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JUAS、企業IT動向調査を発表-2007年は最も積極的なIT投資の年に

Vista導入企業は14%にとどまる

 社団法人日本情報システム・ユーザー協会(略称:JUAS)は4月14日、「企業IT動向調査2008」を発表した。

 これによると、2007年度のIT予算額(保守運用費+新規投資)を増加させた企業が、過半数の61%に達したほか、2008年度も投資額を増加させるとした企業の数が、減少させるとした企業の数を上回り、2006年度から2008年度にかけて、3年連続でIT投資が増加傾向にあることがわかった。

 同調査は、過去13年間にわたって、同協会が実施しているもので、企業のIT部門、社内IT利用部門を対象に、アンケート調査およびインタビュー調査を行い、企業におけるIT投資、IT利用の現状と経年変化を明らかにするとともに、年度ごとに重点テーマを設定し、分析を行っている。今回が14回目の調査となる。

 今年度は、「ビジネスイノベーションへの挑戦」、「ハードウェア・ソフトウェアライフサイクル、アップグレードに関する諸問題」を重点テーマとして調査している。

 調査は、2007年10月26日に、大手企業を中心に、IT部門長宛に4000社、経営企画部門(利用部門)宛に4000社へアンケート調査票を発送。11月27日の期限までに、IT部門で634社、利用部門で683社からの有効回答を得ている。A4サイズで24ページにわたる詳細な調査内容になっている。また、2007年11月から2008年2月までに、40社のIT部門長、5社の経営企画部門に訪問し、インタビュー。これも調査内容に反映している。


3年連続での増加傾向に

JUAS・原田俊彦常務理事
 企業のIT投資については、2007年のDI値(Diffusion Index=増加と答えた割合から減少と答えた割合を引いた値)は、前年度の26から12ポイント上昇し38に達し、「これから当面の間、2007年度が、21世紀で最もIT投資が活発だったといえるほど、積極的な1年だった」(同協会・原田俊彦常務理事)、「景気回復を背景にして、IT投資が増加しており、実感よりも高い数値になっている」(調査部会・宇羅勇治委員=システムコンサルタント)とした。

 1社あたりの平均予算額も2006年度の23億4800万円から、25億8200万円へと増加している。また、減収減益企業もDI値が20ポイント増加しており、業績に関わらず、IT投資が活発化した1年だったという。

 「本格的な景気回復により、企業の業績が好調であること、企業競争力強化のために各社がIT投資を積極的に進めていることが要因」と分析した。

 2008年度の投資予測では、DI値が15となり、前年度に比べると減少傾向にあるが、「2007年度のIT投資予算の水準が例年になく高かったこと、DI値が依然プラスであること、調査時点での2008年度の業績予想が好調であったことから、IT投資の山は越したものの、引き続き堅調に推移する」(原田常務理事)とした。

 売上高に対するIT予算比率は、2006年度の1.12%から、2007年度は1.28%に拡大。とくに金融では、1.30ポイントの増加となる6.00%に達している。「金融系の投資が、突出して積極的。三菱東京UFJ銀行での本格的なシステム統合をはじめ、生保での投資が活発化していることが背景にある」(同協会・永田靖人常務理事)とした。


2007年度のDI値は12ポイント上昇の38に 増収増益企業のIT投資がより活発化

新規投資開発比率が4割に

新規投資割合は年々増加
 新規開発投資については、2006年度実績として、初めて実績ベースで投資全体の40%に達した。2007年度の計画ベースでも43%となり、新規開発投資が拡大していくことを示した。なかでも、金融、サービス業では50%を超える新規投資となっているのが特筆される。

 また、今回の調査から、IT予算の年度内執行率を初めて調査。保守運用費では、98%とほぼ予算通りに使われているのに対して、新規投資予算に関しては、89%にとどまっていることがわかった。

 売上規模が大きな企業ほど、予算執行率が低くなっているほか、一方で、予算超過も多いという傾向が出ている。売上高1兆円を超える企業では、25%の企業しか予定通りに執行していなかったという。同協会では、規模が大きくなるに従い、プロジェクトの大幅な遅延、中止が発生するリスクが高くなり、予算の未達が発生するケースが多いという実態を反映していると見ている。


