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エンタープライズ視点でみたIDF上海レポート【後編】

NetTopとNetBookは企業に最適?

 4月2日から2日間、中国・上海で開催されたIntelの開発者向けセミナー「Intel Developer Forum 2008(以下、IDF上海)」では、MID(Mobile Internet Device)にフォーカスがあたっていた。しかし、エンタープライズのマーケットを考えれば、Atomプロセッサを利用したNetTopやNetBookが非常に気になる。ここでは、エンタープライズの視点でNetTopおよびNetBookを見てみたい。


低消費電力とパフォーマンスが特長のDiamondville

既存のCeleronとAtomプロセッサZ500シリーズ(Silverthorne)、Atom N270(Diamondville)の大きさの違い。こうしてみると、Z500の小ささがよくわかる
 NetTopやNetBookのCPUとしては、AtomプロセッサのDiamondville(開発コード名:ダイヤモンドビル)が使われる。Diamondvilleは、MID用のSilverthorne(開発コード名:シルバーソーン)と同じCPUだが、若干パッケージが異なる。Silverthorneのように、小型化するのではなく、現在のCeleronなどと同じパッケージを使用している。

 これは、Diamondvilleが、MIDのようなモバイルデバイスではなく、既存のPCでの利用を考えてのことだ。AtomプロセッサZ500シリーズ(Silverthorn)では、仮想マルチスレッド機能をサポートするHT(Hyper Threading)機能、インテルVT(仮想化機能)、SSE 3、IA32などがサポートされている。

 Diamondvilleは、正式に発表されたわけではないが(6月頃に正式発表される)、ほとんどAtomプロセッサZ500シリーズと変わらないだろう(一部では、Intel64サポート、インテルVT機能のオフ、デュアルコア版の提供などもいわれている)。

 Diamondvilleの最大の特徴は、低消費電力性とパフォーマンスだろう。実際、Diamondvilleのクロック数など詳細が発表されていないため、Diamondvilleと同じAtomプロセッサZ500シリーズ(Silverthorne)から推測するしかない。

 AtomプロセッサZ500シリーズでは、1.8GHzでHTをオンにした場合2.4Wとなっている。パフォーマンスとしては、現在のノートPCのCPUとして利用されているCore 2 Duo(Penryn世代)より2世代ほど古いA100/A110(Pentium Mの低消費電力版)よりも、高いパフォーマンスを持つとしている。A100/A110は、昨年の夏に発表されたIntel Ultra Mobile Platform 2007に使われている(国内では、富士通のFMV-BIBLO LOOX UなどのUMPCに使われている)。何よりも驚くのは、A100/A110では5.5WほどのTDPが、AtomプロセッサZ500シリーズでは半分以下の2.4Wにまで落ちていることだ。

 TDPの低下は、CPUを冷やすためのCPUファンなどが必要なくなるだけでなく、低消費電力で動作するため、同じバッテリでも長時間動かすことができる。


インターネット利用がメインのNetTop・NetBook

Intelでは、MIDとNetBookとNoteBookを用途別に分けている

NetTopとNetBookは、インターネット利用がメイン
 Intelでは、Diamondvilleを使ったノートPC「NetBook」、デスクトップPC「NetTop」というカテゴリを新たに作成した。NetBookやNetTopは、インターネットに接続して利用することをメインにしたPCのカテゴリだ。動作させるアプリケーションとしては、Webブラウザやメール、オフィスソフトのビューアや簡単な編集(Excelのマクロをガリガリ使うPCではない)などを行うモノとしている。このため、OSとしては、Windows XPやLinuxなどをターゲットにしている。

 IDF上海でDiamondvilleを紹介したIntelモビリティグループのジェネラルマネージャー兼上級副社長のDadi Perlmutter氏によれば、「NetTopやNetBookは、先進国ではセカンドPCとして、発展途上国ではファーストPCとして利用されるだろう。両者とも、インターネットの利用が目的の中心となる。このため、既存のノートPCやデスクトップPCとはすみ分けができるだろう」と話している。

 価格に関しては、NetBookは400~500ドルあたりから、NetBookは200ドル台で販売できるだろうとしている。実際には、PCベンダーが発売するため、Intelでの想定価格だが、多くの台湾、中国メーカーでは、このあたりではできるとしている。ただ、この価格は、最下位機種となるため、メモリを増設したり、HDDの容量を増やしたり、SSD(Solid State Drive:フラッシュメモリをHDとして使うもの)を使用したりするともう少しコストアップするだろう。


NetTop・NetBookは企業への導入に最適

NetTopとNetBookのデザイン
 NetTopやNetBookの仕様を見ていると、インターネット専用のPCよりも、企業での大量導入に向いているかもしれない。

 NetTopとNetBookは、インテル945Gというグラフィック機能を内蔵したチップセットもしくは、SISの671/968というチップセットが使用されている。945Gは、3世代ほど前のチップセットのため、グラフィック機能はあまり高いパフォーマンスを持っていない(DirectX9はサポートしている)。このため、高いグラフィック機能が必要なVistaではなく、Windows XP Homeが推奨されている。

