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日本IBM、東京基礎研究所の最新研究技術を公開

ミリ波無線伝送、MDSE、テキストマイニングなどを紹介

TRLの丸山宏所長
 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は10月26日、「東京基礎研究所(以下、TRL)」の最新研究活動について説明するプレス向けセミナーを開催した。TRLは、米IBMが世界8カ所に展開する基礎研究所の拠点の1つで、日本IBM開発製造部門に属する施設。またセミナー後には、TRLが現在研究開発を進めている各種最新テクノロジーを紹介する展示/デモも行われた。

 具体的な研究活動の説明に先立ち、TRLの丸山宏所長は、「基礎研究部門の役割は、イノベーションの変遷とともに、年代を追って進化してきた。1970年代はニーズ先行、1980年代はニーズの発見、1990年代は市場での検証と学習、そして2000年代は市場の創造がその役割であり、パートナーとともにビジネス価値を生み出すための研究に取り組んでいる。こうした変遷の中、TRLは1982年に設立し、今年で25周年を迎える。その研究分野は、ハードウェアからソフトウェア、サービスまで多岐にわたり、25年間の中で、さまざまなイノベーションを生み出してきた。今回のセミナーでは、TRLが今どんな研究を進めているのか、注目の最新テクノロジーをピックアップして紹介したい」と述べた。


基礎研究部門の役割の変遷 TRLの研究開発環境

60GHz帯ミリ波を用いた超高速無線電送の概要
 セミナーで紹介されたテクノロジーは「60GHz帯ミリ波電送システム」「モデル駆動型システムズ・エンジニアリング(MDSE)」「テキストマイニング」の3つ。

 60GHz帯ミリ波電送システムは、60GHz帯ミリ波を用いた超高速無線電送技術で、米IBMのワトソン研究所と共同で研究開発を行っているもの。逼迫(ひっぱく)する周波数資源の拡大、1Gbpsを超える電送速度の実現、免許不要での製品開発・商品化による商業価値の高さなど、次世代高速無線技術として今後の進展に大きな期待が寄せられている。

 丸山所長は、「この技術は将来的に応用の幅も広く、非圧縮HDTVストリーミング、高速ファイル電送、ゲームコンソール、高速ユビキタスネットワークなどが想定される。現在、IEEE 802.15.c ミリ波WPANでの標準化が進められており、TRLも標準化への取り組みに大きく貢献している。実際に、TRLのもつ高速デジタルベースバンド信号処理技術と、ワトソン研究所のシリコンベースの高周波RF回路技術を組み合わせ、2GbpsでのHDTV非圧縮リアルタイム無線電送のシステム実証に成功している」と説明した。

 MDSEは、製造業の製品開発において、試作品などを作らずに、要求を、モデルを用いて分析・整理・検証することで、要求を満足し、迅速に品質の高い設計を実現する手段。TRLでは、社内の多くの部門および顧客と協力しながら、車、飛行機、家電などのシステム開発を効率化するための研究を、SysML/UMLというモデリング言語をベースに行い、「動く仕様書」を実現するために方法論とツール群を開発しているという。今回は、CADシステムからSysMLで記述された制約を満たしているかどうかを検証するツールと、UML図で記述されたシステムの機能と性能を解析・検証するツールの2つが紹介された。


TRLにおけるテキストマイニング技術の概要
 最後のテキストマイニングについては、「TRLは、自然言語処理の分野において、日本語入力手法をはじめ機械翻訳、情報検索など、25年間にわたり数々の世界水準の研究成果を上げてきた。テキストマイニングは、こうして蓄積してきた自然言語処理技術とマーケットインサイトが融合して誕生したもので、これによって膨大なテキスト情報の処理が可能となる」(丸山所長)とした。

 セミナー内では、実際にTRLで研究開発しているテキストマイニング「TAKMI」の技術を用いて、国土交通省などで公開されている自動車に関する不具合事例の情報から、50万件以上の英文データと2万件弱の日本語データを網羅的に分析し、集積された不具合事例の情報が車両不具合の早期発見や事故防止につながることを紹介するデモが行われた。

