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富士通ITプロダクツ
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高田正憲社長
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石川県の中央部分に位置するかほく市にある富士通ITプロダクツは、2004年、富士通が55%、PFUが45%出資し誕生したハイエンドサーバー、小型サーバー、大規模ストレージ装置、各種プリント板ユニットの生産拠点である。
かほく市には、スキャナや小型サーバー、小型ストレージ装置、プリンタなどを生産するPFUの工場が存在していた。この工場に、富士通長野工場で生産していた大型ストレージ装置、富士通沼津工場で生産していた大型サーバー、富士通熊谷工場で生産していたプリント板ユニットの生産を集約。国内におけるサーバー、ストレージ装置の生産拠点となっている。
現在、富士通では、グループ全体でトヨタ自動車の生産方式を取り入れた生産革新を進めている。
富士通ITプロダクツの高田正憲社長によれば、「当社では2004年4月からコンサルタントが入り、全体最適実現を進めている。以前はトラブルがあれば、それは現場担当者に問題があるという観点でいた。現在は現場でトラブルが起こるのは、そういう現場にしている管理者の責任と考えるようになった。現場での問題を排除するため、仕事の標準化をはかっている」という。
しかし、ハイエンドサーバーの生産は、普及品生産とは異なり、現場担当者には高いスキルが必要となる場面も多い。少量他品種生産を行うサーバー工場において、富士通ITプロダクツではどのような生産革新を実現しようとしているのか。
■ チップから製品まで一気通貫のサーバー生産体制
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奥のガラスドア向こうにあるのが、LSIパッケージの生産ライン。防塵、静電気対策が必要なため今回の工場見学では内部公開していない
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富士通ITプロダクツは、世界的に見ても珍しいCPU生産からサーバー本体まで一貫した生産体制をもつサーバー工場だ。ご存知の通り、サーバー用CPUは、この10年でベンダーの集約が進んだ。そのため、CPU生産は外部で行っているケースが圧倒的に多いわけだが、富士通はサン・マイクロシステムズのSPARCチップの生産を行っているため、この工場ではCPUから完成品まで一気通貫のサーバー生産体制を持っている。
5階にあるCPU生産工程は、品質を保持する目的もあり、公開されていない。静電気とホコリを排除したクリーンルームの中で生産が行われている。
現在生産されるSCM(Single Chip Module)は59種類で、月産1万5000枚、MCM(Multi Chip Module)は6種類で月産100枚。SCMとMCMの数の種類と、数に大きな違いがあるが、これは最近のCPUが高密度化しているためだ。
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サンプル用チップ。これは富士通の三島工場で製造された半導体ウエハを、適切な大きさにカットし、回路基盤をプリントしたもの
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チップに埋め込む通電用ボール
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ボールを埋め込んだ後のサンプル用チップ
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製造したLSIに異常がないかレーザーを使いゆがみの有無などをチェック後、問題がありそうなものについては、最終的には人間が拡大カメラを使い、目視で確認する
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■ 他品種少量生産でのトラブル防ぐためICチップを活用
サーバーなどに搭載するプリント板ユニットは、最小のものは50mm×50mmだが最大のものになると460mm×568mmになる。
同社の高田正憲社長によれば、「携帯電話やパソコンのようにサイズが小さいプリント板であれば、SMT(Surface Mount Technology)ラインを利用し、部品のすべてを機械で実装できる。ところが大型サーバー用プリント板ユニットとなると、サイズが大きいためSMTでは実装ができず、どうしても人の手による実装が欠かせない」という。
しかも、この工場で生産するプリント板ユニットは、最大44層/1300種類に及び、月産でいえば8万枚に及ぶ。他品種少量生産の工場ならではの、生産するプリント板の種類の多さだ。
プリント板の種類が違えば、サイズも、載せる素子もそれぞれ異なってくる。生産するプリント板の種類を変更する場合、「段取り替え」と呼ばれる生産体制の変更を行う必要がある。この段取り替えは、従来の生産体制では最も時間がかかる部分であった。生産革新によって、段取り替えにかかる時間を短縮する努力が進められた。