Vista導入企業は14%にとどまる

 注目を集めているSaaSについては、64%のユーザー企業が関心があると回答するなど、ITサービスのなかで最も関心度が高いとされており、すでに導入済みとした企業が17%、検討中あるいは未検討だが関心があるとした企業は47%に達している。

 「関心はかなり高まってきており、情報系業務システムではSaaS利用が大幅に増加している。だが、本格的な導入はこれからといえる」(原田常務理事)としている。

 Windows Vistaについては、86%の企業が未導入である一方、76%の企業がWindows XPのPCクライアントを、2007年度中に新規に増設したとしている。Vistaの導入が進まない要因として、新機能が企業ユースでは訴求力が少ない点、高スペックのCPUや大量のメモリを必要とする点、業務用に開発したソフトの互換性の問題などがある、と分析している。

 「OSの移行によって、ユーザー利用現場で開発したシステムまで、カバーできないなどの問題があり、なかには、Vistaの導入を極力遅くしたいという声もあるほど」(原田常務理事)という。

 BCP(事業継続計画)に関しては、BCPを策定する予定がないという企業が、2005年度の47%から、2007年度は19%にまで減少しているものの、実際に運用している企業は15%にとどまっているという。BCPの想定リスクの大半は、「自然災害リスク」と、「システム障害」となっている。


SaaSの利用が大幅に増加 Windows Vistaは9割弱の企業が未導入 BCPへの関心を持ち始めたものの、備えはまだまだ

ライフサイクルでベンダーとユーザーにギャップ

JUAS調査委員会調査部会・浜田達夫部会
 今回の重点テーマとして掲げた、「ビジネスイノベーションの挑戦」では、ビジネスイノベーションを、ビジネスモデルの変革と、ビジネスプロセスの変革の2つに分類。ビジネスモデルの変革にIT部門が主体的に関わっていると答えた大企業は全体の20%となったのに対して、ビジネスプロセスの変革は28%としており、IT部門が日々の業務のなかでイノベーションを推進していく役割を示す大企業が多いことがわかったとした。

 だが、ビジネスプロセスの変革では、半数以上の企業が期待に応えられているとしたが、ビジネスモデルの変革では、2~3割の企業しか期待に応えられていないという状況も浮き彫りになった。

 「金融分野においては、高い比率で経営層の期待に応えられているものの、その他の産業では、むしろ期待されていないという傾向があり、二極化の傾向が出ている」(同協会調査委員会調査部会・浜田達夫部会長=日本情報産業常務取締役)、「ビジネスイノベーションを理解できる人材の育成、確保が、企業にとって共通の課題になっていることも浮き彫りになった」(原田常務理事)とした。

 また、もうひとつの「ハードウェア・ソフトウェアライフサイクル、アップグレードに関する諸問題」では、企業の基幹業務システムのライフサイクルは平均14年となっていることが明らかになる一方、ITベンダー側では、最大で10年と認識しており、ユーザー企業とベンダーとの間にギャップが見られている。

 70%の企業が基幹業務システムは作ってから10年以内だが、21年以上使っている企業も8%あった。

 さらに、保守停止やサポート打ち切りで困った経験がある企業は、ソフトウェアとサーバーでは約6割に達している。とくに大企業では7割を超える企業で、ソフトウェアのサポート打ち切りと、サーバーの保守停止に困っている実態が明らかになったほか、アプリケーションやソフトに関しては、サポート打ち切り後も、新たな変更、改良を行わず、そのまま使うとした企業が3割もあることもわかった。

 企業側の実態と、ベンダー側の体制とにも大きなずれを感じざるを得ない。


ITを活用したビジネスイノベーションの達成状況 企業の基幹業務システムのライフサイクル アプリケーションパッケージのサポート打ち切りへの対応状況


URL
  社団法人日本情報システム・ユーザー協会
  http://www.juas.or.jp/

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( 大河原 克行 )
2008/04/14 13:32

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