 なお、セミナー終了後に行われた最新テクノロジーの展示/デモでは、セミナー内で説明された3つのテクノロジーのほか、IT産業を支える技術として「3次元集積技術」「光インターコネクト技術」、情報アクセスやIT機器操作を容易にする技術として「リッチインターネットアプリケーションのためのアクセシビリティ技術」「字幕編集システム」「人の話し方を再現するテキスト音声合成技術」「不可視バーコード技術」、顧客のビジネスを革新する技術として「コンテンツ内容に応じた広告選択技術」「ISM(In-Store Marketing)のための店舗内動線分析技術」が紹介された。


3次元集積技術の概要

技術展示/デモ会場の様子

字幕編集システムによる字幕と音声の安全化
 各技術の展示/デモ内容は以下の通り。

 3次元集積技術は、厚さがわずか70μmの半導体チップを多層積層(3次元化)し、垂直方向の配線を行うことで、配線を短くする技術。これにより、パッケージ内における信号の遅延を減少させるとともに、配線による抵抗を抑え消費電力を低くすることができる。さらに、微細技術だけに頼らずに、高い性能を実現しながら、全体的なチップパッケージ面積を小さくすることが可能となるという。

 光インターコネクト技術では、サーバーの高性能化を目指し、従来の電気伝送では難しい高速かつ高配線密度のデータ伝送を、光ファイバーや光導波路によって実現する技術が紹介された。

 リッチインターネットアプリケーションのためのアクセシビリティ技術は、世界中のすべての情報をどんな人にもアクセス可能にすることを目指し、開発者や文書製作者のためのアクセシビリティ評価ツールや、障害者ユーザーのための支援ソフトウェアなどの提供実現に向けて研究開発が進められている。今回の展示では、動画やFlashなどのマルチメディアコンテンツを利用したリッチインターネットアプリケーションを、アクセシブルかつ使いやすいものにするための取り組みが紹介された。

 字幕編集システムは、初心者でも字幕を生成できるよう、音声認識の出力結果(テキスト)を簡単に編集できる環境を提供するもの。デモでは、新機能として、字幕の中から機密情報にあたる部分を消去すると、対応する音声データも自動的にスキップまたは無音に加工され、PowerPointのスライドショーでも消去が同期される機能を説明していた。

 人の話し方を再現するテキスト音声合成技術は、ある人の話し方を収集するだけで、あたかも本当にその人が話しているかのような合成音声を自動的に再現できるというもの。この研究では、声音だけでなく、その人特有のアクセントや言い回しの癖までも含めた話者性の再現を目指しており、デモでは、そのために必要な話し方のアクセントの自動認識や、アクセントの言い回しの統計モデルを紹介した。

 不可視バーコード技術では、不可視インクを用いて新聞などの記事に2次元バーコードを重畳して印刷して、ブラックライトで発光、撮影し、画像処理を行い、そこに含まれる情報を抽出する技術とその応用例を紹介した。

 コンテンツ内容に応じた広告選択技術は、テキストマイニング技術、評判分析のアプローチをベースとして、ブログや記事などのコンテンツ内容の意味理解に基づき、読み手にとって違和感の少ない広告の選択を実現するもの。

 ISM(In-Store Marketing)のための店舗内動線分析技術では、店舗内顧客動線の分析とそのISMへの応用を目的としたTRLとIBCSの共同プロジェクトを紹介。ショッピングカートに取り付けたRFIDにより、顧客の動線情報を計測・蓄積し、それらをPOS情報や棚割り情報などと統合的に分析・可視化することによって、従来のPOS分析などでは得られないカスタマー・インサイトを獲得することができ、新たな店舗運営課題の発掘やISM施策につなげていくことができるという。



URL
  日本アイ・ビー・エム株式会社
  http://www.ibm.com/jp/


( 唐沢 正和 )
2007/10/26 17:34

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