ただし、段取り替えにかかる時間の短縮が実現したとしても、正しい素子をきちんと所定の場所に載せなければ意味はない。そこで以前は、指示票を担当者が読み上げ、部品をひとつ、ひとつ確認する作業が行われていた。しかし、それではどうしても時間がかかってしまう。そこで現在では各ICチップを利用することで、正しく段取り替えが行われているのかチェックする体制を作っている。
さらに生産したプリント板については、テストによって異常がないのかを確認する作業が行われる。この工場では、生産している機器が企業の心臓部を担うサーバーやストレージであり、生産と同様に完成した製品のテストに大きな力が注がれている。プリント板については、1種類の機械ですべてのプリント板テストが行えるよう、インターフェイスボードだけを取り替えて検査を行っている。
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プリント基板製造ユニット
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工場自作のICチップ読み取り装置
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大型サーバーの生産工場は、多品種少量生産となる。間違いが起こらないようプリント基板にICチップをつけて、誤った部品を搭載しない仕組みを作っている
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SMTライン
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■ テストが徹底される大型ストレージ装置製造
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小型サーバー製造ライン
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同じサーバーの製造ラインといっても、小型UNIXサーバーの製造ラインと、大型サーバーの製造ラインはまったく雰囲気が異なる。
小型サーバーはパソコンの生産ライン同様、流れ作業で生産が進む印象がある。それに対し大型機は1人の担当者が1日、1台を生産する。意外だが、流れ作業で進む小型サーバーの生産よりも、1人で一台の生産を担当する大型サーバーの方が、作業が遅れがちなのだという。理由は明確で、「1人で作業を行うと、遅れが起こっていることを自覚しにくいため」だそうだ。
そこで現在では大型サーバーもライン生産ができないか、検討中だそうだ。大型サーバーは16CPUを搭載など、ライン化が難しい大型サイズであるためライン化はできないとされている。このように大型サイズの製品の生産をいかにライン化していくのかは、今後の生産革新における課題のひとつであるという。
同じ大型製品といっても、ストレージ装置の場合にはリードタイムのほとんどが試験に費やされる。これは、記憶装置は顧客のデータを記録するため、製品不良によってデータ破壊といった事態が起これば、メーカーとして責任が重いと考えられているためだ。
大型のRAIDとなると、内部には2000個のストレージが収まっているものもある。それだけ多数のストレージすべてが異常なくデータを記録することができるよう、テストが続けられている。
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大型ストレージ製造ライン
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実装前のストレージ
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実装前のストレージを置く台は、静電気、衝撃を受けないよう手製のものを利用している
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富士通シーメンスのロゴが入った大型サーバー
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大型サーバーを製造するフロアはエージングテスト等のために、床を底上げして吸排気ができる仕様となっている
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サン・マイクロシステムズのロゴが入った大型サーバー。この工場はサン製品の製造も行っている
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製造中の大型サーバー
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■ トヨタ方式で製造工程を徹底管理
生産革新以前に、富士通ITプロダクツの場合、それまで別々の工場で行っていた製品を一カ所で生産するというだけで、「それぞれの工場同士で相違点も多く、当初は戸惑いもあった」と富士通ITプロダクツの高田社長は振り返る。
ただし、生産革新というのは、「われわれが指導を受けている生産革新は、当たり前のことを当たり前にやるというのが基本。長年、作業を行っていく過程で当たり前のことが当たり前にできないよう、自分達で自分達の習慣を変えてしまっている。これを元に戻す作業でもある」というように、特別なことではない。
例えば工場のあちこちには、それぞれの作業の工程表が貼られている。工程表は文字通り、作業工程をフローチャート化したものだ。この工程表は写真撮影不可ということであったが、パソコンではなく、手書きで工程表を書くというのが生産改革の第一歩であった。
