Enterprise Watch
最新ニュース

低迷期を越えて、ASPは社会経済に不可欠なサービスインフラへ-ASPIC Japan

ASP・SaaS普及活動の軌跡を説明

ASPIC Japanの河合輝欣会長
 特定非営利活動法人 ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン(以下、ASPIC Japan)は11月22日、ASP市場の現況や普及に向けた活動状況に関する記者説明会を開催した。

 ASPIC Japanは、ASP・SaaSの普及をめざし1999年に設立された団体。「当時は、ISPの次はASPといわれながらも、普及度は低くなかなか浸透させるのも容易ではない時代だった。その後すぐにITバブルも崩壊し、ASP・SaaS市場としては低迷を余儀なくされていた」と河合輝欣会長は当時を振り返る。

 それでも同団体では、2000年に欧米のASP関係者を集い東京にて「世界ASP会議」を開催したり、2003年に総務省からの依頼で「公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン」を作成したり、2002年からは全国の電子自治体計画で幅広く受託事業を開始したりするなど、主に公共を対象に活動を続けてきた。

 そして2007年、IT業界ではASP・SaaS市場が驚くほどの急成長を遂げた。河合会長によれば、「e-Japan戦略を背景に、ASPは社会経済に不可欠なサービスインフラへと変容しており、ASP事業者は1000社以上に拡大、その7割以上がASPを事業の中心に据える戦略を見せはじめている。ASP関連市場の規模を見ても、今後年率30%程度の成長を続け、2010年には1.5兆円強に拡大する見込み」という。

 実際、2007年に入り、政府が頻繁に“ASP・SaaS”という言葉を使い始めている。例えば、総務大臣が主体の「ICT改革促進プログラム」には、「ASP・SaaS等の新たなネットワークサービスの普及促進のための環境整備などICT共通基盤の整備に取り組む」とあり、安倍晋三前首相が打ち出した「経済財政改革の基本方針2007~『美しい国』へのシナリオ~」の中にも、ASP・SaaSに関する内容が含まれていたというのだ。

 また、4月27日にはASP・SaaSの普及促進策に関する調査研究をまとめた報告書が作成されるとともに、総務省とASPIC Japanとの合同で「ASP・SaaS普及促進協議会」という具体的な組織が設立されるにまで至っている。


 そうした中、2006年までは主に公共を対象に活動を続けてきたASPIC Japanが、現在そして今後注力していくのが、中小企業に向けた支援活動である。河合会長によれば、実際、中小企業の中には、これからASP・SaaS事業に乗り出そうと検討しているところがたくさんあるという。

 「今後はASP自体も“実現形態”と“サービス内容”の2つの側面から多様化が進んでいく。例えば、ユーザーそれぞれに最適化してサービス提供するカスタマイズ型、ユーザー側にサーバー機器を設置する顧客オンサイト型など、すでに新しい実現形態が現れ利用が開始されている。さらに将来的には、Webサービスをベースに細かい機能単位で複数の事業者がサービスを提供する統合・連携型も予想される。そうなれば中小企業にとってASPが事業の柱となっていくだろう」(河合会長)。

 ASPIC Japanでは、これからASP事業に進出するこうした中小企業を支援するため、ASPプラットフォーム導入のための実用的な手引書作成をめざす「プラットフォーム研究会」を結成し、2008年2月をめどに「ASP・SaaS構築ガイド」を作成するほか、全国で構築セミナーも開始する予定。

 また、総務省と共同で運営するASP・SaaS普及促進協議会では、「安全・信頼性委員会」「ASP連携委員会」「企業ディレクトリ委員会」「国際連携委員会」の下、4つのワーキンググループを組成し、ASPの現状の課題を解決していくという。

 ASP・SaaS普及促進策に関する調査研究からは課題として、アフターサービスの不足や、ASP事業者とユーザー間での共通認識の欠落などが浮き彫りとなっている。中小企業のASP事業発展のためにも、ユーザー視点でASPの課題に取り組んでいく必要がある。ASP・SaaS普及促進協議会で行おうとしているのは、まさにこのユーザー視点に立っての施策となる。

 具体的には「ASPサービスの安全・信頼性指針の策定と事業者認定制度の確立をめざす」(河合会長)という。ASPではサービスの内容が明確で使いやすく、高いセキュリティが確保されていなければならない。ユーザーがASPを利用するにあたって、こうした不安を少しでも解消するために、指針を策定した上で、十分なレベルのサービス提供ができている事業者には、総務省のお墨付きを与えるというわけだ。この件に関しては、そう遅くならないうちに総務省より正式な発表が行われるはずとしている。

 そのほか、多様なASP・SaaSの相互活用を可能にするため、インターフェイスの公開・標準化の促進を図るとともに、ASP事業者・ユーザー双方の企業情報データベースなどの在り方を検討し、またアジアをはじめとした諸外国との連携を推進していく方針という。

 「韓国とはすでに政府を交えた東京会合も実現している。韓国ではすでにASP・SaaS事業者の認定制度が確立しており、日本よりも先んじている状況。こうした連携が、今後の日本のASP・SaaS事業発展に大きく貢献することになる」(河合会長)とのことだ。



URL
  ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン
  http://www.aspicjapan.org/


( 川島 弘之 )
2007/11/22 16:03

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.