 NetTopは、PCIやPCI Express 1.0などのバスを出すことができるため、外部グラフィックカードを搭載することもできる。これを使えば、Vista Aeroを十分に動かすこともできるだろう。ただし、メモリやHDもそれなりに拡張する必要があるため、NetTopのコストもアップする。

 NetTopのハードウェアスペックを見ていくと、2世代ほど前のデスクトップPCということができる。ただ、CPUが低消費電力になっているため、CPUファンやケースファンなどを使わなくても済む。また、冷却にそれほど気を使わなくてもいいため、ケースも小型のモノができる。デスクトップ用としては、容量は少ないがオンボードにフラッシュメモリを搭載して、SSD(2、4、8GBなど)として、OSなどが最低限の動作ができるようになる。

 NetTopは、フル機能のデスクトップPCとして使用するには、パフォーマンス不足だが、Windows Server 2008のターミナルサービスを利用したり、RemoteAppを使ってサーバー側でアプリケーションを利用するには十分な性能を持っている。コスト的にも、シトリックスやWindows Server 2008のターミナル端末としては、少し割高だが、メールやWebブラウザなどのちょっとしたアプリケーションなら、NetTop自身で動かせるため、シンクライアントとファットクライアントのちょうど間の使い方ができるだろう。

 HDDもSSDを使えば、高速になるし、容量の少なさも、クライアントにはデータを保存せず、サーバー側に保存するというようにすれば、強固なセキュリティが構築できる。


NetBookのハードウェア構成。HDDではなくSSDとなっているのが特徴
NetBookとNoteBookの違い。NetBookは、SDビデオだが、NoteBookはHDビデオをサポートしている
NetTopのハードウェア構成

NetTopとデスクトップの違い。NetTopはインターネットアクセスが中心
 また、NetBookは、十分に軽量化され、薄い製品が開発されれば、2キロ近くあるフル機能のノートPCを持ち歩かなくても済む。NetBookでもSSDの容量の少なさは、インターネット接続を前提にサーバーにアクセスすることを必須にすれば、それほどローカルにデータをため込まなくても済む。

 また、NetBookなら、盗まれたとしても、SSDに重要なデータが入っていないため(データはサーバー側)、大事には至らないだろう。

 ただし、NetBookは日帰りや1~2日ぐらいの出張にはいいが、ある程度の日数の出張や出先である程度のパフォーマンスを必要とする作業を行うには、性能やディスク容量が足らない。こういったときには、フル機能のノートPCを組み合わせて使うことで、使い勝手のいいモバイル環境ができあがるだろう。

 NetTop、NetBookとも企業で利用する場合に問題になるのが、OSがWindows XP Homeということだ。NetTop、NetBookでもXP ProやVista Businessを動かすことはできる。しかし、快適に動かすには、ディスク容量やメインメモリを増設しなければならない。また、サーバー側がWindows Server 2008に移行して、クライアントもVistaレベルでの管理となっていくと、NetTopやNetBookでXPが残るのはよくない。やはり、クライアントレベルは合わせるべきだろう。

 将来的にデュアルコアのDiamondvilleがリリースされたり、Silverthorne/Diamondville世代の次世代CPUとなるMoorestown(開発コード名:ムーアズタウン)が出れば、周辺チップを合わせて、クレジットカード大のマザーボードでノートPCが構成できる。パフォーマンスもMoorestownでは、Silverthorne/Diamondville世代よりもアップする予定だ。

 企業でNetTop/NetBookの利用を考えるなら、現在のNetTop/NetBookで導入を検討して、実際の導入は09年の初夏にリリースが予定されているMoorestownを利用すればいいだろう。


Intelでは、2009年には、次世代のAtomプロセッサ「Moorestown」を提供する予定だ
次世代のMoorestownは、クレジットカード大にマザーボードが収まる
Intelでは、NetTopとNetBookが今後急速に拡大していくと予測している

 もう一つ、問題になるのがNetTopやNetBookの価格だろう。台湾や中国のメーカーでは、NetTopが200ドル台、NetBookは400ドル台と話していた。しかし、エンタープライズ分野で実績のある日本のPCメーカーがこういった価格の製品に手を出すかどうかはわからない。利幅も薄いし、製品として数が出るかどうかはわからないからだ。ただし、HPやデルなどのワールドワイドのPCメーカーは、NetTopやNetBookの発売を検討しているので、これらのメーカーを選択肢に入れれば解決するだろう。

 Intelでは、NetTopやNetBookはインターネット端末やセカンドPCと位置づけ、製品のマーケティングを考えているが、実はエンタープライズにこそマーケットがあるのではないだろうか。そう考えれば、もう少しNetTopやNetBookの仕様を変更する必要があるかもしれない。例えば、企業に向けたvProのブランドをNetTopやNetBookに導入することで、セキュリティ面での先進性を訴えるなどのマーケティングも考えられるだろう。

 とにかく、IT管理者にとってはNetTopやNetBookは、ガジェットとしてだけでなく、企業システムとしても注目に値する製品となるだろう。



URL
  Intel Developer Forum
  http://www.intel.com/idf/


( 山本 雅史 )
2008/04/16 00:00

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