重要かつもっとも影響力ある大手顧客を招いて、連携の機会をディスカッションする場です。これがどこで開催されるかはビジネス上キーポイントですが、過去2回インドで開催しました。今年7月はニューデリーで開催しましたが、ここには(ランドール・スティーブンソン)CEOが就任後初の海外訪問として参加しています。


日本法人を改組、名実ともにAT&T全体の投資戦略の一部へ

―国内法人についてですが、2007年9月にAT&Tグローバル・サービスからAT&Tジャパンへ社名変更されました。その背景を教えてください。

キーファー氏
 これまで日本は、AT&T本体から見て、別組織によるオペレーションという位置付けでした。しかし日本は米国に次ぐ第2の重要な市場であり、ここでの多くの決定事項は、AT&T全体に大きく影響してきます。日本の社名変更は、今後のグローバルかつユビキタス実現を考えても重要という意味であり、この結果日本は、名実ともにAT&T全体の投資戦略の一部になったということです。


―多くの外資系ベンダでは、日本のユーザーは品質に厳しいと言っています。別の言い方では、日本で高い顧客満足度を達成できればワールドワイドでも通用するとさえ表現されますが、それについてはどう思われますか。

キーファー氏
 確かに日本の顧客の要求度は高いと思います。ネットワーク上でミッションクリティカルな要素も増大していますからね。従って、品質に対する要求はさらに加速していくと考えられます。しかしネットワークオペレーションという点では、AT&Tほどきちっとそれを実現させうる企業はほかにないと自負していますよ。中でもIP環境においてさまざまな局面で使われる、たとえばミリ秒レベルの管理は極めて重要ですね。この点も当社は競争上かなり有利ですし、顧客満足度も向上できるはずです。


―今後、日本での顧客の声は何を注意しながら吸収していきますか。

キーファー氏
 日本のAT&Tは非常にすばらしいチームです。今回の来日でますます実感いたしました。顧客に向けた対応は、製品ソリューションの話もさることながら、まずはビジネスのプロセスに関して話を進めてほしいと思います。たとえば、プロセスの状況や何を改善したいのか、などですね。それから製品自体のご紹介になりますが、これは1つ2つのサービスを提案するのではなく、複数を提案し、それらの中から最適なものをご選択いただく、ソリューションとして提供する形でなくてはいけない。このとき交渉には相手のCIOだけでなくCFOにも参加いただき、金銭的なものをふまえてご理解いただく、そうしたソリューションビジネスが大事です。今後は米国の場合もそうですが、SOX法をも視野に入れておくことになります。これはかなり大変なことではありますが。


グローバルなポートフォリオの充実がAT&Tの強み

―AT&Tの競合としてはどこが気になりますか。

キーファー氏
 ポートフォリオやグローバルな観点からは、やはりAT&Tがトップと自負しています。ただ地域的には米国ではVerizon、ヨーロッパではBT、アジア地域ではNTTでしょうか。それから、Googleも、今後の要注意企業の1つとしてマークしていますよ(笑)。


―AT&Tの強みは、AT&Tの歴史=通信の歴史にある、という点を感じますが。

キーファー氏
 確かにそれはありますね。私自身も25年AT&Tにいますし誇りもあります。当社のサービスや技術革新の歴史に支えられた上での顧客からの信頼感はあります。だから顧客と直接話ができますね。しかし、そこに甘んずることなく今後の戦略は推進していく必要があります。


―具体的な最近のソリューションにみるトピックスをご紹介ください。

キーファー氏
 いくつかの通信方式など技術的なソリューションはありますが、もっとも大切なのはセキュリティです。また顧客のネットワークの複雑化に伴い、機能やアプリケーションをどう管理していくかも重要です。そして従来のATMやフレームリレーなどの通信からIPへの急速な移行もあげられます。特に将来はIP上にビデオをのせることが本格化するでしょう。これを最善な形でどうデリバリするかキーポイントでしょうね。


―AT&Tは今後どこを注目してビジネス展開されますか。

キーファー氏
 第1に、顧客に対するコミットメント。それは当社の基盤でもあります。第2が技術に対するコミットメントでしょう。顧客ニーズを満たすための投資を絶えず行います。第3がワイヤレスで、特に3Gをインターナショナルに取り組んでいくことですね。これらのことが会社を有機的に成長させるためにも重要です。また、コンシューマ向けIPTVもこれから期待できる。AT&Tは今、買収による資産整備あるいは新しいビジネスの能力整備などを終えて体制が整い、今後さらに実践的なソリューションを顧客に届けなければならない、一番エキサイティングなステージにあります。期待してください。



URL
  AT&Tジャパン株式会社
  http://www.att.com/


( 真実井 宣崇 )
2007/09/28 00:04

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