「実は最初は幹部社員が工程表を書くことになったのだが、当初6カ月くらいは工程表がうまく書けなかった」という。
なぜ、工程表を書くことができないのか。それは幹部社員といえども、行程を正確に把握していなかったためだ。「わかっているつもり」ではいるものの、いざ工程表を作ろうとすると実際にはわかっていなかった箇所があちこちあることに気がつく。
現在、工場の壁に貼られている工程表は、現場リーダーが書いている。パソコンではなく手書きにしているのは、「パソコンを使うと、ついついコピー機能を使うので、誤った工程表となる確率が高いため」だそうだ。が、おそらく現場をよく見て、工程表を把握するためには、自分の手で書いていった方が、正確に行程を把握できるという狙いもあるのではないか。
工場の隅には、貼り終えた工程表が置かれていたが、その量の多さが、行程の見直しが頻繁に行われていることを伝える。
工程表に代表されるように、工場内のあらゆる作業は、「見える化」していくことで、トラブルがどんな状況で起こったのか正確に把握し、それを改善していこうとする意思を感じさせる。
ラインの周囲に「あんどん」と呼ばれるランプが置かれているが、これは生産において何らかの異常が起こった際、ハードウェア、もしくは人の手でランプを点け、異常を知らせることを目的としている。
「しかし、4年前にあんどんを導入した当初は、ほとんどランプが点くことがなかった。それは問題が起こったとしてもそれはあくまでの現場の責任としていたことが原因だった。現場のトラブルは、管理側の責任としたことで状況は大きく変わり、どんどんあんどんにランプが点るようになった」と高田社長は振り返る。
このあんどんに代表されるように、「問題の責任は現場ではなく管理側」としたことで、現場からも積極的に改善提案があがってくるようになった。
例えば、トヨタ生産方式の象徴ともいえる、「カンバン方式」。欠品している部品などの情報伝達に、「かんばん」と呼ばれるプレートを使うことで、情報伝達に属人性をなくしていく仕組みである。
この仕組みは、富士通ITプロダクツにも導入されている。実際に現在でもかんばんを利用し、欠品している部材などを伝達している部分もある。
だが、最近では、かんばんの代わりにピンポン球が利用されている。ピンポン球は工場内に設けられたエアシュートを通して移動させることができるので、人間の手で移動させるしかないかんばんよりも、早いスピードで移動し、かんばん移動に関わっていた人の作業負担を減らすことに成功した。
ピンポン球利用は、現場からあがった提案によって実現した。現在では、ピンポン球にラベルを貼り付けて足りない部品を伝達したり、用途によってピンポン球の色を変えるなどのバリエーションが生まれている。
現場からの改善提案が行いやすいよう、手書きの提案シートが工場内に置かれ、提案を行った人、それを受け実際に改善を行った人にはポイントが付加され、ポイントに応じてインセンティブが提供される仕組みもできあがっている。提案数は多く、社員一人あたり30件近い提案数が寄せられているという。
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「あんどん」と呼ばれる異常を感知するライト
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利用が終わった工程表がまとめられて置かれている
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トヨタ自動車の工場改革といえば必ず登場する、「かんばん方式」のかんばん
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かんばんの代わりに使われているピンポン球
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ピンポン球を送るエアを使った装置
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回収用に置かれているピンポン球
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こうした作業工程の見える化を進めていくことで、作業のすべてを標準化するというのが高田社長のビジョンだ。
しかし、富士通ITプロダクツでは、LSIや大型サーバーなどスキルがなければ生産が難しいものを作っているのも事実である。高田社長は、高スキルと標準化という相反する要素をどう両立させていこうとしているのか。
「確かに大きなLSIの取り付け、取り外しなど特別な技術がいる作業があることも事実。だが、ラインを作ることができる作業とは、標準化できるものだと考えている。その視点で考えていくと、ほぼ100%の作業の標準化はできるのではないか。なんとか、我々管理者側がスキルなしでも、生産ができるよう改善を進めていくべきではないか」
実は富士通ITプロダクツでは、工場の生産現場だけでなく、間接業務部門でも作業標準化を進めていこうとしている。
作業の標準化を進めながら、高品質の結果を出す―これはこの工場に限らず、すべての働く人が課題として取り組むべき問題といえるのかもしれない。
■ URL
株式会社富士通ITプロダクツ
http://jp.fujitsu.com/group/fjit/
( 三浦 優子 )
2008/03/11 09:10
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