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富士通、ソフト開発における「ものづくり革新」を説明-開発工業化への取り組みなど


経営執行役 生産革新本部長の宮田一雄氏

4つの革新の取り組み
 富士通株式会社は10月12日、ソフト開発における同社の「ものづくり革新」に関する記者向け説明会を開催。SEワークスタイル、設計、生産、保守の4つの革新のうち、設計・生産に関する取り組みについて説明した。

 登壇した経営執行役 生産革新本部長の宮田一雄氏はまず、「リスクマネジメントの効果で損失が削減され、プロジェクトマネジメントの効果で利益率も年々改善されている」と、同社SIビジネスの健全化の傾向を説明。一方でエンドユーザーは依然として、IT投資の効果に不満を持っている現状を指摘した。

 その原因は、システム構築における構造問題にあるという。「よくいわれることだが、システム構築には問題が多い。エンドユーザー側の問題としては、現行システム要件のブラックボックス化などにより、要件の確定ができず、先送りされてしまうケースがある。これが後々大きなコストを発生させる原因のとなる。また、もの作り側の問題としては、見積金額妥当性の不透明さ、開発マナーの悪さのほか、ノウハウが蓄積されない多重下請け構造が挙げられる」(同氏)。

 富士通では、こうした点を改善するため、TPS(トヨタ生産方式)などを参考にしながら、SEワークスタイル、設計、生産、保守の4分野で革新を進めている。今回説明されたのは、そのうち、設計・生産にかかわる取り組みだ。


 設計の改革では、設計品質の向上と第三者レビューの義務化が、取り組みの主な内容となる。富士通は一定規模以上のSI案件において、すでにエンドユーザーから上がってくる要件定義の監査と第三者レビューを義務化している。「足りないドキュメントはないか、その中に不備はないかといったことを評価して、問題があれば、エンドユーザーに提言を行う。要件が確定すると外部設計書を作成するのだが、今度はそれを外部設計診断サービスなどに回して、徹底的に問題点を洗い出す。これにより、設計段階で当社とお客様との間で相互合意を得ることができるため、双方にとって大きなメリットを生み出せる」(同氏)という。

 また、IPA-SECが要件定義よりも上流の「超上流プロセス」を定義しているが、このプロセスを支援するための「ビジネスアーキテクト」と呼ぶ人材の育成も進めている。「システム要件定義が、どのように開発するかの“How”であるならば、超上流プロセスは何をつくるべきなのかを見定める“What”の領域。ここを支援するためには、エンドユーザーのニーズを抽出・分析して、本質をとらえた業務要件を定義できる人材が必要となる。そのため2006年から社内育成を進めており、3年間で300名まで増やす予定」(同氏)という。

 こうした取り組みで、エンドユーザーの要件定義を手伝って、膨大な無駄コストを発生させる要件確定の先送りを防止しようというわけだ。


要件定義の内部監査事例。集合チェックでドキュメントの有無を、整合チェックで不足点の洗い出しを行う IPA-SECが定義する超上流プロセス。ユーザーの責任となる領域だが、富士通では支援の人材育成を進めている

FAP、代表取締役社長の渡辺純氏
 一方、生産の革新では、本来、エンドユーザーごとに注文生産となる「業務仕様」層の開発を“工業化”するのが目的となる。ごの具体的な内容としては、富士通アプリケーションズ(以下、FAP)の取り組みが紹介された。FAPでは、「属人的(職人的)な開発スタイルから、製造プロセス重視の開発スタイルへ」のスローガンの下、空洞化したソフト開発技術の再構築が進められている。

 そのための仕掛けが、「システム規模計測」「製造プロセスの定義」「標準時間の設定」「仕事票による実績把握」「リアルタイムの作業実態把握」などだ。

 システム規模の計測では、画面から規模を測定するファンクションスケール(FS)方を全面採用。開発する画面数などからリスクを判定し、工程内の規模変動を早期に発見することが可能になるという。

 製造プロセスの定義では、開発全体を詳細に分割。1つのプロセスを最小6分単位とし、SEにはプロセス単位で担当の割り振りを行う。さらに標準時間の設定で、従来の人月単位ではなく、FS規模をもとに分単位で工数を算出、さらに要因のスキルレベルなども反映させた標準時間を設定することで、「各SEが無理なく作業できるような体制を整える」(FAP、代表取締役社長の渡辺純氏)。分単位で計算することで原価も明確になるという。

 さらに仕事票による実績把握では、各要員の実施作業ごとに実績時間を毎日記録。それらを集約してリアルタイムに可視化することで、スケジュールの管理や対策立案の精度を向上させている。


 こうした施策で、エンドユーザーのニーズを正確に要件に盛り込み、工業化による徹底したコストダウンと品質の確保を図り、コスト削減だけでなくエンドユーザーにとっても最適な開発モデルを作り出そうというのが、富士通の「ものづくり革新」である。

 「当社には“夢をかたちに”というスローガンがあるが、ソフトはハードウェアと違って、そのままかたちにできないことが多い。そこで間に言葉を加えて、“夢をことばに、ことばをかたちに”という姿勢でこの革新を進めている」(宮田氏)。


FAPにおける生産方式 ものづくり革新でめざす開発モデル。設計の革新で上流先送りの無駄コストを省き、生産の革新で開発の工業化をめざす


URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/


( 川島 弘之 )
2007/10/12 17:52

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